小話詰め合わせ-9


-暑くて寝れないそんな夜に。-


本編終了後の、智昭と和臣です。






 一緒に生活するようになって、いくつか共有するようになったものもある。
 同じパーカーを一緒に着たり、ベッドで一緒に寝たり。
 和臣が持っていたパソコンを、使わせてもらったりも、した。
 なんだ、これ。
 平日の休みになることが多い俺は、その日も1人、家で和臣のパソコンでインターネットなんかしてたりした。
 そういうことも飽きてきて、いらないデータを削除しようと思って、いろいろシステムデータを覗いていたつもりだった俺。
 和臣のデータが入っているところに入ってしまったらしく、変な、動画が出てきた。
『ともあきさん、はいこれ』
『なー』
『......くっそ可愛いな......』
 和臣は、声しか出演していない。
 手振れの画像の中、映っているのは毎朝鏡で見ている冴えない顔。
 ......今は、熱に浮かされたような表情で、どこを見ているかわからない眼差しをしている。
 頭には、なにやら黒い猫耳。手の部分には猫の手型のグローブ。
『ぅなー』
 変な声を上げた『ソイツ』は、和臣の手らしき大きな手の上に乗っている小さなぬいぐるみを、ぬいぐるみを狙う猫のような、仕草をし......。
「ぎゃああああ!」
 思わず、声を上げてしまった。
 きもいきもいきもいなんだこれ!
 記憶はまったくといってないが、これは、あきらかに俺だった。
『なあー......なああ』
 猫の鳴き声のつもりなんだろう、じいっと画面を見つめて鳴き声を上げている。
『可愛い......!ああもう愛してる!』
 呟いた和臣の手が、動画の中の俺を仰向けにする。
 身に付けているものは、なにもない。だから、なんといっていいのだろうか。正直に言わせてもらえば無修正?
 おおっぴらに足を開き、なーなー声を上げて、画面を、いや、和臣を熱っぽい眼差しで見つめる俺。
『なにして、んだよ。早く来い、って......』
 ひいいいい!なに言ってんだ俺!
『かず、う。そんなん、もういいから......』
 カメラを撮っているだろう和臣に焦れたように、ぐねぐね腰を揺らして、いる。
 あっつい視線をカメラ、いや和臣に向けて、膝裏に腕を通した。
 隠すところなく、晒される秘部。
『もっと、俺を呼んで、ともあきさん』
『かず、かずぅ......』
『っあー!たまんねえ!』
 和臣の欲情した声が入ると同時に、画像が乱れる。
『ッあ、あああッ!』
 急に、アップにされる、け、け、結合部。
 ちょっと待て。俺どんな格好してるんだ?
 でんぐりがえしの途中のような格好。そして、激しく抜き差しされる性器。
 出入りしているところはもちろん......。
「なんだこれ......」
 あんあん煩い声で喘ぐ俺。
 覚えがない。
 誰だと言いたいぐらい、覚えがない。
『かず、かずっ......イケねえ、この、へたくそ』
『ごめんね、ともあきさん。でもすっげ可愛い......っ、んな締め付けやばいって、出る!っ......ともあき、とも......好きだ......!』
 あ。
 荒れた動画聞こえにくかったが、それでも耳に入った和臣の声。
 俺を、呼び捨てで呼んだ。
 俺がいくら言っても『さん』付けを止めなかった男が。
 衝撃的な映像を最後まで見終わると、俺は保存された日を確認した。
 先週の、水曜日。
 その日は......。
「あ!」
 脳裏に蘇った断片的な記憶に、俺は声を上げた。
 薫さんが遊びに来て、志穂ちゃんも、怜次くんも来た日だった。
 美味しいお酒があるというので、俺も少しだけお相伴に預かった記憶はある。
 ......が、気づいた時には翌日で、しかも俺は全裸で和臣に抱きしめられていた。
 がんがんと酷いぐらいの二日酔いになっていて、翌日が休みで安堵したことを覚えている。
 気持ち悪さのせいか、腰や局部のだるさは、それほど気にならなかったような気がする。
 この映像の俺は、もしかして酔ってんのか......?
「......」
 改めて動画を開いて、煩く変な顔で喘ぐ画像の俺を睨む。
 こいつ、俺でさえ聞いたことない和臣の呼び方、聞きやがって。
 映像の『俺』も俺には違いないのだが、俺は画面の中の『俺』が憎らしくて仕方がなかった。
 だって、全然覚えてない。
 恥ずかしい格好をしたことは忘れてもいいが、和臣が俺を呼び捨てで呼んだことを忘れるのは許せねえ。
 なので。
 データを右クリックし、削除の項目を選ぶ。
 そしてゴミ箱に入ったのを確認した後、ゴミ箱の中身もクリーンアップ。
 データが入っていたファイル内を見てみると、他にも身に覚えのない変な動画が入っていたので、それらも綺麗さっぱり削除した。
 ついでに、俺の脳内もクリーンアップ。


 全てなかったことにして、俺はまたパソコンでインターネットを始めた。


「と、ともあきさあん?あのさーえっとさあー......」
「何」
「パソコンの中のデータ、なんか消した?」
 仕事から帰ってきた和臣が、パソコンを使った後に控えめに声を掛けてきた。
 夕食の準備をしていた俺はにっこりと笑う。
「いらないデータがあったから、消した」
「い、いらないデータ?ともあきさん中身見たの?」
 恐る恐るといった表情で声を掛ける和臣。
 俺は笑顔を崩さないまま、口を開いた。
「見てない。何か、消したらいけないデータ、俺消してた?」
 軽く首を傾げて尋ねると、和臣は慌てて手を横に振った。
「ぜ、全然、全然いいんだけど、ともあきさんは映像見てないんだよね?」
 若干青ざめ気味に尋ねてくる男。
 ふふんばかめ。墓穴掘るんじゃねえよ。
「映像?どんな」
「い、いや別に!なんでもないんだ本当。俺、風呂入ってくる!」
 普段であれば、何かにつけて俺と一緒に風呂に入ろうとする和臣が、この時ばかりは脱兎の如く、さっさとバスルームに姿を消してしまった。
 和臣を見送った俺は、また夕食の準備に戻る。
「ともあき、さん、かあ......」
 手を動かしながら、小さく呟いた。
 愛されてるのは十分にわかる。幸せすぎて怖いぐらいなのも、本当の気持ちだ。
 ......ここで、後もう1つを願うのは、欲張りすぎだろうな。
 心の中で消したはずの、和臣の声を反芻しながら、俺は苦笑するしかなかった。


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