1月-4


「ん......」
 ぽやんとしたまま和臣を見る。
 ぬるっとした感触が、性器よりも奥まったところにある。
「っく、あ......ん」
 最初は緊張を解すように、ゆっくりと表面をなでられた。
 ソコを使うのは、久しぶりな気がする。
 大抵は抱き合って、その、互いに触れ合うぐらいしか、してない。
 ヤツの指が丹念に解していく。
 つぷっと、入ってくる指。何度も抜かれ、液体を伴って挿入が繰り返される。
 おかげで、痛みはない。
 代わりにじわっと広がる、熱。
「は、ンっ......かず、ぅ......」
「痛い?」
 呼びかけに、和臣は指を動かすのをやめて俺の顔をじっと見る。
 表情から俺の感情まで、読み取ろうとしているみたいだ。
 平気、というように首を横に振る。
「んんっ」
 すると、指を増やされた。
 中の、一部分を優しく擦られるとびくびくと身体が跳ねてしまう。
「あ」
 快感に跳ねた足が和臣の肩を軽く蹴る。
「ごめ、」
「大丈夫」
 謝罪は、遮られた。
 そして足が胸に付くように押さえられて開かされる。
「足もって。ここに腕通して」
「え、」
 言われるまま、膝裏に手を入れた。
 自分の取っている体勢に、気付いた瞬間顔に熱が集まる。
 すごく、恥ずかしいし、苦しい体勢......。な、なんだこれ?
 俺の動揺もよそに、その状態で、後孔を指でぐちゅぐちゅかき回された。
 抜き差しされるたびに、卑猥な音が聞こえる。
「ふあ、ぁ!かず、あ、ちょ、ま......ッ」
「痛い?ごめん、少し我慢できる?」
 いや、ソコはそんなに痛くない。けど、間接が痛い。
 柔軟な身体してないし、それにお、大股開きってのは、恥ずかしい。
「かずっ......ん、このたいせい、いやだあッ......はずか、し......!」
「......うん、エロい」
 ぺろっと自分の唇舐めて、和臣が呟く。
 てめえええ!わざとか!わざとなんだな?!......しんじらんねえ!
「て、離して、いい......?」
 どうしていいかわからずに、和臣に尋ねる。
 すると、ヤツはなぜか目を細めて笑った。
 優しそうな微笑みだから、いいよ、って言ってくれると思った。
 が。
「だめ」
「っぅ!」
 ゆ、指が、増やされた。
 ち、近い近いちかい!
 身体を折り曲げているせいで、刺激でまた緩く勃起してる自分のとか、和臣が、三本の指で、広げてる部分、とか......全部、見える......!
 感覚だけで知ってるのと、実際に見るのとは、全然違う。
「ぎゃ......そ、こ......んんッ!あ、いや、ぁ!」
 ふるふると首を振る。
 目の前がなんだか歪んでくる。
 恥ずかしいし、苦しいし、気持ち良い。
 もうなんだかわからなくなっていた。
 ぼろぼろと涙が出る。
「かず、かず......っ、まだ......?」
 まだ俺、こんな格好してなきゃなんねえの?
 両手は自分の足を抱えてるから、落ちる涙も拭えない。
「......もーずっげやばい。俺鼻血でそう」
 鼻血なんかより、俺をどうにかしろよ!
「かずおみ......ッ!」
 泣き声交じりに呼ぶと、「もう手、離していいよ」とようやく言われた。
「ごめん。可愛くて苛めすぎた」
「うー......ッ」
 腕で涙を拭って、抱きしめてくる変態を睨む。
 優しく頭を撫でられたり、額に口付けを貰ったりして、少しだけ気分が落ち着いた。
「ともあきさんあのね、ほんとに嫌なら、俺に聞かないで離していいんだよ?」
「......いいの、か?」
 恋仲になったとき、こういうことをしたことがなかった俺は、散々嫌がった過去がある。
 だから、できることはしてやろうと思っているんだけど......。
「俺が、嫌だって言っても、かずおみ、は、嫌な気持ちになんねえ?」
 恋人同士だったら、普通にすることができてなくて不満があったら、やっぱり嫌だし。
 俺がびくびくしながら見つめると、今度は声を出して笑われた。
「大体ともあきさんが嫌がる場合、俺が行き過ぎてることが多い気がするし。つか、そんなくだんねえところで心配すんなよ」
 ぺろっと頬を舐められる。
 そうか、嫌だって言ってもいいのか。
「で」
「......ひぁッ」
 ぐ、ぐりっと、その、奥まった箇所に、固いものが押し付けられる。
「これは、できれば嫌がらないでくれると嬉しいんだけど」
 俺の腰を撫で回しながら、和臣が囁く。
 う、うーん。
 頬を赤らめて視線を逸らすと、耳裏辺りにキスを落とされる。
 ヤツの指が俺の尻の谷間を撫でて、つぷっと、ソコに緩く入った。
 中の、固いしこりを刺激されて、息が乱れる。
「......や、なら、今こうして、ねえよ......」
 だから、早く。
 言葉にならなかった部分を聞き取ったのか、指がするっと抜けて、固い熱が入ってくる。
「う......ッ」
「キツ......」
 息を吐いて、力を抜く。
 和臣も無理に入ってこようとはしない。抜いて、次は少し奥まで入れてって感じで、俺の中に入ってくる。
「あっさりイきそうで、怖い」
 息を弾ませながら和臣が至極真面目な顔で呟くから、つい笑ってしまった。
「笑うなって、響く......ッ」
「ぁ......ッ」
 俺の腹ン中で、ちょっと、大きくなった。
 慌てて口を閉じて様子を伺う。
 目が合うと、また笑いたくなったけど今度は耐えた。
「ともあきさん、大好き」
「ん」
 額をこつんと合わせて、両手をぎゅっと繋ぐ。
 甘くて、とろけそうな熱い体温が嬉しい。
 俺の身体も慣れてきたところで、ゆっくりと和臣が動き出した。
「ンッ......は、あ......ぅん、っ」
 キスをねだるように軽く唇を突き出すと、すぐに希望が叶えられる。
「ともあきさん......っ」
 身体が痛いぐらい強く、抱きしめられた。
 突き上げが激しくなる。
 痛いけど、気持ちいい。満たされてる、気がする。
「好き、愛してる......ッ」
 乱れた呼吸の間に振ってくる甘い言葉。
 くすぐったい。
 が、俺も負けてなるものか。
 和臣の頬に両手を添えて口を開いた。
「てめ......は、俺が、ずっと幸せに、して......やる、よ」
「!」
 喘ぎに紛れて、聞き取りにくいかもしれない。だけど、同じく息を乱していた和臣は、わずかに目を見開いた。
 見る間に、目に水が溢れ......え?
 ぽたぽたと溢れてきた涙が俺の頬に掛かる。
「ともあきさん、俺泣かせて、どおすんの......!」
 お、俺のせい?
 戸惑って口を開くと、和臣の唇で塞がれた。
 しょっぱいキス。
「も、絶対離さない、から!」
 泣きじゃくりながら告げる、子供みたいな独占欲。
 聞いた俺も、なんだか、すごくキてしまって、強く抱き返した。
 がむしゃらに突き上げてきて、それでいて力強い腕に抱きとめられる。
 深く身体の奥をえぐられて、激しく揺さ振られる。
「ともあきさ......ッ」
「かずッ......ああぅ!!」
 身体の中の熱と、ヤツの体温と、感情と言葉と。
 色んなものが混じって、和臣が達するのと同じぐらいのタイミングで、俺はまた気を失ってしまった。



 もう少し、あともう少し、せめて最後まで起きていられるように頑張ろう。
 そう思ったのは、目を覚ましたときに見た和臣のせいだ。
 ......泣きすぎ。鼻水出てんぞ。
「ともあきさんごめんんんッ!」
 目が合うと、ぎゅうぎゅう抱きしめてくる忠犬。
 なんだかんだで、幸せだと思った。


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