一流のネコ?-1
初めて出来た男の恋人は、俺...僕ががさつだと言い切った。
しっかし、僕とかいうとむずむずするんだけど。
自分自身がキモイ。
人がいる前では『僕』って言えばいいか。
「まず、身だしなみ」
「......はい」
出会ってキスして付き合おうと言ったその日から五日後。
俺は達樹の部屋の洗面台に連れ込まれていた。
ドアからまっすぐ洗面台に向かったせいで、先輩の部屋すら見ていない。
部屋に入ってちょっと落ち着いてから、さて、なんて段階はなかった。
俺の顔をかっちり掴んで、達樹は鏡と向かい合わせにする。
「自分の顔、よく見て」
「はあ......」
生まれてからずっと見てきてるから、見たってとくに楽しいわけじゃないんですけど。
「ちゃんと見てってば」
視線が動く俺に焦れたのか、背後に立っていた達樹が身体を密着させる。
すっげえ...いい匂い。
俺が達樹から立ち上る仄かな香にくらりとやられていると、ほっぺたを引っ張られた。
「意識を逸らさない。......でも、肌もちもちだね悟」
集中しろと言った達樹の方が、俺の頬の感触が気持ちいのか、にこにこ笑いながら頬をぐいぐい引っ張り、俺の肌を撫で回し出す。
「あの、えと...」
「でも、もっとすべすべの肌になるよ。洗顔はちゃんと泡立てて、落とすときはしっかり落として。......本当は化粧水と乳液で手入れした方がいいんだけどね」
お、女じゃあるまいし。そんなことまで出来ねえよ......。
本当のことを言えば、顔を洗う時なんか水だけなんてことも多い。
夜には身体洗うのと一緒に、顔も洗ってるんだから十分だと思うんだけど。
「髪の毛も少しぱさついてる。ちゃんとリンスしてる?」
「シャンプーだけだけど......つか、お、僕の性格変えるのに、洗顔とかリンスとか関係あるんですか」
「内面が変われば外見も変わる。また外見が変われば内面も変わるものだよ」
マジで?
胡散臭そうに鏡越しに見ていたのがわかったのか、達樹はくすくすと笑う。
俺はやっぱり、その笑顔に見とれてしまった。
あー...やべえこの顔も俺のオカズだな。
俺の眼差しに気付いた達樹が、目をすうっと細めた。
怒られるかもしれないと、俺は慌てて目をそらした。
「こっち向いて、悟」
ぐいっと達樹が俺の顔を自分の方向に向けさせる。
ほっそい手と腕をしているくせに、達樹は案外力が強い。
向かい合うと、達樹は俺の手を取った。
「触って」
言いながら、達樹は俺の手に頬を擦り付ける。
うわ...っ。
「達樹先輩の肌、すっごいすべすべ......」
これってきめ細かい素肌っての?
「まあ、手入れしてるから」
撫で回す俺の手に、くすぐったそうに達樹は目を閉じた。
顎のラインを撫で、薄い瞼に指の腹を滑らせる。
そして。
ずっと気になっていた、少しだけ肉厚の唇へ人差し指を伸ばした。
ふに。
「っ~......!」
なんと言ったらいいのだろう。
柔らかい。物凄く柔らかい。
ボキャブラリーの少ない俺は、じっと見つめたまま人差し指で、何度も達樹の下唇をふにふにと押していた。
「ん...」
ぱちりと達樹が目を開く。
無心で唇を触り続ける俺を、達樹はどう思ったのか。
「悟」
ぺろり。
「!」
達樹は俺の指を舌先で舐めたのだ。
「うっわ......」
ちょ......ずんってきた!ずん、て!......チンポ重い!
「かさつかないようにしてるんだよ。薬用リップ塗ってあるし。わかる?僕はこの外見を保つために......」
徐々にしゃがみ込んでしまった俺を追って、達樹の視線が下がる。
そして、呆れたような表情。
俺はへらりとした笑みを浮かべるしか出来ない。
両手はしっかりと股間を押さえていたから。
「......上目遣いの仕方もなってない!」
「えええ?!怒る部分ってそこかよ?!」
てっきり、反応させてしまった息子を責められるのかと思っていた俺は、きっぱり言い切った達樹に戸惑う。
達樹は胸を張ってふんと鼻を鳴らした。
「僕で勃たない男はみんなインポだ」
「......すっげえ自信ですね」
俺はただ感心するしかない。
すると先輩は片眉を上げた。
「なに他人事みたいに言ってるの。君もそうなるんだよ」
「お、俺が?!」
目を白黒させて、俺は自分を指差した。
「当たり前だよ悟。目指すは高嶺の花だ。いわば今の君は花屋の花。普段見向きもされない野の花を簡単に摘み取るよりは高価だけど、でも買えないことはない」
な、なるほど......?
ぐっと拳を作って力説する達樹に、俺は押されるような形で頷く。
「中途半端に可愛いから手を出される。襲われる。強姦されかける!いいかい悟。君は『可愛い』ことを極めるんだ。誰かがよからぬことを考えていたら、同じことを考える輩がそれに気付いて止めにはいるような」
ん?
「はい先生」
俺は思わずその場に正座して手を上げていた。
「なんだい悟くん」
達樹も結構ノリがよく、形のいい指で俺を指名してくれる。
「おんなじ様な考えを持った人が、一緒になって襲ってきたらどうするんですか?」
この間は一人だった。だけどあれが複数で襲われていたら、俺だって撃退できたかどうかわからない。
その質問に対しても、達樹先生様は鼻で笑った。
「君は、僕に出会う前の僕をどう思っていた?」
「どうって......綺麗で優しそうで、時々可愛くって......」
「扱いてたって言ってたけど、ソレ、リアルに僕にねじ込んで出したいとか思ってた?」
「そんな滅相もない!今だってあんまり考えてないですよ!」
指差された俺の大事な息子を俺は思わず手の中で握っていた。
い、いたい......。
そりゃ恋人同士(はぁと)なんて言われて舞い上がってたけど、実感なんて全然湧かない。
せいぜい近くにいることで、達樹の友達は忍耐強くねえと、務まらないってことがよくわかったぐらいだ。
それくらい達樹の出す無意識の色香は凄い。
「どうして?」
「なんていうか、違うんですよ。達樹先輩は、綺麗で可愛くて、ときどきえっちい顔するからオカズにしちゃうんだけど、でもそのままでいて欲しいって言うか、俺の欲望で汚しちゃいけないっていうか......」
......は!
「これですか先生!この男の微妙な気持ちですね!」
「そうだよ悟くん!その男心をくすぐって、理性的に手を出せないようにするんだ!」
「先生!」
「悟くん!」
がばっ。
師弟の熱い抱擁。
...くうう。すっげえいい匂い。
すぐに邪まな思考に支配された俺は、思わず達樹を押し倒していた。
さっきから反応しっぱなしの、俺の大事な分身も、それにつられて最高潮を迎えている。
「こらこら」
諌める達樹の声。
ぐっと、喉仏を握られた。
力を込められる。
ちょちょちょ......っまじで苦しい!
空気が吸えず、喉の圧迫される感触に、俺は慌ててその腕を掴んだ。