9月-13


「俺もする」
 むすっとしたコンビニ店員。
 見上げたとたんに、手の中の人参と皮むき機を取られた。
「主賓は、ソファーでふんぞり返っていらしたら?」
「黙れ薫。俺の家のキッチンで、ともあきさんと一緒に並ぶんじゃねえよ。ともあきさんと仲良くすんな」
 何だそれ。そんな言い方してると、まるで......薫さんに嫉妬してるみたいに聞こえるぞ。
 驚いてコンビニ店員をじっと見つめてしまった。
 俺の視線を受けた男は、少し恥ずかしそうな顔になる。
「あんたたちって、似たものカップルね。じゃあ二人で準備しなさいよ」
 私はソファーで寛いでるから。なんて言って薫さんは行ってしまった。
「や、やろっか?」
「......ん」
 なにやら照れくさい雰囲気のまま、俺はヤツと並んで準備をした。
 野菜を切ったぐらいで、準備はほとんどなかった。
 冷蔵庫を覗けば、たくさんのアルコール類。
「智昭、野菜おかわり」
 薫さんに言われて、俺は切った野菜スティックを彼女の元に運んだ。
 俺とヤツが準備をしている間に、1人先に酒盛りを始めたらしい薫さん。
 既にもう、出来上がっている気がしないでもない。
「ともあきさん、いいのに」
 甲斐甲斐しく薫さんの世話をする俺に、男は不満顔だ。
 いつもやってることだし。こんぐらいやらねえとな。
「お前も、座ってろ」
 俺やるから。
 やる気を出している俺の後ろを、コンビニ店員はうろうろついてくる。
 なんだよお前。ついてくんな。
 やることがないとは言え、後ろを付いてくる男ははっきり言って邪魔だ。
 ピンポン。
 チャイムが鳴った。
 俺はぴくりと反応してしまう。
 いそいそと玄関に向かって、ドアを開ける。
「よっす、先輩」
「こんばんわ!」
 そこにいたのは怜次くんと志穂ちゃんだ。
 俺は今出来る精一杯の笑顔で出迎える。
「いらっしゃい」
 ......なんか恥ずかしいな。薫さんがやったから、俺もやってみたけど。
 声は出したが、照れた俺はすぐに視線を下げてしまう。
「おせえよお前ら」
 二人に声をかけた俺を、ヤツが背後から抱きしめてきた。
 頭の上に、ぽすとヤツの顎が置かれる感触。
「あきちゃん夫婦みたい~」
「......」
 志穂ちゃんに無邪気に言われて、俺は無言で男を押しやる。
 この気恥ずかしさはいったいなんなんだ。
「ああ酷い!」
 すがり付いてくる手を払って、俺は志穂ちゃんと手を繋いで一緒に中に戻った。
「べたつきすぎなんだよカズ」
「ほっとけ」
 なんて、背後から聞こえた会話は無視した。
 部屋にいた薫さんを見て、志穂ちゃんは目を丸くする。
「薫ちゃん、もう酔っ払ってる?」
「酔いたくもなるわ。当てつけられてるのよ私。嫌になっちゃう」
 はあ、と心底嫌そうにため息を吐かれてしまう。
 その手元には、空いたアルコールの缶が三つ......。
「ごめ......えと、大丈夫?」
 飲みすぎじゃねえの?食事取ってないで飲むと、酔うの早いっていうし。
 顔を覗き込むと、がしっと頬を捕まれた。
「智昭」
「は、い?」
「悪いと思うならここで裸踊りしなさい。お腹に顔書いてあげる」
 む、無理!
 ふるふると首を横に振ろうとしても、しっかり抑えられてて動けない。
 それより薫さんの目が怖い。怖すぎる。
「やるわよね」

 頷く羽目になった。

「......なにやってんの?」
 泣きそうな顔で上着に手をかけていた俺は、戻ってきたヤツと怜次くんが、薫さんを止めてくれたおかげで、裸踊りしなくてすんだ。
 ほんと、助かった......。


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