四陣-3
「しの、か......?」
厳重で物々しい雰囲気に俺は息を飲んだ。
「ああせねば、今の西埜風は瘴気を撒き散らす。そうなれば民も避難している皇居にも置いてはおけぬからな。......あの布が目隠しとなるが、この中で閨房の儀が貴様にできるか? まあ、出来ずともしてもらうがな」
軽薄な口調だが、経親の眼差しは真摯だった。俺にうず煮を勧めた頃のような余裕はもうない。
「あのさ、西埜女だけじゃなく、西埜風とはどういう仲なわけだ?」
つい不思議に思ってつい問いかけると、経親の視線が少し彷徨った。
「.........単なる、乳兄弟だ。あの姉弟は皇位はないが、巫覡として扱いが別だったからな。年の近い俺と一緒に育てられた」
微妙な感情を滲み出した経親の表情は傲慢そうななりが潜んでいて、それが思ったよりも経親を若く見せて俺はひっそりと驚く。
「お前さ、年いくつよ」
「二十四だが?」
「にじゅうよん......」
四歳も年下の男にいいように扱われたのか俺は......。
なんとなく無性にやるせない気持ちになりながら、俺は経親の腕を払った。
「言われなくても俺がしのかを救ってやるから、そこで見てろよ」
「では今度は俺が貴様の手並みを見てやろう」
にやりと口元を歪めた男は、そのまま部屋の端で座り片膝を立てて壁に寄りかかった。
俺は羽織で顔を隠したまま祈祷を続ける神主の合間を危なげに抜けて、注連縄の下をくぐる。注連縄が高い位置にあって助かった。もし一度でも膝を付いたらそのまま倒れ込んじまう。
ただ注連縄をくぐるために、わずかに屈んだときに違う角度で張り型が擦れて、俺は小さく呻いた。これ以上見えるところで失態は取りたくない。俺はふらついたまま天井から吊るされた布の合間に身体を滑らせる。
「わっ......」
布が畳の上で弛んでいるせいで、足を取られた俺は、帳の中に倒れこんだ。転んだせいで、ずくりと内側を刺激されて奥歯を噛み締める。
だからすぐに、しのかの様子に気付かなかった。
「ぅ、ぐ......ぅうう」
苦しげに漏れる声に俺ははっと見上げる。
そこには手を背中で縛られ、膝を付いたままのしのかがいた。目元は何かを書かれた布で目隠しされ、口も同様の布で猿轡されている。鎧は脱がされ、ラフな格好になっていたが、服が汗で張り付いていた。身じろぎするたびにしのかの身体から、霞みのように黒い瘴気が現れては周囲の結界に打ち消されていく。
それが瘴気を孕む肌をも焼き、しのかは呻き声を上げた。またそれで身じろぎしてしまい、瘴気が溢れて結界がしのかに静電気のように刺激を与える。
それの繰り返しだ。
一つ一つは小さいようだったが、ただでさえ瘴気に苦しめられているのに、こんな刺激が継続して与えられていれば休まる余裕もないだろう。
こんな状態だったなんて......。
俺は息を飲んで、そっと這うようにして近づいた。つま先に手で触れると、しのかはびくっと反応して身を引く。
「うぅう......っうー」
首を横に振ったしのかは自由の効かない身体で後ずさった。俺だと気付いてはいないようだが、自らの状況を理解して触れさせないためのその行為に、俺は胸が締めつけられるような思いだった。
今、助けてやるから。
少し躊躇したが、俺はそっとしのかの後頭部に手を伸ばし、口を封じていた布を取り外す。唾液を吸って重くなった布を吐き出したしのかは、何度か喘ぐように口を開いた。
途端に、口からも瘴気が湧き上がる。察するに目も瘴気を封じるための布だろう。
「......誰だか知らないが、俺に寄るな。穢れるぞ」
自分が苦しんでるにも関わらず未だに人を気遣うしのかに、俺は泣きたいような気持ちで笑った。
俺がそっとしのかの頬を両手で包み込む。それにも身を引こうとするが、構わず俺はその厚めの唇を自分の唇で塞いだ。
「んぐ......っ?!」
突然の口付けに、しのかは驚いたように身じろぐ。立ち上る瘴気が結界に弾かれて霧散するが、その際に起こる火花で、俺の肌も弾かれた。思わず声を漏らしてしまう。
「ったぁ......」
「......おい、わかっただろ。早く離れ......んぅ」
もう一度口を塞ぎ、しのかの下肢に手を伸ばす。バチバチと身体のあちこちを跳ねる静電気が痛みをもたらすが、しのかの状態を考えれば耐えられた。
「おい......なにを」
「今から、交わりでお前の中の瘴気を俺が取り除く。......神通力を通すから、苦しくても耐えろよ?」
「幸彦......?」
耳元で囁いた声に、しのかの身体が震えた。俺の肩に自分の肩をぶつからせて押し、すぐさま身を引いて俺から離れる。天を見上げたしのかが吼えた。
「経親、貴様か! 幸彦をどうやって人に変えた?! いやそれより、早くここから幸彦を連れ出せッ!!」
「しのか」
怒鳴るしのかの身体を押さえ込むように抱きつく。瘴気に肌が巻かれ息苦しくなるがそれも耐える。
「触るな幸彦! ......経親ッ!!」
悲痛な声だった。だが布帛の外側からは返事もない。俺は俺自身にしのかの意識を向けさせるために、少し乱雑にしのかの衣服を肌蹴させていく。露になった胸には西埜女が抱いていた赤い鏡が鏡面を内側にして埋まっていた。
この鏡が元で、しのかの身体は瘴気を纏っているのかと思うと、どうにかして外してやりたい。
だが引っかいた程度ではその手鏡は外れず、相変わらず奥に埋まったままだ。
「っ、おい、頼むから、離れてくれ幸彦......今の俺は瘴気の塊で、お前の身体にも毒となる。俺は物の怪になるぐらいなら、潔く死ぬ覚悟は出来ている。......だから触れてくれるな」
「っ嫌だ! ふざけたこと言うなよ!」
逃げを打つ身体にすがりついて、強く抱きしめた。手の自由が効かないしのかは、もがくことは出来ても俺から離れられない。
それを見て俺はしのかの身体にぎこちなく手を這わせた。......これは俺しかできない、ことなんだから。
股間の部分を寛げて、俺は指を中に差し入れる。大きく身体を跳ねさせたしのかを他所に、そっと優しく男の性器を取り出した。今は力なく俺の手のにあるが、これが硬くなるのを、感覚で覚えている。
「幸彦......? なにを......」
当惑した声だった。目も見えないで動けない状態のせいか、その声は少し警戒が含まれている。
俺はそんなしのかの下肢に、顔を埋めた。少ししのかの体臭を嗅いで、身体が熱くなるのを自覚する。
夢で交わったときのように、俺の身体はしのかに合わせるように作り替えられたようだった。男のペニスを見て、匂いを嗅いで興奮するなんて......。
羞恥を感じてはしたないと思う反面、しのかだったら許せた。だから俺は大きく口を開けて、しのかの陰茎を口に含む。
男性器を舐めたのは生まれて初めてだった。一度全部を口に含んで唾液をまぶしてから、手や舌、唇で刺激を与える。
「っ、幸彦、お前......!」
「ふ......ぁ、っ......大声、出すな......人がいるんだから」
俺の指摘に祝詞の唱和を思い出したしのかは、周囲の状況を探るように顔を動かす。それを見上げながら俺はペニスを舐めた。手で優しく刺激を与えながら根元から先端を舐めて、口の中で育ってていく。その状態で息を吸い込むと、深く肺を満たす雄の匂いにくらくらする。
「言っただろ。交わるって......こ、こんなところで、俺とエッチ......性交渉、なんてしたくないかも、しれないけど......これしか、お前を助ける方法が、ないんだ」
「何を言っている。俺は......」
「黙って言うこと聞けよ。俺はお前のせいで、こっちに残ることになったんだから。一人で、死なせたりなんてするかよ」
先端の溝を舌先で舐めて、陰嚢を揉んだ。わずかに感じる雄の味に、俺は大きく息を吐きながら腰を揺らす。そっと手を後ろに回して、張り型を握った。
「っう......残る? おい、もしかしてうず煮を食ったのか?」
「うるひゃい......ん......俺のことを考えるなら、黙ってされてろ」
性器に口淫を与えながら自分のアナルを張り型でかき回す。受け入れることを考えての動作だが、これシラフでやったら羞恥で死ねるだろう。
薬のせいでふわふわして夢見心地なことを良い事に、俺は大胆に張り型を抜き差しした。水音は、きっとしのかの耳にも届いてる。
だがしのかのモノは、挿入出来るほどの硬さまで変化しなかった。周囲を散る青白い光と、黒く身体に絡む瘴気が快感を打ち消しているのだ。俺もこの状態で長居はできない。
出来るだけ早く、しのかのからだの瘴気を昇華しなければいけないのに、反応の鈍いペニスに泣きそうになる。
「なあ......辛いかもしれないけど、勃たせろよ......俺の中に入れないといけないんだから」
ぼやきに近い囁きに、しのかの頬にわずかに赤みが差した。少し反応を見せたしのかのペニスに、俺はごくりと喉を鳴らす。
これは、あれか......? いわゆる言葉攻めって、やつ......?
ペニスの反応は上々だ。俺はここぞとばかりにしのかの耳を甘噛みする。
さらに勃たせようとしのかの陰茎を片手で扱いて、俺は背伸びをしてしのかに抱きついてキスをした。
「あ、あのときみたいに......入れたいだろ。お、俺の、腹ん中、これで、かき回して......いっぱい、出したくなる、だろ......?」
「やめろ......ゆき、ひこ」
戸惑う気配が伝わる。しのかが言いたいこともわかる。こんなこという俺に幻滅してもいい。
でも今だけでもいいから、俺を受け入れろよ。
「ゆ、めじゃなくて、俺の、身体......触って、いっぱいだ、して......こんな、玩具じゃない、お前ので......して」
脳裏に浮かぶのは昔見たAVだ。俺は今AV女優だ。だから恥ずかしいなんて思わない。大丈夫。......大丈夫。
男としてのプライドはもうぼろぼろだった。陰茎を欲しがって女みたいにアナルで張り型を受け入れて、男のペニスを舐めて、しのかに聞こえるように淫らに誘う声は、自分で聞いていても甘くいやらしく聞こえた。
「俺がここまで、......っこんな事、やってやるのは......ぁあ......お前だけ、なんだからな......っ」
まずった。ついつい恨みがましく言ってしまった。もう余計なことは言うまいと目を伏せると、俺の手の中でギンギンに硬くなったものが、よだれを垂らしていた。
反り返ってビクンと震えた性器に、まだきちんと雄を受け入れたことがないはずの蕾が、きゅうっと張り型を締め付けて熱い吐息が漏れた。