月と花の出会い-2


「好き?」
「はい!先輩で抜きました!」
 先輩はぷっと吹き出す。
「なにそれ。普通そんなこと好きな相手に言う?」
「振ってくれていいです。でも、先輩を想ってチンポ扱いていいですか」
 真剣な眼差しで告げた俺に、とうとう先輩は声を上げて笑った。
「君......ぷっ...そんな、可愛い顔してるのに、下品なんだね」
「普通に俺も男ですから」
 下品なことも考えるし、エロいことで脳みそいっぱいにだってなる。
 ......ちなみに無邪気に笑う今の先輩の表情にだって、結構ヤバイ状態だ。
「面白いなあ。結構回り見えてないとか、言われない?」
「今は先輩だけが見えていればいいと思います」
「...っはっはっはっはー......ぅわ!」
 先輩は腹を抱えて笑い出した。
 とたん、先輩はバランスを崩す。
「先輩?!」
 部屋に埃が舞う。
 仰け反った先輩は、背中から床に落ちたようだ。
 いたた、と小さな声が上がる。
「だい、じょうぶ......」
 本当なら、すぐに抱き起こしたかった。
 が、先輩が腰掛けていたものが椅子ではなかったことに気付いて、俺は大きく目を見開いた。
「え......ええ?」
 口を押さえて、大きな声が出そうになるのを堪える。
「ご主人様を落とすなんて、悪い椅子だね」
 達樹先輩は、上半身を起こしながらぺちんと手で尻を叩いた。
 そう、尻だ。
 尻があるからには、胴体がある。
 けっこうがっしりとした男の裸が、そこにあった。
 四つんばいになって先輩をその背に乗せていた男は、先輩が笑った拍子にがくんと崩れてしまった、らしかった。
「うう......」
 目隠しをされ、口にもなんか咥えさせられている。
 背中には所々蚯蚓腫れのような跡、もとは白かっただろう尻は赤くなっている。
 そしてその尻の間には、な、なんだ?なんか、刺さって......?
「相川悟くん。手を貸してくれるかな?」
「あ、はい!」
 フルネームを呼ばれて思考が停止していた俺は慌てて手を差し出した。
 うわ......先輩俺のこと知ってんの?......マジで嬉しい......!
 喜びに頬を緩ませながら、先輩の手を引いて起こす。
 軽い。まるで天使の手を引いたよう。
「ありがとう」
 目元を優しく緩ませた先輩に見惚れて、俺はにへらっと変な笑みを浮かべていた。
 先輩はぱんぱんと制服についた埃を払うと、再度男の尻を叩いた。
 それが合図だったのか倒れていた男が再度、四つんばいになる。
 何事もなかったように、先輩はその男の背に座った。
 う、腕ぷるぷるしてるんですけど......また崩れるんじゃ......。
「さて......」
 その声に、男に意識が逸れていた俺は、達樹先輩に視線を戻す。
 今までにないほどの間近に、先輩の笑顔。
 思わずくらっと立ちくらみを感じた。
「なにか、僕に言うことあるよね?」
 先輩は壮絶な色香を滲ませて、俺の唇を撫でてくる。
 ゆ、指......!うわ、舐めたい......。
 俺の思考は変態まっしぐらだ。俺を襲った変態を罵れない。
「ね?」
 ぼんやりしていた俺に、先輩は首を傾げて見せた。
 はい。あります。いっぱいあります。
「埃まみれな先輩も好きです」
「......それだけ?」
 きょとんとした先輩に、俺は瞬きを繰り返す。
「えっと昨日は二回、先輩で抜きました。許可貰ってないのに扱いてごめんなさい」
「その辺りは個人の裁量のうちじゃないかな」
 先輩は、困ったように笑う。
 えーっと......?それじゃ何を言えばいいんだ。
「また潰れそうですけど」
 ソレ、と先輩が腰掛けた男を指差すと、先輩は首を傾げた。
 う......っ。やば、その顔反則。鼻血出そう。
「まいったな。僕に怯えるわけでもなく、逃げ出すわけでもなく、そう平然とされると困るんだけど」
「えええ!」
 この俺が先輩を困らせているなんて!
 それは困る。先輩とせっかく知り合えたのに、困らせるなんて俺の方が困る。
「この状況見たら、普通なにか言うことあるでしょ?」
「いや、えっと、......良い椅子ですね、とか?」
 深いため息。
 やばい、なんか間違えた?!
「だって、その同意の上ですよね?俺があの変態に襲われたみたいに、無理やりじゃなくて、その......椅子、さんはきっと先輩の椅子になりたくて、椅子になってるんですよね?」
 ああ、何言ってるんだ俺。
 わけわかんねえぞ。
「だから、それ以上に、部外者の俺が口出すことじゃないと。はい」
 わたわたと混乱した俺は、そこで言葉を切ってじっと先輩を見つめた。
「......見損なったとか、幻滅したとか、そんな風には思わないの」
「はあ......ぶっちゃけ俺も、先輩の中身見て惚れたわけではないし。そりゃあこんな風なイメージ、なんてものはありましたけど、それで幻滅したとか先輩に言うの、お門違いじゃないですか」
 イメージは所詮イメージだし。
 俺の答えにどう思ったのか、先輩はいきなり立ち上がった。
「......風間さん。立って」
 椅子代わりにしていた男を立ち上がらせる。
 結構デカイな......。180cmぐらいあるんじゃないのかこの人。
 しかもなんかギリシャ彫刻の像にあるみたいな、これぞ男って感じのいい体つきしている。
 先輩は手を伸ばして、風間と呼ばれた椅子さんの目隠しを外した。
 中からは綺麗な黒い瞳が現れる。
 先輩に虐げられながら泣いていたのか、目が充血していた。
「この子を襲ってた男。これ以上馬鹿なことをしないように、恥ずかしい写真撮って部屋から出して」
 淡々と告げると、先輩は自分の制服のポケットから携帯を取り出して風間さんに手渡す。
 携帯を受け取った風間さんは、こくんと小さく頷いて気絶している男の元へと足を向けた。
「写真撮ったら、同じ格好を貴方にもしてあげますから」
 そういう写真を撮ってね、と先輩は笑った。
 ちょ......風間さん。イチモツの先がぐぐっと上がったよぐぐっと。
 脇を通りすぎる瞬間に、変化のあった下半身に俺の目は釘付け。


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