9月リクエスト-6
-jealous-
寒い。寒すぎる。
ごそごそと服を漁り、冬服を取り出す。
厚めのトレーナーを着込んで下に行くと、母もカーディガンを着込んでいた。
「トモくんおはよう」
「おはようございます」
ぺこっと頭を下げて、朝食のお手伝い。
って言っても、もうあとはごはんやおかずをよそってテーブルに運ぶだけだ。
ちっ。俺としたことが寝坊したか。
ニートの肩身は狭いのだ。勤め人がちゃんと気持ちよく仕事にいけるように、送り出してやらねばならん。
「母さん、残りやる」
「あら、ありがとうトモくん。じゃあ母さん化粧してくるから」
慌しく言って離れようとした母が、何かに気付いて足を止める。
「トモくん糸くず......」
母が気付いたのは、トレーナーについていた糸だった。
言いながら糸を取ろうと手を伸ばし......。
ぴーっ。
「......」
「......」
互いに顔を見合わせる。
母が糸くずだと思っていた糸は、トレーナーから出ていたものだった。
引っ張ったせいで、解れていた糸が解けてびよんと長くなる。
「あらやだ」
ほほほと笑って、母は糸を切ってくれた。
「そのトレーナーも、トモくんいつも着てたものね。もう古くなったのかしら」
キッチンを離れる母にそう指摘されて、俺は自分の着ている服を見た。
襟ぐりがよれたトレーナー。履き古したジーンズ。足元には穴の開きそうな靴下。
洗濯もしているし、清潔ではあるけどやっぱりちょっと......という風貌だと自分でも思う。
外に出なくなってからは、別段気にしたことはなかった。
多少形が崩れてようが、穴が開いてようが。
だけど。
「......」
朝食を出して、家族をみんな送り出してから、俺は自分の部屋に戻った。
古着というにも、古いデザインの服や、安物ばかり。
次いで、自分の預金通帳を見る。
少しの間、バイトで稼いだ金が多くはないがそこにはあった。
俺がヤツに買ってやった時計は、それほど値段の高いものじゃない。ただ、俺の持っている時計と同じものを買ってやりたかった。
母にはブローチ。父にはネクタイピンをプレゼントした。兄にはキーケースを買い与えてやった。
喜んでくれた両親とは別に、「こんな安物」と鼻で笑いやがった昭宏。
ずけずけと貶してくれた割には、デザインが気に入ったのか翌日から使っていたようだ。
ヤツだけじゃなく日頃お世話になっている家族にもプレゼントして、残りは生活費にでもしてもらおうと思い、母に渡したら拒絶された金が通帳には入っていた。
ぽかんとしていた俺に「自分の好きなものを買いなさい」と、苦笑した母は言ってくれた。
買いたいものなんてない。そう思ってしまっていたけど......。
「......」
ぽやんと脳裏に浮かぶ、ヤツの顔。
見た目も良くて、性格も良くて、行動力もあって。
そんな男が、俺の恋人。
考えて、1人で赤くなってしまう。
ぷるぷると頭を振って、雑念を払った。
あいつは気にしないかもしれないけど、もうちょっと、身綺麗になったほうがいいような気がする。
そしてかっこいいね、と言われるんだ俺は。
ぎゅっと通帳を握って、俺は服を買うことに決めた。