騙すなら、身内から-9


 おかげで俺は、堂々と達樹にくっつけるからいいんだけど。
 すりすり頬を達樹の腕に押し付けていると、細い指で額を突かれた。
「はい。タイムオーバー。もう行かないと授業に遅れるよ」
「はあい」
 ちっ。
 もっと抱き付いていたかったが、微笑んだ達樹の目が笑っていないのに気付いた俺は、しぶしぶ離れた。
 ここで達樹の言うことを聞かないと、あとが怖い。
 密かに落胆した俺は、達樹の隣に立っていた賀川先輩に視線を向けた。
 視線が合うと、長身の男ににっこりと微笑まれる。
 賀川先輩は、真宏とは少しタイプの違うスポーツマンだ。
 真宏はどちらかといえば自己中野郎に対し、賀川先輩は爽やかさんの紳士だ。
 短髪の黒髪に、きりっとした眉、形のよい目元。
 達樹と並んでも絵になる、凛々しさがある。
 羨ましいなあ。この人はずっと達樹のそばにいれるんだから。
 少しばかり睨んでしまった俺。
 すると、ぐいっと腕を引っ張られた。
 誰だよ!
 痛いぐらいに掴まれて、俺は顔をしかめる。
 見れば、眉間にしっかりと皺を刻んだ真宏だった。
「行くぞ」
 そのまま歩き出されるせいで、俺はだんだんと達樹から遠ざかる。
「じゃあね!達樹っ」
「またね、悟」
 未練がましく視線を向けていると、達樹はひらひらと手を振ってくれた。
 うおおおお!かっわいいい!!!
 上機嫌になって腕をぶんぶん振り返す。
 俺たち2人が離れたことで、周囲に出来かけていた人垣も、散らばってなくなった。
 時計を見れば、あと少しで授業が始まる時間だ。
 急がなきゃな。
 上機嫌で廊下を歩くと、俺の腕を掴んでいた真宏が、手を離しながらため息を付いた。
「......お前さ」
「あん?」
 くるっと視線を斜め上に向ける。
「あんまり外でくっつくのやめろよ。お前ら、どういう目で見られてんのわかってんのか」
 ひくーく囁かれた。
 元々こいつは、俺と達樹が一緒にいるのに不満があるらしい。
 だから、俺はふんと鼻で笑ってやった。
 ちょいちょいと手招きして、真宏を屈ませる。
 大変悔しいことだが、俺が囁こうと思ったら、真宏にしゃがんでもらわないと駄目だ。
 真宏の耳に、口を寄せる。
「真宏も、俺と達樹のセックス想像して、オナニーしていいよ。俺見てやるから」
「んなっ」
 最後にふーっと息を吹きかけてやると、真宏は驚いたように身を引いた。
 呆けたような表情で耳を押さえた真宏をそのままに、俺は駆け出して移動先の教室に飛び込む。
 丁度タイミングよく、チャイムが鳴った。
「悟てめ......ッ」
「眞田、お前遅刻な」
 既に来ていた先生が、遅れて入ってきた真宏にそう告げた。
 へへん。ざまあ見ろ。
 既に席に座っていた俺は、にやっと笑う。
 真宏に睨まれたが、それもまた無視した。


 そのせいで、のちのち大変な目に合うが、まあ、その時は達樹のぷりっとした唇とか色っぽい目元とか、ほっそい首筋とか思い出して浮かれていたので、真宏のたくらみには気付かなかった。


 放課後。
 先に寮に戻って真面目に勉強なんかをしちゃっていた俺は、部活を終えた真宏に襲われた。
 背中から羽交い絞めにされて、机から引き剥がされて、ベッドに下ろされる。
 そしてしっかりズボンとパンツを脱がされて、チンポを弄られた。
 この間、うっかり扱き合いしてから、真宏は俺の身体に触るようになった。
 自分の手でやるより、真宏に触られる方がすっげえ気持ちいい。
 気持ちいいことは嫌いじゃないし、親友とはこういうこともするもんだって、もっと早く知ってればよかったと思うこともある。
 真宏、なんで中学校のときに教えてくれなかったんだろう。
 疑問は、敏感な先端を指の平でぐりぐりされて、頭ん中から吹き飛んだ。
「あ......ッ、ん、まて、おま......そこばっか......ぁ!」
「でも悟、ココ好きだろ」
 真宏の触り方は、俺が真宏を触るときとは違って意地悪だ。
 先端やだって言ってんのに、そこばっかりぐりぐりする。
「ひぃ......っは、あ、ぅ!」
 喉がヒューヒュー鳴って、足ががくがく震える。
 その足をしっかりと真宏に押さえられて、真宏は俺のチンポを執拗に触った。
 身体を屈めて見てるから、俺の、チンポとか、すっげえ近いと思うんだけど、真宏は時折俺の反応を見ながら裏筋とか根元の玉とかを弄ったりもした。
 尿道?が、ぱくぱく開いて先端が真っ赤になって、イきたい。けど、部分部分の刺激ばっかりでイけやしねえ。
 ちゃんと握って扱けって!
「ばか!ばかッ!ばかまひろお!」
 大きな背中を拳で叩いて、悲鳴に近い声を上げる。
 すると、真宏が視線を上げた。
「ぁう、ん......ッ」
 ぎゅっと幹を握られる。
 期待に、熱い吐息が漏れた。
 早く......まひろってば......。
 俺の大事なブツは、もう既に先走りをたくさん溢れさせていた。
「悟」
「ぁ......」
 真宏が 優しそうな笑みを浮かべて顔を近づける。
 でもこいつの場合、その笑顔が憎たらしい。
「ん、だからぁ......キス、しねえって......」
「知ってる」
 唇が重なる寸前で顔を逸らすと、真宏はちゅっと俺の頬に口付けた。
「さて、俺を遅刻にさせた反省してもらうか」
「あ......?」
 なんのことだ?
 快感に酔ってしまって、咄嗟に昼間合ったことが思い出せない。
 途端に。
「んぅ、あっ、あああっ!!」
 激しく扱かれる。
 だが。
 根元をきっちり指で作った輪で止められていて、俺の求めていた絶頂をせき止められてしまった。
「いやっやだああ!ゆび、ゆびやだ!」
「声、でかいって」
 指摘を受けて、俺は慌てて口を塞ぐ。
 俺の喘ぎ声なんて聞かせて堪るか。
「んんんーッ!」
 内股の筋肉とか、引きつる。
 いきたいいきたいいきたい!!
 こんなんされるほど、俺悪いことしてねえ......。
 感情が高ぶりすぎて、ぶわっと目に水の膜が浮かぶ。
 それを見た真宏が手を止めた。
 だけど、根元を押さえた指のわっかだけはそのままだ。
「まひろっまひろ......俺が、悪かったから、出させて......いきたい、よお」
 うるうるっとした瞳で訴える。
 すると。
 この自己中野郎はふん、と鼻で笑いやがった。
 うっわムカつく!!
「てめ、死ねっ!いっぺん死ね!離せっ!!」
 もういい!自分でする!!
 カチンと来た俺は、真宏の手を剥がしに掛かる。
「はは、お前はやっぱその方がいいって」
 嬉しそうに微笑まれた。
「うるせ、......っあ、ぁあうっ!!」
 悪態は、射精を止められていた指を外され、俺の性感帯を刺激されたことによって、喘ぎ声に消された。
 焦らされた分、刺激は強かった。
 脳髄が痺れるようで目の前が白い光に掠れる。
 びくびく腰を震わせた俺は、思いっきり真宏の手に精液を吐き出した。
 ......あー......すっげ、いい。
 ぐったりと真宏にもたれて、達した後の余韻に浸る。
 真宏は俺が落ち着くまで、じっとしてくれてる。
 こういうときの気遣いはありがたいんだよな。
 ムカつくけど。
「ふー......」
 俺が大きく息吐くと、真宏が手を伸ばしてティッシュを取って寄越した。
「拭けよ」
「ん。......ちょっと待て、お前どこ行くつもりだ」
 立ち上がって俺から離れる真宏を睨む。
「風呂」
「待てよ。俺にもさせろ」
 俺だって俺だって、コイツのチンポ握って、せき止めて苦しめてやる。
 鼻息荒く言い切ると、真宏は目を細める。
「俺汗臭いから後でな」
「別に気になんなかったけど」
「俺が気にするの」
 そう言って、真宏は風呂に入りに行ってしまった。
 なんだアイツ。
 不貞腐れた俺は、そのままベッドに転がる。
 達したあとだから、ベッドがなおさら心地よい。
 よし寝よう。
 真宏のイチモツをいじめるという目的は、眠気の前に薄れていく。
 俺は本能のままに目を閉じた。
「......」
 風呂から出てきた真宏が見たのは、下半身丸出しにしたまま、寝る俺。
「馬鹿。風邪引くぞ」
 ぷっと吹き出した真宏は、俺に布団を掛けてくれた。
 優しく髪を梳かれたことは、もちろん寝ている俺は気付かない。


 結論。
 結局俺は、真宏にお姫様だって思わせることは出来なかった。
 でも周囲の人間には、達樹の恋人の『可愛いあいちゃん』を定着できたから、良かったと思う。
 後は。
 見せ掛けの恋人同士の達樹と、本当の恋人になるだけだ。
 俺は好みじゃないみたいだけど、絶対恋人になってやる!

 ヨダレを垂らしながら眠る俺は、そう密かに決意していた。


←Novel↑Top