そのはち-6

 だがぎろりと春樹を睨みつけると、下半身を刺激する春樹の手首を強く握って捻り上げた。
「いっ」
「なに自分勝手なことしようとしてんだよ」
 博也はそれほど力を入れていないようだが、ねじられた腕の方向のせいか少しも腕を動かせられない。
「博也」
 触りたいのに、触れない。
 拒否された気分になった春樹は、博也の手から逃れようと身体を揺さぶる。
 博也に跨ったままそんな動きをするせいで、下肢の敏感なところが湯の中で触れ合った。
 ごりっと尻の狭間に感じる堅さに、春樹は視線を下に落とす。
 神妙な顔でソコを眺める春樹に対し、博也は苛立ったように舌打ちをした。
「博也、勃ってる」
 自分で反応してくれたことで、少しばかり弾んだ声で呼びかける。
すると、博也に手のひらで口を塞がれた。
 春樹がわずかに目を見開くと、博也は春樹の耳元に顔を寄せる。
「うるせえから喋んな。それと勝手に動くな」
 冷えた声に春樹は指示通りに動きを止めて押し黙る。
 静かになり動かなくなった春樹に、博也は耳朶をねっとりと舐めた。
「俺がやる。だからてめえは動くんじゃねえぞ」
「っ」
 耳朶から唇で首筋をたどり、鎖骨に噛みつかれた。
 痛みに怯えるよりも博也がやる気になってくれたことが嬉しい。
 博也は春樹と位置を変え、浴槽のなだらかな壁に寄りかからせると、いじり過ぎて赤く色づいている突起に触れぬように胸板をなでる。
 春樹の足を割り開くように間に博也の胴があるため、春樹の片足は浴槽からはみ出していた。
「えっろ......」
 湯の中に屈折して見える下半身。
 博也が腰回りをなでると春樹は目を閉じて息を吐く。
 動くなと言われた春樹は動かずに博也の行動を眺めているが、与えられる感触から快感を拾うのは難しい。
 けれど、博也に触られるのは嬉しかった。
 指で春樹の胸の突起に触ろうとした博也は、少し考えると顔を寄せて軽く舌先でそこをつついた。
「いてえ?」
「いや」
「ふーん......」
 ちろちろと突起を舐めた博也は、ちゅくっと口に含んだ。
 噛みつきもせずに優しく春樹の突起を唇で食んだり舌の平で愛撫してくる。
 ぴりっとくる痛みもあるが、慣れるとそれがくすぐったい。
 手で触れられるよりも優しい刺激だ。
 手の平は湯の中で春樹の腰をなでて、丸みのない尻にたどり着く。
 指で狭間を割り開かれて春樹は小さく息を吐いた。
 身じろぎすらせずに博也の手に身体を委ねていた春樹は、下ばかり見ている博也と視線が合わないのが嫌でそっと博也の頬を撫でた。
「......」
 怒られるかとも思ったが、博也はちろりと視線を上げたのみでなにも言わなかった。
 なので春樹も何も言わずに博也の頬を撫で続ける。
 すると、不意に博也が背伸びして唇を重ねてきた。
「ん......」
 緩く甘い口づけ。きつく激しいものではないのに、気持ちよくて仕方ない。
 博也も心地よいのか、何も言わずに口づけを続ける。
 何度繰り返しても飽きることがない。
「のぼせそうだ」
「そうだな......上がってやるか」
 キスの合間にそんな会話もするが、ついつい離れがたくてキスを続けてしまう。
「あっつ......やっぱ出ようぜ風呂。マジ暑い」
「ん......」
 博也が身体を離して浴槽に出ていく。それを追いかけるように身体を起こした春樹は、まだ片足を湯船に浸かったまま博也の腕を掴んだ。
 キスがし足りない春樹は、今度は自らキスを仕掛ける。
 夢中で博也の唇を味わっていると、乱雑に肩を掴んで引き剥がされた。
「勝手に動くんじゃねえって言ってるだろ!」
「......悪い。でも博也とキスがしたいんだ」
 春樹が切々と訴えると、博也はちっと舌打ちをして春樹にタオルをかぶせた。
 がしがしと身体を拭くとそのままバスルームから春樹を引きずり出していく。
「くそ......さんざん人のこと挑発しやがって」
 春樹をベッドに乱雑に押し倒すと博也は畳まれた自分の服の元に行き、ポケットから何かを取り出す。
 何かのチューブのようだが、鈍い春樹でもそれが何に使うものかは想像がついた。
 それを手にしてベッドに乗り上がった博也は、春樹の足を掴んで大きく開かせる。
 博也は息を弾ませてその部分を食い入るように見つめていた。
 あからさまな欲情に春樹は身をすくめた。
 まなざし以上にあからさまな博也の性器の反応にも気づいて、春樹はそっと目を伏せる。
 チューブから出したジェルを指にまとわりつかせ、博也はその指で狭間に触れた。
「......っ」
 その刺激で身体を起こしかけた春樹は、局部に感じたぬるりとした感触に息を詰めそうになる。
 だが、できるだけ力を抜こうと春樹は意識的にゆっくりと息を吐いた。
 指が早急に挿入されて春樹は眉間に皺を寄せる。性的な快感はほとんどないのか、春樹のものは平常のままだ。
「っ、あ......キス、してくれ」
 触れ合えればもう少し良くなるのではないかと春樹は口づけをねだるが、博也は指で中を擦ることに集中しているのか、閉じかける足を押し広げたままで顔を寄せてくれる気配はない。
「ひろ、......博也、キス......」
「少し待てよ」
「っう......」
 手のひらを上にした状態で中指をぐいっと折り曲げられた。
 鈍い痛みに顔をしかめるが、博也は春樹のペニスに変化が見えたことに目を輝かせる。
「ここか。やっぱ男も尻いいんだな」
 春樹も自分で身体を開発しようとして知っている。
 博也が刺激したのは前立腺だ。
 そこが男は良いという話だが、春樹には痛みしか感じられない。
「い......った、博也、そこ、いた......いっ」
「嘘付くんじゃねえよ。いいんだろ」
 痛いと訴えても博也は聞く耳持たずにソコばかりを刺激してくる。
 本当に痛いのに、といつの間にか閉じていた目を開くと、なぜか緩く勃ち上がっている自分の性器が見えた。
 ぐりぐりと強く指でもみ込まれる。びいんと走る痛みに春樹は仰け反った。
 けれど、急速に与えられる刺激に身体は快感を感じているかのように反応している。
 それが春樹は不思議だった。
 嫌悪感はない。触れてもらえることは嬉しい。だけど......やっぱり痛い。
「っ、あ、ああ......!」
 かすれた声に、さらに指が追加される。
 きつきつの部分を広げられることに、春樹は反射的に蹴ったりしないように自分の膝裏に手を通して押さえた。
「......んなに、欲しいのかよ」
 痛みに堪えることで精一杯で自分がどれほど恥ずかしい体勢になっているか気づいていない。


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