10月-6


 ちょ、ちょっと待て。俺は、今、どんな体勢、してる?
「お尻は、白いね」
「うわあ!」
 ぬるっとした手で、尻を撫でられた。
 反射的に足を振り上げて蹴ろうとする。
 だがその足は足首を捕まれて、くるぶし辺りにちゅっと吸い付かれた。
「毛も、薄いし」
 呟いた後に、ふくらはぎの裏側を舐められる。
「俺、も、......い」
「もう少し、我慢して。......ごめんね」
「......」
 今度は、嫌だという言葉を飲み込んだ。
 なんで俺が謝られなきゃいけねえんだ。
 俺だってやれるところを見せてやる。
 シーツをしっかり掴んで顔を枕にうずめて、羞恥を堪えて足を少しだけ開いた。



「っは......ぁ」
 遮光カーテンから差し込んでいた日差しは、いつの間にやら見えなくなっていた。
 室内も、明かりをつけなければ見えないほど暗い。
 痺れる腰を上げ続けているのは辛かった。
 初めは、ローションで濡れた指が、そっと尻の狭間をなでていた。
 ヤツが望んでいる行為も、十分理解していた俺は、枕に噛み付いて耐えていた。
 とろりとした液体は人肌に暖められていて、俺がそれの冷たさで驚くことはなかった。
 そんな細かいところにまで気を使える小野は、凄いと思う。
 俺はただヤツに開かれて、悶えるのを堪えるので精一杯だった。
 最初に感じたのは違和感。指を、その、アソコに入れられた。
 十分濡らして緊張をほぐしてから入れてくれたから、痛くはなかったけど違和感は快感とは程遠かった。
 日頃からあまり喋らない俺。
 この時も何も言わないでいたら、足の間に手を入れられて、小野に扱かれた。
 勃起は、触られれば、する。
 けど、このときは絶頂まで触ることはせずに、前と後ろを交互に攻められた。
 絶頂を何度もはぐらかされて、経験値の少ない俺は気が狂いそうだった。
「んん......も、さわ......れ」
「駄目だよ。一回出したから、またイクと後が辛い」
 そんなことを言って、俺が自分で慰めるのも邪魔された。
 馬鹿が俺の前立腺を見つけてからは、更に辛かった。
 違和感は快感に取って代わり、拡げるために指を動かされる。
 拡げるために動く指が前立腺を掠り、その度にはしたない声が出た。
 喘ぎすぎて、声もとうに枯れてしまった。
 ニートの体力舐めんじゃねえ。こんなの長時間続けてられるほど俺は丈夫じゃない。
「ん......っぅ......あ!」
 がくんと腰が落ちてしまう。
 指がずるりと抜ける感触にも、声が出た。
 うつ伏せになったまま荒い呼吸を続けていると、背中やうなじに口付けが落とされる。
「このままの体勢の方がいいんだろうけど、ごめん。やっぱ顔見たい」
 あ?
 ぐるりと向きを変えられた。
 仰向けになった俺は、ぼんやりと小野を見る。
 暗くて良く見えない。俺も顔を見たい。
 そう思ってるとヤツが近づいてきて、俺にキスをした。
 密着した下半身。履いていたジーンズの感触はなく、素肌が擦れ合う。
 一度強くぎゅうっと抱きしめられた。
「大丈夫?」
 耳元で囁かれる。
 俺に負けないぐらい、コイツも息が荒い。
 足の付け根にごりッとしたものが触れた。熱くて硬いモノ。
 ......コイツ、いつからこの状態で我慢してやがったんだ?
 俺が、俺の準備が整うまで、待ってくれた。
 じいんと、胸の奥まで痺れそうになる。
「も、つかれた......から、......その、............はやく」
 最後は、もう声が出てなかった。
 でも想いは伝わっただろうか。
「うん」
 目を細めて笑ったヤツが、俺の足を広げる。
 いた......っ俺そんなに関節やわらかく、な......。
「愛してる。ずっと、好きだった」
 キスをして、甘く囁きながらソコに、押し当てられる。
「おれ、も............っ、ああ......ッ」
「ともあきさん......!」
 綻んだその部分に、ヤツの熱が入ってきたのまでは、覚えていた。
 けれど、初めはゆっくりと、やがてだんだん激しく揺さ振られて、俺の意識は消し飛んだ。




 次に意識を取り戻した俺は、心配そうな表情をした小野を見たのが最初だった。
「ど、した......?」
 あれ、俺寝てたのか?
 身体を起こそうとすると、鈍い痛みが腰に走って、ベッドに逆戻りしてしまう。
 そんな俺を見た小野は、顔を歪ませるばかりで触ってくれない。
 もっと近く来い。俺の手を握れ。
 布団から手を出してぱたぱたアピールしても、小野は気付いてくれなかった。
「ごめ......最後まで、我慢できなかった」
 は?
 ぼろっと、ヤツの頬を涙が伝う。
「もっと、や、優しくする、つもりだったんだ、けど」
 ぼろぼろと次から次にあふれ出てくる涙。
 ......。
 小野の頭に手を伸ばすが、届かない。
 少し離れたところで泣くからだ。
 ちくしょう。この馬鹿め......。
 痛む身体を起こして、俺は小野を抱きしめる。というか、縋りつく。
 すると小野は慌てて俺を抱きしめてきた。
 熱い手で頬を触られて、俺はほっとする。
「無理しちゃ......!」
「無理じゃねえ。みんなしてることだろう。......俺は、嬉しかったのに」
 そうだ、俺は頑張った。謝られるより、喜ばれたい。
「ともあきさ、ん」
 ぼろっと出た涙を、指でふき取ってやる。
「少しは、良かったか?その、俺は、初めて、だった......から」
「凄く、良かった!気持ち良すぎて暴走しちまうぐらい!」
 そうかそりゃ良かったな。
 けど......。
「いてえ、馬鹿」
 ぎゅうぎゅう抱きしめられて、俺は小野の頭を殴った。
 真っ赤になってる顔は、見られたくなくてヤツの胸にうずめる。
「今、何時」
 ふと気になって尋ねる。
「え?あ......もう、7時」
 朝の7時なんてことはないだろう。夜だ。
「......寝る。言い訳、よろしく」
「へ?」
「家に、連絡」
 どっちにしろ、この状態じゃ動けない。
 泊まりをもぎ取ってくれないと困る。
 両親は俺が外に友達が出来るのは大歓迎だから、それほど難関ではない。
 が、問題は兄だ。
 痛む腰を庇うように、俺はもそもそとベッドに潜る。
 気付くのが遅れたが、身体は綺麗に清められていた。
 もう全部、小野に見られたんだろう。


 つ、次はもう少し、頑張ってみようか。繋がってすぐに意識を失うなんて、あまり良くない。


 後で家に電話してくれた小野と、兄のやりとりは、凄い見物だった。


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