9月リクエスト-7
ともあきさんが。
俺のいつものバイトの帰り道、ともあきさんがぽつんと聞いてきた。
「俺、何似合う?」
くりくりっとした黒い目で俺を見上げてくるともあきさん。
「似合うって...服のこと?そうだなあ、ともあきさん細身だからジャケットとかでも、タイトなものがいいんじゃないかな」
俺の言葉にふんふんと頷いている。
可愛いなあちくしょう。
なんなら俺の服を着せたい。前に泊まったとき俺の服を着たともあきさんは、服の袖から指先をちょこっと覗かせていた。
パジャマ代わりに渡したジャージのズボンは、裾が長くて擦らないように両手で引っ張り上げていて、ちょこちょこ歩く姿がほんと愛らしいものだった。
「ともあきさんはカジュアルで奇抜じゃない服装なら、何でも似合うと思うよ」
指を絡ませて、そう囁く。
冷たい指が、俺の手をぎゅっと握り返してきた。
「でも珍しいね、ともあきさんがファッションのこと気にするの」
普段、着れればいい。みたいな服装をしているともあきさん。
若いのに、全然ファッションのことを気にしたりなんてしない。
不思議に思って口にすると、ともあきさんがはにかんだように俺を見た。
「俺もかっこよくなる」
「へ?」
「お前、みたいに」
言った後、照れたようにともあきさんは足元に視線を落とした。
......たまんねえ。
周囲を確認して、細い路地に連れ込む。
ふわりと金木犀が香った。
「っ」
顎を掴んで上げさせて、薄い唇にキスを仕掛ける。
真一文字に結ばれた唇。そこに何度か口付けを落とすと、少しだけ綻んだ。
それを待っていた俺はすかさず舌を潜り込ませる。
「ん、んぅ......」
ともあきさんの手がぎゅうっと俺の服を握る。
もう片方はいきなり襲い掛かった俺に、抵抗するようにばしばしと肩を叩いた。
だけど、ともあきさんは嫌がっていても舌に噛み付いたりしない。
殴ったり蹴ったりはするけど、本当には俺を傷つけようとはしないんだ。
......だから俺が付けあがっちゃうんだけど。
「んー...!ん...!」
かくんとともあきさんの膝が砕ける。
背中に手を回して身体を支えると、息の上がったともあきさんにじろりと睨まれた。
「何」
「ごめん。可愛くて」
ぐいっと手の甲で唇を拭うともあきさん。
俺が謝ると眉間に深い皺が出来た。
「可愛く、ねえよ!」
怒鳴ったともあきさんは、思い切り俺の足の脛を蹴った。
「いっ......てえ......」
足を押さえてじんじんとする痛みを堪える。
ああもう......もうちょっと我慢できるようにしねえと。
嫌われちまう俺。
蹲って反省してると、目の前に手を差し出された。
ぶすっとしたまま、ともあきさんは手を繋げと言わんばかりに俺を見ている。
やっぱ、無理。
「ともあきさん......!」
ぎゅうっと抱きつくと、また殴られた。
そんなことがあって、ともあきさんがバイトの金で買い物に行くというので、俺はお供をかってでた。
だって、考えてもみろよ。これってデートじゃね?
しかも服買いに行くってことは、その服を俺が脱がす機会もあるかもってことで......。
夢というか、妄想は広がるばかりだった。
「ともあきさん、これはどう?」
俺は行きつけのショップにともあきさんを連れて行った。
興味深いのか、きょろきょろと視線を店内に彷徨わせているともあきさんに、カットソーを合わせる。
トレーナー、パーカー、ジャケットと、これからの季節に着れるものをともあきさんに合わせて、試着も薦めた。
細くなで肩のともあきさんには、Sサイズでも物によっては、服に着せられてる感があったりする。
ともあきさんが色と形が気に入ったのか、試着してみたジャケットが正にそう。
肩のラインが落ちて、袖も長い。ゆったり着るデザインのものならいいだろうが、これはそういったデザインのものじゃなかった。
「えっと......女性物でも良ければ、似た形あるみたいだけど」
「いい」
しゅんと落ち込んでるともあきさん。
慰めて抱きしめたいが、平日の人が少ない時間とは言え、昼間のショップ内でそんなことは出来ない。
「こっちは?」
俺は慌てて、別の服を勧めた。