8月-11
俺たちは、お泊りもせずにラブホテルを出た。
薫さんも顔が腫れているし、ヤツもなんかぼろぼろだ。
俺たちは人気のない道を通って、ちいさな公園に入った。
「これ」
水道でハンカチを濡らして、薫さんに差し出す。
「ありがとう」
微笑んだ薫さんは、受け取って頬にハンカチを当てた。
綺麗な顔には、もう薄っすらと痣が出来ている。
明日になったら、更に酷くなっていそうだ。
痛々しいその姿に俺は眉根を寄せていると、とんとんと肩を叩かれた。
振り返ると、ヤツが俺のすぐ後ろに立っている。
なんだよ。
「俺には?」
良く見れば、コンビニ店員も頬骨の上の辺りが腫れていた。
......お前はいいんだよ。
ぷいっと顔を逸らすと、ヤツが俺に纏わりついてきた。
俺の腕に絡む、ヤツの腕。
引き寄せられて、俺の肩がヤツの胸にあたった。
「何で薫には優遇すんだよ」
だって薫さんは。
「女の子だから」
そう告げると、男は変な顔をした。
「智昭は優しいのね。どっかのだれかさんとは違って」
あからさまな当てつけをした薫さんに、コンビニ店員は鼻で笑ってみせる。
それから俺の耳元に唇を寄せた。
「あいつ、あんなでも立派な男だから」
別に改造してないのは知ってるぞ。ちゃんと見たもん俺。
今更何を言っているんだという俺の顔に、男は苦々しい表情になる。
「ともあきさん。あいつね、バイなんだ」
それがどうした。だれかさんのおかげで、俺もあれになったぞ。えーと、ホモ?
「あのね......ともあきさん。志穂いるだろ?あいつ、薫の元カノ。怜次は、薫の紹介で志穂に知り合ったんだ」
はい?
「薫が俺に送ったメール......俺には嘘には思えなかった。だってあいつ十分現役なんだよ?男の『彼女』がいたのも知ってる」
......。
俺は、くるっと振り返って薫さんを見た。
「なあに」
にっこりと微笑んでいる薫さんは女神のよう。
可憐で、華奢で、とっても可愛いし、美人で......。
「ほんと?」
こいつの言ってること、本当?
「嘘よ」
薫さんは、きっぱりと言い切った。
なので俺はコンビニ店員を見上げる。
「嘘つき」
俺が単純だからって、騙そうとしやがったな。
「えええ?!なんで薫を信じんの?!」
だって明らかにお前よりは信じられるじゃねえか。
俺に嘘付く理由もねえし。
「俺を信じろよ!」とヤツがウザくて、離れて距離を置く。
「智昭は可愛いわね」
手を伸ばした薫さんに頭を撫でられた。
それを見たコンビニ店員にぎゅうっと抱きしめられる。
苦しいぞ、馬鹿。
「ともあきさんは渡さないからな」
「お前も可愛いと思うよ、和臣」
低い声で笑う薫さん。
思わず俺もぎゅっとヤツに抱きつく。
......やんないから。こいつ、俺の。
抱き合う俺たちを見て、薫さんはただ笑っていた。