そのに-6
そのままぐいと引かれる。
「来いよ」
「ッ、......山浦、ごめんまた明日」
無理やり引きずられるような体勢になった春樹は、慌ててそう山浦に声を掛けた。
それにはさすがに山浦も頬を引きつらせる。
「つっじー」
「その呼び方で呼ぶな白豚」
吐き捨てるような言い方の博也に、春樹は自分の服を掴む博也の手を掴んだ。
力を込めて引き剥がす。
その手を剥がされそうになるが、それも逆手で押し込めた。
その状態で山浦に視線を向ける。
「悪い。俺は大丈夫だから。先帰って」
微笑んだ春樹に山浦はどう思ったのか。
1つ小さく息を吐くと頷いてカバンを抱えた。
「うん。また明日」
少し小走りで山浦がその場を立ち去る。
良かった。これ以上山浦に迷惑はかけられない。
山浦を見送った春樹は姿が完全に見えなくなったところで、春樹は安堵して無意識に力を弱めてしまう。
「ッ......!」
するとすぐさま手を払われ、腹部を殴られた。
かなり力が入っていたようで、瞬時に丸まろうとする春樹の身体。
それを髪を掴まれ持ち上げられることで阻まれた。
「いい度胸じゃねえかてめえ」
博也に低く告げられる。足の竦むような眼差し。
他人がいる前では対等に張り合えていたつもりでも、2人きりになると途端に弱くなる自分を感じて、春樹は目を伏せた。
博也に連れてこられたのは、春樹の、自分の家だった。
「相変わらず、せめえ部屋」
春樹が鍵を開けてたところで、中に押し入った博也は不満そうに鼻を鳴らした。
彼がこの部屋に入ったのは小学生の頃以来だろう。
昔は仲は悪くなかった。母親のこともあって、博也も今のように酷いことを言ったりしなかった。
いつからだろう。今の力関係に変わったのは。
靴を脱いで奥に進み部屋の中を見て回る博也に、春樹は昔のことを思い出して嫌な気持ちになる。
「村瀬、」
「壁薄そうだな。こんなとこに白豚呼んで、ヤルつもりなのかよ」
春樹の呼びかけを遮り、博也はこんこんと壁を叩く。
白豚が山浦を指す言葉だというのは、先ほど散々聞いたから春樹もわかった。
だけど、何をやるって?
言葉の意味を考えながら、春樹は押し黙る。
すると、玄関に立ったままだった春樹の元まで戻ってきた博也に胸倉を掴まれ、部屋の中に引き倒された。
「いっ」
顔をしかめながら上半身を起こす。
そのまま立ち上がろうとすると、博也の足に体の一部を押さえつけられて、春樹はぎょっとした。
博也が踏みつけているのは春樹の股間だ。
その状態のまま、博也は上半身を屈めて胸倉を掴む。
顔を寄せられた。
「春樹、キスしろよ」
「え」
「お前から、俺にキスしてみろって言ってんだ。ほら」
唇に掛かる、博也の吐息。そのぐらい近い。
「なん」
「さっさとやれよこのホモ」
春樹の抗議の声を遮ると、博也は踏みつける足に力を込めた。
急所に走る痛み。
喉の奥で呻いた春樹は、迷いながら博也を見つめる。
まっすぐと見つめ返す瞳からは、博也が何を思っているか読み取れない。
だが、与えられるだんだんと痛みは強くなる。
仕方ない。
腹を括った春樹はおそるおそる、博也の少し開いた唇に自分の唇を押し当てた。
弾力のある皮膚。触れ合いはすぐに終わり春樹は身を引く。
「ガキかよ、お前」
触れ合っただけの口付けに、博也は口の端を上げて笑うと、「もう一回。今度はもっとねちっこいやつ」と注文をつけた。
告げられる言葉の真意がわからない。
「博也、いったいなんでこんな」
「踏み潰すぞ、ほら」
無表情に動揺している春樹の選択肢をなくすように、博也は催促した。
なんだんだもう。
自棄になった春樹は、博也に従うように再度口付けをする。
首の後ろに腕をまわして引き寄せ、薄い唇を割った。
恐る恐る歯列を舌先で撫でると、博也は口を開いた。
舌に噛み付くつもりか。
先日与えられた衝撃と痛みを反芻してしまい、春樹の動きが鈍る。
すると博也は一度股間から離し、その足で同じ場所を蹴り上げる。
「!」
対して力が入っていなかったのだろう、痛みはない。
だが博也の脅しは、春樹を動かすのには十分だった。
舌を絡め、ちゅっと吸い上げる。
角度を変えながら春樹は博也にキスを繰り返した。
すると。
博也の足が、ゆっくりと上下に動いた。
踏むというより、まるで撫でるような動き。
これは。
目を見張る春樹をよそに、博也がそこで初めて自ら舌を絡ませ始めた。
「ッ......ん」
濡れた音が口元から漏れ、息がだんだんと上がっていく。
春樹が呼吸も忘れて目の前がちかちかし始めた頃、博也はゆっくりと上半身を起こした。
「へったくそ。......ああ、お前童貞だもんなあ」
唇を濡らした互いの唾液をぺろりと舐めた博也は、足の平でぐりぐりと春樹のモノを刺激する。
絶妙な力加減。
「むら、せ......ッ」
ろくなことにならない予感が感じられた。春樹は下から睨みつける。
手で足を退けようとすると、やはり体重をかけられてしまう。