12月リクエスト-7


「ちょ、や......ッ、もう............か、かずおみッ!」
 思ったより、大きな声が出た。
 その声に驚いたように薫さんが動きを止める。
 別のところにいた和臣も驚いて俺を見た。
「あ」
「なにしてんだてめえ薫ッ!!」
 俺のSOSに、和臣が本気で怒って助けに来た。
 しかし薫さんも負けじと応じる。
「うるさい!じゃあ隆介返せよ!あいつで遊んでいいのは僕だけだ!」
 久々に聞いた薫さんのひっくい声。

 ......実は、2人が篠崎にちょっかい出すことを、すごく頭に来てたんじゃないだろうか薫さん。

「わかったよ!じゃあ交換!」
「わっ」
 和臣が篠崎の手を引っ張って薫さんに押し付けて、俺は逆に引っ張られてヤツの腕の中へ。
「気付くの、遅せえよ。ばか」
「ごめん」
 ぼふっとあったかい胸に顔をうずめて、俺は少しだけほっとした。
「薫さん、俺のこと心配してくれたんですか」
「心配なんてしてない!ばかじゃないのか!」
 ......薫さんってツンデレだ......。
 背後で聞こえるやりとりに、そう考えて笑ってしまう。
「ええつまんないー!もっとあきちゃんの泣きそうな顔見たかった~」
「......シホ、お前」

 志穂ちゃんの言葉は、聞こえない振りをした。



 楽しい時間はあっという間に過ぎて、4人はそれぞれ帰っていった。
 ケーキは買ってあったが6人では食べてない。
 それぞれで食べる予定にしておいたのだという。
 片づけが終わり、2人分の小さなケーキをテーブルに出す。
 甘くないビターチョコで作られたケーキ。甘いの好きじゃない俺でも、これなら食べられる。
「ともあきさん」
 さっそくケーキを切ろうと思ってナイフを握ると、和臣に呼ばれた。
「さっき、名前、呼んでくれたね。......こっち来て」
 少しはにかんで、嬉しそうに笑う。
 呼ばれた俺は一度ナイフを置いて、ソファーに座る和臣の隣に座った。
 すぐに腰を抱き寄せられて、膝の上に和臣の身体を跨ぐように向かい合わせに乗せられる。
 なんだよ。
 胸元に手を置いて、軽く首を傾げながら見つめると、和臣が俺の頬を撫でた。
「あのさ、俺。全然至らないから、全然駄目かもしれないけど」
 ん。
「俺これでも精一杯ともあきさんのこと、理解しようと思って」
 うん。......で?
 なかなか煮え切らない言い方に、くいっと和臣の手を引っ張る。
 ぎゅっと熱い手を握って、もう一度先を促すように見上げた。
「いらなかったら、えと、捨ててもいいから」
 そう言って和臣がソファーの背後から取ったのは小さな紙袋。
 なんだこれ。
 中には両手に乗るぐらいの箱が、黒地に金のデザインが入った紙でラッピングされている。
「これって、どっちかっていうと、俺の願望なんだけど」
 なにやら言い訳がましく呟いている和臣の前で、そのラッピングを剥がした。
 と、中から出てきたものを見て、俺は目を見開く。
「受け取ってくれる?......その、ごめん勝手に俺と一緒にして」
 箱から取り出して、俺はそれをまじまじと見た。
 黒い、つるんとしたフォルムのケイタイ。
 和臣と一緒のとこのやつ。
「名義、とりあえず俺のにしてあるから。あ、もちろんあとで変更してもらっていいんだけ、ど」
 ぎゅうっと和臣の首に抱きつく。
 ケイタイを、俺が昨日のうちに買ってもらったことを知らないのだ。
 今日言うつもりだった俺が、悪い。
「ごめん」
 ぼろっと涙が出た。声も涙声になってしまっている。
「な、泣くほど迷惑だった?」
 ぎゅうぎゅう抱きつく俺の様子に気付いた和臣が、慌てて引き剥がしてやる。
「違う」
 そう答えた俺は、兄の食事会のときに和臣の発信、着信履歴があったことを知ったこと、それで微妙な態度を取ってしまったこと、おそらくそれが要因で、兄から昨日ちょうど、ケイタイを買ってもらったことを伝えた。
「そっかあ......」
「ごめん。早く、言わなくて」
 がりがりと頭を掻く和臣に、申し訳なくて俺は頭を下げた。
「ごめんなさい。すごく、嬉しい。......けど、ほんと言わなくて、ごめん」
 ......俺って、最悪じゃねえ?
 謝りながら考える。
 和臣が俺の欲しいものを、気付くと思ってなかったんだ。
 こいつは、俺のこと、いつも一番に考えてくれてんのに。
 そう考えるとますます涙が溢れてくる。
「泣かないでよ、ともあきさん」
 和臣は俺をどう扱っていいかわからない様子で困り顔だ。
 泣き止まなければ、と思うたびに涙は出てくる。
 ちくしょう、普段こんなに泣かねえのに。
 自己嫌悪で沈みながら、再度口を開いた。
「い、一番にもらえなくて、ごめ」
 俺の謝罪が遮られる。
 ちゅっと優しいキス。
「俺からのプレゼント、嫌じゃねえんだよな?」
「ん」
 こくこくと頷く。
 返せって言われても返さねえぞ。
「じゃ、ごめんじゃなくて、もっと違う言葉をくれると嬉しいな」
 違う言葉?
 きょとんとして見つめると、和臣は俺を見つめ返しながら待ってくれている。
「えと、.........ありがとう」
 そう告げると、和臣はてれたように笑ってくれた。
「ありがとう。かず。......好き」
 笑ってくれたことが嬉しくて、俺もほっとして微笑む。
「俺はともあきさんが、ようやく名前呼んでくれたことが嬉しいよ」
 ずっと呼んでくれねえんだもん、と和臣は唇を尖らせる。
 だって、なんだか、気恥ずかしかったんだよ。
 俺も同じように唇を尖らせて、それから軽くキスをした。
「今日は、泊まって行く、から......」
 後半はだんだんと尻つぼみになりつつ、俺は和臣の手を自分の腰に回させる。
「それって、......最後までいいってこと?」
 ごく、と和臣が喉を鳴らした。様な気がする。
 顔を見る余裕がなくて、胸に顔を押し付けて頷いた。
「じゃあ、恋人らしくあまく、いきますか」
「へ、っうわ!」
 にやっと笑った和臣に抱き上げられて、寝室へと向かう。
「け、ケーキ、は?」
 あと俺からのプレゼント!
「大丈夫、ちゃんと食べる」
 言いながら、ヤツは俺をベッドに下ろした。
 和臣の瞳にちらちらと見える、欲情の炎。
 うう......。
 それにじん......と俺まで熱くなる。
「覚悟、してね」
 そう囁いた和臣の声は、甘く掠れていた。



 結局ケーキは、食べたと言えば食べた。食べてないと言えば食べてない。
 ......和臣お前、食べ物で遊んじゃいけませんって習わなかったのか?
 人の肌に塗りつけて舐め取るなんて、変態を超えて大変態の域だぞ。
 バイトで少し体力がついたとはいえ、色んな体勢で、その、和臣に付き合わされた俺は、力尽きていつものように寝た。
 俺からのプレゼントは、翌朝になってしまった。
 色違いで微妙にデザインが違うケイタイのストラップ。
 完全なおそろいは恥ずかしいので止めにした。
 早く渡したくて起き抜けに頑張って手渡ししたら、それでまた大変態のスイッチを入れてしまったらしく、大変な目に合わされた。
 半脱中ニートの体力が、現役大学生の体力と同じぐらいだと思ってんじゃねえぞ、ばか。


 それでも一番最初に登録した番号は、変態の馬鹿の番号だった。


←Novel↑Top