清水睦の独白。2
「んっふ、ぐぅ......」
渉は熱心に僕のペニスを舐めてくれた。
口に入りきらない部分は手で刺激を与えてくれる。
時折、陰嚢に滑った指が優しく揉み上げるのがより快感を掻き立てた。
ちゅくちゅくと吸い付く度に卑猥な音が立つ。
渉は口元を唾液で濡らしながら腰を揺らした。
わからないようにと控えめな動きだけど、僕は知ってるよ。
僕のものを舐めて、渉は感じているのだ。
「っう......出すよ」
渉の後毛に指を絡ませてくっと引っ張ると、言葉に反応したように大きく深く喉の奥を開いた。
気持ちがいいソコに、遠慮なく熱を吐き出す。
「んぶっ......ぐっ、......ん、ん......」
苦しげに眉を寄せた渉だったが、むせることなく白濁を飲み込んで口を開いた。
ちゃんと飲んだよ、という証拠だ。
てらてらと光る渉の唇を親指の腹で拭い、ゆっくりと頬を撫でる。
......次は、渉の番だ。
「立って」
渉を立たせてスラックスに手をかける。
ゆっくり脱がしていく間、渉はなにも言わなかった。
僕の髪に指を絡ませてゆっくりと梳く。
その優しい感触はとても好きだけど、僕はその手をさりげなく外す。
すると渉は少し悲しそうな顔をした。
そんな顔を見ると背筋がぞくぞくしてもっと苛めたくなる。でも代わりに心がずきずきと痛むのだ。
......こんなはずじゃなかった。
そう心臓がリズムを刻む。
文化祭の前で買い出しに行って、仲違いして別れたあのとき。
気持ち悪いと言われてショックだった。
けど、渉が僕に惹かれていたのは気づいていたから、動揺しただけだろうと自分に言い聞かせて月曜日までの冷却期間を置いた。
僕がきちんと謝って、誤解を解けば仲直りできると思っていた。
でも実際は冷たい目を向けられて話すらしてもらえなくなっていた。
僕が思うに、途中で誰かに入れ知恵されたんだと思う。
こういってはなんだけど、渉は流されやすいから、もう話を聞くな、と諭されたに違いない。
まあ、そんなことをするのは吉岡ぐらいだろう。
あいつは嫌だ。嫌い。隣で笑ってるだけでいい、なんて顔をしながら渉のことを見る目が違っていた。
でも渉が頼ったのは吉岡で、渉は僕をはっきり拒絶したわけだ。
すぐに近づいても警戒されるだけだと気づいた僕は、また一から作戦を建て直しだった。
僕を嫌って文化祭の準備をしない渉が孤立しないように、それとなくクラスメイトにフォローをいれ、分担するはずだった作業をした。
ある程度は他の友達にも任せたけど、裏方の地味で面倒な仕事はだれにも任せられなくて僕一人で頑張った。
結構真面目なところがある渉には、クラスメイトと仲良くするだけのきっかけを与えようと、一番の大仕事をさせるようにみんなを説得した。
なのに、渉は、僕が都合したと知った途端、それも放り出した。
滝沢にそれを言われたときの心境は、もう思い出したくない。
こんなのは僕のわがままだってわかる。知ってる。
愛情を捧げた分だけ返せなんていわない。......けど、少しは、僕のこと好きになってもらいたかった。
好きだから好きになってもらいたかったし、優しく髪を撫でて笑い合いたかった。
でも渉は僕を無視して吉岡と仲がいい部分だけ見せ付けて。
可愛さ余って憎さ百倍。ほんとそんな気持ちだった。
そんなにしたくないなら、僕が嫌いならどう思われてもいいと思って、渉が作っていたプラネタリウムの球体は壊したし、みんなにフォローもしなかった。
大葉に殴られた時は、ざまあみろとさえ思った。
今までは特に仲がいい友達がクラスにいないだけの状態だったのに、あのときから完全に敵意のある中に一人残された渉。
僕に縋ってきた時は、渉が哀れで滑稽で笑いたくて仕方なかった。
だからことさら僕は渉に優しくした。
傷の心配をして慰めて、最後の最後に「でも仕方ないよね」って笑って突き放すつもりだった。
なのに、僕にしがみつく渉が小さく見えて気づいたらキスをしていた。血の味がしたキスに興奮した。
酷くしてやろうと思うたびに渉を気遣う言葉しか出てこなくて、そうすると渉が僕に、話をするつもりだったと、言った。
どうして。
なんで今更そんなこというの。
僕と話をするつもりなんてなくて、僕のことを嫌って、散々振り回したくせに、どうして。
罪悪感が増した。
渉と仲直りできる未来が予想出来たなら、僕は球体を割ったりしなかった。
あんな、渉が割ったように思わせることもしなかった。
今までにないほど後悔したのに、僕は無意識に考えて動いていた。
渉は思ったとおり孤立して、みんなに嫌悪の眼差しを向けられて身を竦めていた。渉の前ではいい顔して、クラスメイトの前では孤立した不良を庇う委員長として振舞った。
そんな自分に吐き気がする。
なのに渉が僕の手を握るから、手放せない。
......僕はなんでもかんでも、渉のせいにしている。
「む、つみ?」
渉の服を脱がしたところで、僕はぼんやりとしていたらしい。
全裸にされた状態で僕が動きを止めたから、どうしたらいいかわからずに立ち尽くしている。
薄い胸板に散らされたキスマーク。もちろんそれをつけたのは僕だ。
細い腰とそれに続く足のライン。僕が全身を眺めていると渉はそわそわし出して、手で股間を隠そうとするから、僕はその手を掴んで邪魔をした。
「睦......」
両手首を掴まれた渉は困ったような表情のまま俯いた。
渉の下半身は僕の視線に晒されて、じわじわと反応している。
「見られてるだけでも気持ちいい?」
やんわりと尋ねると、渉は答えを躊躇った後に小さく頷いた。
ここも、いけない。
どうやら渉はものすごく僕と相性がいいらしい。
僕がやたらとSっ気が強くなったのは、渉のせいだ。
逆に言えば、渉をマゾに進行させたのは僕、だろう。
「......触って、くんねえの......?」
そのまま黙って見つめていると、渉はか細い声で訴えた。
可愛い渉は恥ずかしげに腰を揺らして僕を誘っている。
自分でやれって言えば、渉はたぶんする。そうなるよう僕が躾けた。
でも、それじゃ足りない。もっともっと、僕に依存させたい。
「いいよ。はい」
僕が掴んでいた手を自由にして、その手に僕の手を平が上になるように重ねた。
「えっ」
驚いたようにぱちりと瞬きする渉。
可愛い、好きだ。くそ、胸が痛い。
「僕の手、貸してあげるから好きにしたら?」
意味がわからないのか、ぽかんとしている。
だから僕は言葉を重ねた。
「触って欲しいんだよね渉。僕の手を使って、オナニーしたいんでしょう? いいよ、ほら」
問答無用に告げて微笑みを浮かべる。
首を横に振りかけた渉は、僕が目を細めると動きを止めた。
僕の手を掴む手に、力が入る。