11月リクエスト-9


「待って、ともあきさん」
 送る時間になって、2人で部屋を出る。
 触れ合った後のともあきさんは、照れているせいか、いつも以上にそっけない。
 今だって、エレベーターに先に乗り込み、俺を待たずに1人で降りていってしまった。
 ......向こうがそういう気なら、俺だってなあ。
 夜更けにもかかわらず、俺はズダダダダと階段を駆け下りる。
 近所の皆さん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
 心の中で謝りながら、それでも速さを緩めずに1階にたどり着く。
 エレベーターよりは、ぎりぎり俺の方が早かった。
「手、繋ごうよ」
 ドアが開いて、俺は手を差し出す。
 ともあきさんは1階に俺がいることに驚いたようだった。
「階段、駆け下りてきちゃった」
 言いながら手を繋ぐ。
 すると、ともあきさんにベシッと額を叩かれた。
「迷惑」
「うん。もうしないから」
 ぎゅっと指を絡めて、駐車場の奥に止めてあるバイクまで向かう。
 ともあきさんは空いた手の指で、自分の唇を触っていた。
 その仕草を見て、俺に悪戯心が生まれる。
「そういえば、何回したか数えられた?」
 あんな状態じゃ、ともあきさんも数えるの忘れていたろうけど。
 にやっと笑って聞くと、じろりと睨まれた。
 暗がりの中でも、仄かに頬が赤いのがわかる。
「余裕なかったもんね。わかんなくてもしょうがないよ」
 言いながらともあきさんにヘルメットを渡して、俺はバイクに跨る。
 メットを被る前に、ちょんちょんと肩を突かれて、俺は振り返った。
 間近に来ていた影に気付かなくて、俺は動きを止める。

 俺の唇に触れているのは、ふにふにして、柔らかいともあきさんの、唇。

 それに気付いて、俺は完全にフリーズした。

「これで、ななじゅうろく」
 ふわっと微笑まれて、俺は。
 撃沈、した。


 バイクのメーターの辺りに伏せた俺をせかすように、後ろに跨った智昭さんに何度かグーで叩かれたが、俺はしばらく動けなかった。


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