そのうち1-02



「え、ちょ、マジ?ちょっと、俺もう腰......ッ」
 焦ったような博也の声が聞こえたが、とまらなかった。
 ぐちゅ。
 一度受け入れた場所は春樹の侵入を拒まず、淫らな水音を響かせて受け入れた。
「っの、ばか......ッ!」
 逃げをうつ博也の手がベッドの縁に掛かる。春樹はその腕を掴んで後ろ手に引いた。
「っぁ、は......ぅ!」
 かくんと博也の上半身が落ち、腰だけが春樹の突き上げに合わせて揺れる。
「あん、あっ、ん......そこ、そこ......だめだ、ぁって......!」
 奥に突き入れてゆるゆると博也の感じるところを突き上げると、甘く掠れた嬌声が上がる。
 一度放出したおかげか、今度は春樹にも余裕があった。
 次は博也をイかせようと中を探りながら抜き差しを始めた。
「博也、綺麗だ。お前の中も、凄く気持ちがいい......」
 突き上げる快感に声がやや上擦りながらも、春樹は淡々と褒める。
 その冷静さが、身体を揺さ振られている博也にしてみれば憎らしい。
「ふ、ざけ......ッぬけよお......!」
「熱くて、絡み付いてくる。......なんて気持ちがいいんだ」
 熱に浮かされたまま呟いた春樹は上半身を倒し、ベッドに伏せていた博也の顎を掴んで無理やり自分の方に向かせる。
「んぐっ」
 薄くとも弾力のある唇を堪能していると、博也に噛みつかれた。
 痛みはあるが、春樹はそのまま口付けを続ける。
 すると、噛んだ部分を優しく舐めた博也の舌が、春樹の口内に入り込んできた。
 激しい口付けに、くらくらする。......でも身体が蕩けそうなぐらい、良い。
「っ、......博也、ひろや......ッ」
「っばかあ!ぬけって、あん、言ってる......っあん!」
「声も可愛い、博也。綺麗だ。......そんなに締め付けないでくれ、すぐ出てしまう。もっとお前の中にいたいんだ」
 ちゅっちゅ、と首筋から背中に吸い付き、白い肌に赤い自分の証をつけていく。
 ぱさぱさ振られる髪。喘ぐ声。
 苦しそうに眉根を寄せる、官能的な顔。薄く開いた唇。
 どうしよう。
「......綺麗だ。可愛い。どうしよう、俺は博也がこんな可愛いなんて、知らなかった」
「ひ、いい!なんてことい、っひゃん!あ、ん!......も、いやだああああ!」
 平坦で、それでいて熱烈な言葉に羞恥を煽られ、また丁寧ながらも情熱的な恋人の愛撫に博也は身悶えたのだった。




 ベッドの中には、1つの山。
 外には、春樹が少し困った表情で立っていた。
「博也。シャワーを浴びよう。気持ちが悪いだろう」
「1人で出来るッ」
「でも、俺が何度もしたから、お前は立てないと思う」
「出来るから出てけ!......俺に近づくなあッ!」
 篭もった怒鳴り声が聞こえるだけで、博也は一向に顔を見せてくれない。
 初めての挿入は正常位で、次は後背位。それでも飽き足らず、体勢を変えて春樹は博也を抱いた。
 泣き喚く博也は少し煩かったが可愛かったと、春樹はほんのり思った。
 だが。
「博也すまなかった。初めてで我を忘れた」
 布団に包まれたままの博也を撫でて、春樹は沈んだ声を出す。
「いない方がいいなら、俺は席を外すから......すまなかった。抱きたいなんて言って。もう二度としない」
 初体験はちゃんと好きな相手と出来たのだ。それだけでもう十分だ。
 今後は受け入れる立場に徹しようと心に決めて、春樹は博也に背を向け部屋を出て行こうとする。
 とたんに、壁に枕が投げ付けられた。
 博也の性格なら絶対自分に当てる筈......と視線を向けると、布団を跳ね除けた博也がベッドの上で春樹を睨んでいた。
 髪をぐしゃぐしゃに乱し、瞳は赤くなっている。頬を伝った涙の跡がより春樹の心を締め付けた。
「痛い!ケツが痛い!馬鹿ッ!なんで避けるんだよ!!」
「避けてない。悪い。当たるところに立ってなくて」
「そうだよ馬鹿!変態!.........お前が、お前があんなに......熱い言葉、言うなんて......」
 真っ赤、と表現するに相応しい博也の顔を見て、春樹は軽く目を伏せる。
「気持ちが悪かったか。すまん。口が勝手に思ったことを言っていた。もういわな」
「ちげえええええよ馬鹿!どうしてお前はそう鈍感なんだよ!察しろよ恋人ならッ!!
 出て行くな!風呂に入れろ!立てるわけねえだろあんなズコバコ突き上げといてよおおお!」
 力の限り精一杯怒鳴って、博也はベッドに突っ伏した。
 電池の切れたような博也の反応に、春樹は戸惑って様子を伺った。
 近づく気配のない春樹に、博也は人差し指と中指で軽く招く仕草をする。
 殴られることを覚悟で近づくと「なでろ」と命じられた。
 春樹がいつものように優しく博也の頭を撫でると、博也はその手の人差し指をぎゅっと掴んだ。
 顔は上げずに、ぎゅうっと力を込めてくる。
「う......嬉しかったんだ。抱きたいってお前が言ったの。......けどお前が、あんなに......」
「あんなに?」
「は、激しくするなんて、思ってなかった......」
「すまない。もうしない」
 再び謝罪を口にすると、ちらりと博也は視線を向けた。
 涙で濡れたまつげに、噛み締めていたのか赤くなった唇を一瞬だけ覗かせて、博也はまた顔を伏せてしまう。
 そのまま、無音になった。
 春樹としては博也を風呂に入れたくて仕方がないのだが、博也に動く気配もなく指も離してはくれない。
 どうしようかと密かに悩んでいると、博也から小さく声が漏れた。
「え?博也、今なんて言ったんだ」
「......激しくしないなら、その......してもいい」
 聞き返すと、博也は甘えるようにきゅっきゅ、と強弱をつけて指を握ってきた。
 きゅんと、甘く狂おしいほどの感情が春樹の胸いっぱいに広がり、ピンク色に染まっていく。
「愛してる」
 春樹は博也に寄り添うようにして、そっと囁いた。
「もっと言え」
 ぶっきらぼうに告げる声さえも愛しいくて堪らない。
「愛してる博也」
「......もっと」
 言葉を欲しがられて、春樹はふわりと笑った。
「お前が好きで堪らないんだ。博也がいれば他に何もいらない」
「......」
「側にいてくれてありがとう。愛してる。好きだ」
「......、」
「言葉だけじゃ足りないぐらい、もっとお前のことを好きなことを伝えたい。だから時々でいいから、俺からも愛させてほしい」
「......お前」
「博也が俺の愛で溺れるぐらい、愛したい。行為じゃなく、心の奥で俺を感じて欲し......どうした?」
 ぎゅうううっと痛いぐらいに人差し指が握られて、春樹は博也を見下ろした。
 顔を真っ赤に染めながら、博也は強い眼差しで睨みつけてくる。
「どんな顔してそんなこと言ってるかと思えば......くそっ!可愛い顔で笑ってんじゃねえよッ!」
「わっ」
 怒鳴った博也は、春樹をベッドに押し倒した。
 ぐっと足を開かれて、春樹はぴくんと身体を跳ねさせる。
 その体勢に、春樹は驚いて博也を見つめた。
「ひろ、や?もう無理なんじゃ......?」
「しょうがねえから抱いてやるよ。ったくくだらねえことべらべら言いやがってよ」
 吐き捨てるように言い切った博也が、ローションがとろりと春樹の身体に垂らす。
 ぬるぬると手を滑らされて、春樹の身体がぴくんと跳ねた。
 春樹自身と博也の努力の甲斐あって、春樹の身体は博也に与えられる刺激によってのみ、快感をよりよく感じられるようになっていた。
「く、」
 身体を震わせる春樹の喉元に噛み付いて、博也は緩く噛み跡を残す。
「男なら、言葉よりも態度で示すもんだろうが。......覚悟するんだな。今みてえなこと、言えなくしてやる」
「博也......、.........ッふ、ぅ」
 確かに博也は、自分に対して甘いことを一つも言ったことがない。
 けれど、その瞳は雄弁に語っている。
 愛し愛されることの幸福を噛み締めながら、春樹は博也の愛撫に身を任せた。


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