番外編-13
懐かしい夢を見た。
ぼんやり目を覚ました僕は、絡んだ状態の男の腕を払って、そっと身体を起こした。
「ッつ~......」
ゆっくり刺激しないようにと動いたにも関わらず、腰に響く鈍痛。
裸のままベッドを抜け出ると、僕は大事にしまってあった卒業アルバムを取り出す。
それをもってリビングのソファーに座った。
腰の痛みはひどいけど、身体は隆介が拭いてくれたのかさっぱりしている。
あの頃には既に興味本位のセックスもしていたのに、純情だったと今では思う。
テーブルの上に乗っていたタバコを一本取り出し、それを銜えて火をつけながらページをめくった。
卒業時には、一時期金色になっていた和臣の髪も染め直されている。
ずいぶんと穏やかな顔をしている和臣を見て、僕はため息をついた。
こういう顔をさせたのは誰なのか、あの当時とても知りたかった。
今では、その相手と将来を誓い合っていることまで知っている。
「結局怜次としかキスしてないのか僕。......あいつ、ファーストキスだったっぽいしな」
今更そんなことを思ってしまう。
あの時はキスする前に、怜次に見られたせいで和臣とはできなかった。
それ以降も、告白する機会はあれど、そういった触れ合いは和臣とは一切ない。
ずうっと思いだけを抱いてきた。
......それを、懐かしいと思えることに、思える自分に、僕は小さく笑う。
翌朝泣きそうな顔で自分を見てきた小さい怜次を思い出し、僕は口元を緩ませた。
そっと伸びをして、手を背後に伸ばしたところに。
「?!」
伸ばした手に生暖かいものが触れて、それが絡んできて僕は固まった。
「なんの、話?」
隆介が、ソファーを挟んで僕に抱きついてきた。
「懐かしい中学生の頃の話。もうじゅーぶん過去のこと、だよ」
慌ててそう告げて、僕の首筋に埋められた頭を撫でる。
「そうなんだ」
耳の下辺りから聞こえたくぐもった声。
納得してくれたかと、ホッとした瞬間、首筋に軽い刺激を感じた。
「隆介?」
「油断してた。小野先輩だけじゃなくて、的場先輩も注意しないと駄目だったんだ」
「りゅう、ちが、あ」
ちゅっちゅ、とさらに首筋に吸い付く男。ソファーの背もたれを跨いで、僕にのしかかってくる。
昨日だって散々やったのに!
「も、もう無理だから!腰、壊れる!」
暴れると腰に響く。
だからそれほど強く抵抗できないことをいいことに、隆介は僕の肌を撫で回し始めた。
「りゅうすけッ!」
「愛してます。だから俺だけを見て、過去を振り返らないで。貴方の心は、全部俺にください」
真摯な眼差しを向けられて、僕の動きが止まる。
「全部って」
「全部欲しい。薫が欲しい」
「そんな......えと、」
まっすぐな言葉に動揺を隠し切れない。
「薫」
両手で顔を覆った僕を見て、隆介はその手の甲にキスをした。
そのまま耳元で囁く。
「耳、真っ赤」
「......ッいろいろと、察しろ馬鹿!」
「はい」
好きなように解釈します、と笑った男を、羞恥心でいっぱいになった僕は、アルバムで殴りつけていた。