インナモラートの微熱4度05

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「え......っ?」
 ぐにゅっと、先端を頬に当てられた。
 性器を顔に押し付けられるとは思ってもいなかった渉は、困惑を表す。
 咥えろと言われるよりは、マシ。マシなはず。
 渉はそう自分に言い聞かせながら、清水の行動に息を詰めた。
 透明な先走りが頬を汚して顎を伝う。
 清水自身の体臭に脳の一部が麻痺してくる。
「......っん」
 ぐにぐにと頬を擦っていた先端がすべり、渉の下唇を辿る。
 少し厚めの唇が亀頭に押しつぶされた。

 どうしよう......くち、に、当てられてる......。

 嫌がっていいのか。
 しかし閉じたままで口の中には入れられてない。
 頬の延長線だ、これぐらいなら我慢できる。渉はぐるぐると考えた。
 顔を上げて擦りやすくしてやると、清水のモノはずんと容積を増した。
「わたる......っは、」
 濡れた色っぽい眼差しで見つめられると渉も堪らない。
 下半身が疼いている気がするが、清水に顎を手で固定されて自分の状態を確認することは適わなかった。
 様子を伺うように、ややゆっくりと唇のラインをなぞるようにペニスが動く。
 殴られて傷になった唇の端には触れぬようにしてするっと動いた際に、先端が半分隙間に入りかけて渉は慌てて強く口を閉じた。
 その瞬間に白濁交じりの液体が口に入り込み、口の中で唾液が増える。
 吐き出そうにも今口を開くことが出来ない。
 仕方なくごくりと嚥下すると、その音がやけに大きく感じられた。

 げぇ、男の、アレ......飲んだ、俺......。

 胃がカッと熱くなるような錯覚を覚える。
 思ったよりも嫌悪がなくて、そんな自分に渉は戸惑った。
 嫌悪がないなら、口を開けてもいいんだろうか。
 清水は渉の唇にペニスを押し付けながら扱いているが、まだ達する気配はない。
 眉間に皺を寄せて、薄く唇を開けて目を閉じている。
 自分が早かったことを棚に上げて、遅漏なのかと靄のかかった頭で考える。
 連続で与えられる衝撃的な状況に脳は回っていなかった。

 な、舐めなきゃ......いいか?

 イきたいのに、イけないのはつらい。
 自分も同じ男だからよくわかる。
 口を開けるだけならいいだろうかと渉は硬く閉じていた顎の力を抜く。
 するとペニスが口をこじ開けてずぼっと中に入った。
 そこまであっさり入ってしまったことに渉もびっくりしたが、清水も驚いていた。
 大きく口を開いたことによって唇の端がぴりっと痛む。
「ご、めん!」
 目を閉じて押し付けていた清水は、よもや唇を割るとは思っていなかったようで、すぐに腰を引く。
 その態度がなんとなく面白くない。
 人がよほどの覚悟を持って口を開けてやったと言うのに、と天邪鬼が喚いた。
 結果、渉は後ろ手にベッドに手をついて、ペニスを追いかけるように開いた口を押し付けていた。
 動きを止めた清水と目が合う。
 様々なモノが互いの胸に去来していた。
 見つめ合いながら、清水はゆっくりと渉の口の中に自分の性器を押し込む。
 先端を含むだけで精一杯だ。
「渉の口、小さいね......」
「んっ......ん、ん.........」
 奥まで突っ込まれるのは怖いので、舌の腹で先端を押す。
 するとそれが気持ちが良いのか清水が掠れた声を上げた。
「ああ......」
 そんな反応をされると、悪い気がしない。
 歯が当たらぬように気をつけながら、渉は舌を動かした。
 だんだんと清水の腰の動きが忙しなくなってくる。
 奥まで入り込んで、渉はえずいた。
 震えた喉が、異物を追い出そうとペニスを締め付ける。
「ケホ......ッ」
 ずるっと引き抜かれたモノが目の前で跳ねた。
 咽る渉の顔にどろどろと白いものがかけられる。
「あ......あ」
 浅く呼吸を繰り返す渉は、ベッドに沈み込んで弛緩していた。
 顔は精液で彩られ、シャツのみを羽織ったままの状態である。
 触れられていなかったはずのペニスが、萎えぬまま緩く勃ち上がっている様を目にして清水は息を飲んだ。
「うえ......まっず......」
 白い足に手を伸ばしかけた清水は、顔をしかめてぼやいた渉に部屋の中を見回した。
 ベッドの下に落ちていたティッシュの箱を取って渉に手渡す。
 受け取った渉は無言で顔をごしごしと拭っていた。

 奇妙な沈黙が場を支配する。

 あらかた拭い取ったがやはりまだべたべたする気がして、渉は自分の頬を撫でていた。
 離れた清水は渉に背を向けて自分の下半身を拭っている。
 そしてそのまま服を身に付け始めるのを見て、これで終わりなのだと渉はほっとした。
「あっ......?」
 そこでようやく渉は、自分のものが勃ったままであることに気づいた。
 慌てて膝を立て手でその部分を隠す。
「シャワーとか、浴びて来た方いいと思う」
 なんで。どうして。と混乱している渉に清水は控えめに声をかけた。
「あ、うん」
 渉はこそこそと立ち上がった。
 股間を隠しているのでへっぴり腰である。
 部屋にあった衣装ケースから着替えを手にしていると「渉」と声がかかった。
「急に、がっついてごめん」
 確かに最初は怖かったが、思ったほど怖いことはなかった。
 少し苦しかったぐらいで、殆ど気持ちいいことで埋め尽くされていた。
 なので渉は違うところが気になった。
「どうして謝んのに背を向けてんだよ」
 清水は壁を見つめてなぜか正座している。
 渉が詰ると逡巡したようにやや間が空いて向きを変えた。
「また、襲いそうだから」
 情感たっぷりにため息をつかれて、渉は赤面する。
 こんなに清水が性欲の強い男とは思わなかった。
「......そ、れは、困る......」
「うん......だから早くシャワーを浴びてきてくれ」
 呼び止めたのはそっちだろうと渉は口をへの字に曲げたが、大人しく従った。
 ただ部屋を出る前に足を止めて清水を見やる。
 清水はやはり渉の姿を視界に収めないようにしているのか、俯いていた。
「つ、続きはまた、今度な!」
 怒鳴るだけ怒鳴って、渉は部屋を飛び出す。
 清水がどんな反応をしていたかを知りたいようで知りたくなかった。


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