小話詰め合わせ-10
-七夕の贈り物-
本編+番外編終了後の、智昭と兄です。
人通りの多い空港ロビー。
滅多に来ない場所に来た俺は、なんとなく落ち着かなくてそわそわしてしまう。
かずを誘ったが、ヤツには非常に微妙な表情をしたまま『いい』と断られてしまった。
昭宏が帰ってくるのは、一年ぶりだというのにあのやろう。
仕事をあっさり辞めたと思ったら、すぐにどこかに就職して日本を出て行ってしまった兄。
義姉にあたる沙紀ちゃんに言わせると『スカウト』されたのよとのことだが、急にいなくなったせいで、俺はしばらくはなんだか寂しかった。
どんな仕事だかよくわからないが、電話を寄越す昭宏の様子を伺い見るに、やりがいのある仕事なんだろう。
出来たばっかりの嫁さんと子供を置いて出て行くなんて、俺にはできない。
だが昭宏は、なにかの節目にはプレゼントを送ってくることはもちろん、義姉さんや子供の篤希にはよく電話をかけてきていた。
俺は、放置だけどな。
時折電話を変わってもらうが、大体が罵倒されたりからかわれて終わる。
口ばっかり上手くなりやがって。会ったら絶対首締めてやる。
かずで首絞めの練習をしていたら、さすがに反撃されて、ひっくり返された。
ヤツはプロレス技をかける練習相手には向かない。大抵、負けると俺が喘がされるばかりだ。
昨日も......と思考を巡らせて、慌てて火照りそうになる頬を押さえる。
掲示板をぼんやり見ていた俺は、昭宏が乗るといっていた飛行機が到着したことを知り、ゲート近くで待機した。
ゲートから吐き出されてくる人、人。
昭宏の姿はまだない。
身長が高いヤツだから、目立つのに。
きょろきょろと視線を巡らせていると、やがて荷物を持った昭宏が出てきた。
30歳も越えて、......なんだか、それを認めるのは非常に腹立たしいが、更にかっこよくなったと思う。
スーツもビシッと決まってるし......とTシャツにジーパンといういつもの楽な格好の自分と見比べて、俺はため息をついた。
と、俯きかけたところで頭を鷲掴みにされる。
「よお。出迎えご苦労」
そのままぐりぐりと頭を押し付けるように撫でられた。
「お、かえり......なさい」
照れくさい気持ちになった俺は、兄の手を邪険に払って低く告げる。
「おら、さっさと行くぞ。篤希の出番の時間になっちまう。荷物持て」
時計を気にしながら、昭宏は俺に荷物を押し付けてきた。
紙袋とスーツケースを持ちながら、俺は兄を見上げる。
「沙紀ちゃんに、連絡してないんでしょ、帰ってくること」
「たまにはサプライズが必要だろう?それに今日は幼稚園の運動会だしな」
パパさんリレーに出るんだ。と俺が沙紀さんに内緒で送った幼稚園のプログラムをしっかり眺めながら、にやりと笑う。
颯爽と歩く昭宏の後から俺は荷物を持って付いていく。
「あ」
ぴたっと止まった昭宏に釣られて、俺も立ち止まった。
どした、なんか忘れもんか?
きょとんと兄を見上げていると、くるっと振り返った。
「ただいま」
軽く両手を背に手を回されぽん、と叩かれる。
うちの家族の習慣の、抱擁。いつもつけている兄のトワレがふわりと香る。
抱擁は一瞬だった。すぐに離れてすたすたと前を歩いていく兄を見て、ああ帰って来たんだと興奮した俺は、思わず背後からとび蹴りを食らわせていた。
すぐに返り討ちを食らって、警備員を呼ばれかけたのは、俺と兄の秘密だ。