番外編-12
「......ふーん」
怜次のベッドに腰掛けて髪を拭いていた僕は、楽しそうな2人を眺めた。
和臣と怜次は、本当に仲が良いらしい。何だかちょっと妬ける。
「ねえ僕もやらせてよ」
勝負がついたところで、わざと2人の間に座り込むと、ぎょっとされた。
和臣は僕の足を見て複雑そうな顔をしているし、怜次は顔を逸らしている。
「お前......下は履かないの?」
和臣がおそるおそる、といった様子で声を発した。
「え?ワンピースだからないよ」
普段使ってるパジャマだ。膝丈の裾のふわふわレースが、お母さんも僕もお気に入り。
にこにこしてると和臣は眉間に皺を寄せたまま「怜次」と呼んだ。
「ジャージねえのジャージ」
「ある」
和臣の質問に即座に反応した怜次は、衣装ケースの中から濃い藍色のジャージの上下を取り出す。
あれ?和臣着替え持ってこなかったのかな。
なんて不思議に思ってると、ずいっと僕の前に差し出された。
「薫、ジャージ着ろ」
「なんで」
命令されて、ちょっとむっとする。
怜次のジャージなんて着たくないよ。折角可愛いパジャマ持ってきたのに。
和臣を援護するように、怜次もジャージを勧める。
「......それだと腹冷えるかもしれないじゃん」
「大丈夫だよ。僕丸くなって寝るのが癖だから」
だからおなか出たりなんてしないと言うと、2人は顔を見合わせてため息をついた。
なんだよ。
「良いから着ろ。な?」
「......うん」
よくわからないけど、和臣も怜次も僕のワンピースは気に食わなかったみたいだ。
女の子みたいだからかな。
しょうがなくその場で着替えを始めると、二人揃ってまたゲームをやり出す。
「和臣。どうしよ、なんかおれ」
「気にすんな。気にしたら負けだ。......お前だけじゃねえから」
2人は隣で動く僕を視線に入れないようにしているみたいだった。
ジャージに着替えた僕は、その窮屈さに顔をしかめる。
だけど、我慢した。
しばらくするとゲームを終えて、怜次は風呂に入りに行く。
和臣ははふ、と欠伸を噛み殺していた。
「俺先に寝る」
「え、もう寝ちゃうの?」
もっと話したいのに。
そう不満に思って尋ねると、眠そうな和臣にこくんと頷かれた。
ごそごそと敷かれた布団に入り、僕に背を向けて横になる。
が、くるりと向きを変えて布団の中から僕を見た。
「俺のバッグの中に、ピンクの包みあるから、それ持ってけよ。......あんとき怒ってくれて、感謝してる」
青いのは取るなよ、そう言って和臣は背を向けてしまった。
勝手に人のバッグを漁ることに抵抗があったけど、和臣は直接手渡してくれそうにない。
しばらく悩んで、静かな寝息が聞こえてきた頃に、僕はそっとバッグの中を覗いた。
可愛くラッピングされたピンク包みと、青い、こちらは店舗のロゴが記載されているビニール袋が、ごちゃごちゃとしたバッグの中に入っている。
青い袋の中に入っていたモノが少しだけ飛び出していて、それを見た僕は慌てて包みを取り出した。
大きさも一緒。
もしかしてという期待が高まる。
寝ている和臣を起こさないように、そっと包みを開いた。
中に入っていたのは赤い布地のペンケースだった。
汚されたブックカバーにあったキャラクターが、そのペンケースにもデザインされている。
青い袋には、色違いのペンケースが入っていた。
「......」
ぶわっと、感情が競りあがってきて泣きそうになる。
色違いのブックカバーは見つからなかったのかもしれない。だからペンケースなんだろう。
もう和臣は約束を忘れていたと思っていた。
でもちゃんと覚えていてくれたんだ。
そのペンケースをぎゅっと握って、僕は呟く。
「......好き......」
寝ている和臣に視線を向けると、寝返りを打ったせいか仰向けになっている。
少し開いた唇。くしゃくしゃになった金色の髪。
「どうしよ、僕......好きなんだ。和臣のことが......」
聞こえないのをわかっていて、そっと顔を覗き込んで告白する。
だめだよ、こんなの。卑怯だ。
でも、こんな機会きっと二度とない。
葛藤する内心とはよそに、身体はよどみなく動いていた。
身を乗り出して、寝ている和臣の唇に、自分の唇を近づける。
男とキス、なんて和臣嫌がるだろうけど......今だけ。
一瞬でいいから。
触れ合う寸前。
がちゃ、と鳴った背後のドアの音は、やけに大きく聞こえた。
「!」
ばっと起き上がって振り返ると、驚愕に目を見開いた怜次がそこに立っていた。
風呂上りなせいか、首にはタオルを巻いている。
物凄いスピードで起き上がった僕は、怜次に詰め寄って胸倉を掴む。
ぐっと押すと、怜次は廊下に倒れた。
「い......って」
後頭部を押さえて痛がる怜次の胸倉を掴んだまま、僕は唇を寄せる。
ちゅっとキスをしてすぐに離れる。
あんぐり開いた怜次の口と目。
「これでお前も同罪だからね。ぜったいぜったいぜったい、和臣にキスしてたこと、いうなよ!わかった?!」
小声で怒鳴るという器用な真似をしながら、僕は怜次に言い聞かせる。
「ぜったいぜったい、言っちゃ駄目だから......!」
「わ、わかった」
ぶんぶんと肩を揺さ振って告げる僕に、怜次はがくがくと頷く。
返事を聞いて、僕はホッとした。
「わかったならいい。......おやすみッ!!」
ばっと手を離すと、部屋に飛び込んで、自分に割り当てられた布団の中に潜り込む。
ドッドッドッド、と心臓は飛び跳ねていた。
和臣に、嫌われたくないよう......!
殺す。喋ったら怜次殺す。と僕は心の中で何度も唱えながら、いつしか眠りに落ちていた。