小話詰め合わせ-8
-Happy Halloween-
11月頃のお話です。
その日、バイト終わりに小野のバイクで部屋に連れ込まれ、部屋の中で不思議なものを見た。
「......」
なんか、部屋がきたねえ。
あちこちに置かれた服に、俺は嫌そうな顔になる。
家では兄に怒られるから常に綺麗に片付けていた。
なので、人様の家でも、気になってしまう。
「そんなあからさまに嫌そうな顔しないで。これとか、かわいくねー?今度の学祭で、みんなでコスプレすんの」
嬉々として色んな衣装を見せる。
量販店で売ってるような、安いコスプレ衣装だ。
全身タイツやら、着ぐるみやら、普段は目にしたことがないものがヤツの部屋に転がってる。
なんで、コイツの部屋に...... ちろっと視線を隣に向けると、小野はがりがりと頭を掻いた。
「大学内に持っていくと、他のものが転がってて失くしたりするからって、とりあえず全部俺の部屋に持ってきたんだ」
そうなのか。
近くにあったダルメシアン柄の着ぐるみを手にする。フードには犬耳がついていた。
「そんなわけで散らかってるけど、気にしないで寛いでて」
飲み物持ってくると言って、小野はキッチンに向かった。
......うず。
昔、こういうパジャマに憧れてたんだよな。
つなぎで着るようなヤツ。
「......」
俺はそっと、その着ぐるみを持って、小野の寝室に侵入した。
「あれ?」
烏龍茶をグラスに入れて戻ってきた俺は、ともあきさんの姿がないことに首を傾げた。
「ともあきさんー?」
テーブルにグラスを置いて、名前を呼んで探す。
ごそ、という音が俺の寝室から聞こえた。
「ここにいるの?」
「開けるな!」
ドアに手をかけたところで、中から焦ったような声が聞こえた。
「え、ともあきさんどうかしたの?!」
開けるなと言われたが、思わず動揺した俺は、慌ててドアを開けて中に入ってしまう。
だが、すぐに姿を捉えることは出来なかった。
「どこにい」
「来るな!」
声のするところ、ベッドの脇の死角の部分を覗き込む。
「う、あ......」
「......なにしてんの」
思わず顔が緩んでしまいそうになるのを堪えて、ともあきさんをベッドの上に引っ張り上げた。
白地に黒のぶちの付いた、着ぐるみ。
手足は、犬の手足を模したものになっている。
真っ赤になったともあきさんは、犬の着ぐるみを着ていた。
「ちょ、と、思ってたのと、違った」
ぼそぼそと小さな声でそんな言い訳を口にする。
「そうなんだぁ」
俺が急に入ったせいで、脱ぎ掛けだったのか、前のチャックの部分が下がっている。
それを引っ張り上げて、俺はにっこり笑った。
フードも被せてやる。
うん。バッチリ。
「なに」
「あ、まだ外さないで!」
フードを外そうとするともあきさんを留めて、携帯を手にした。
パシャ。
ベッドにペタッと座り、俺の動作を不思議そうに首を傾げていたともあきさんをしっかりと写真に取る。
フラッシュがたかれたせいで眩しかったらしく、何度か瞬きしていた。
「なんだよ」
「んー?」
写真の出来を確認して、俺はにんまりしてしまった。
やっぱ可愛い。男性用Mサイズの服だったけど、ともあきさんが着るとすっごくぶかぶかで、凄い愛らしい。
「ともあきさん」
二つ折りの携帯をぱたんと折りたたみ、俺は改めてともあきさんを見た。
「俺も着るからさ、もっといろんな服着てみない?きっと楽しいよ」
「......」
『楽しいよ』を強調したとき、ともあきさんの瞳が一瞬輝いたのを、俺は見逃さなかった。
「ほら、行こう」
手を引いてリビングに戻る。
ぽてぽてと、俺の後ろを付いてくるともあきさんが大好きすぎて、もうどうしようもない。
リビングには、男が着るような着ぐるみやコスプレの衣装もあるが、魔女の服や、メイド服、セーラー服といった、女性向けのものも置いてある。
ともあきさんほそっこいから、きっと着れる。
拒絶される可能性というのをすっぱり忘れていた俺は、意気揚々と魔女ッ子の服を手にした。