清水睦の独白。3

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 しばらく動きを止めていた渉は、僕が動く気がないと知ると唇を噛み締めて僕の手を自分のモノに触れさせた。
 あったかくて、硬くなっている渉のペニス。
 僕の手で包み込むようにして、そしてそれを上下に動かす。
「ぅうん......っ」
 吐息のような声を漏らして、渉は自慰を始める。
 自分でするよりやりにくいはずなのに、僕の手の平は渉が吐き出した先走りで濡れて、ちゅくちゅくと音を立てている。
「はあっ......っん、う、ぅ」
 少し足を開いて腰を揺らして自分を高める様は滑稽だ。
 僕が下から覗き込むと、渉は潤んでいた瞳を閉じてしまう。
「渉。僕を見て」
「......なんで、睦っていつも」
「いつも、なに?」
 僕が畳み掛けて尋ねると、緩く首を振った渉は切なそうに眉を寄せながらも、僕をじっと見つめながら自分で慰めた。
 薄く開いた唇をちらりと覗かせた舌で舐めた。
「なあ、っ、むつみ......んっ、ちゅ、していい......?」
 んちゅ?
 その言葉が指す意味が、咄嗟に出てこなかった。
 渉は僕が拒絶しなかったことで了承したと思ったらしい。上半身を屈めると、僕にキスをしてきた。
 ああ、ちゅー......というか、キスか。
 弾んだ息で本来の言葉とかけ離れて聞こえてきただけなのかと納得した僕は、冷めた眼差しで渉を見つめる。
 渉のキスは下手だ。大抵僕が蕩かせてしまうから、フェラと違って少しも覚える様子がない。
 重ねるだけの気持ちも良くないキスをぐいぐいとしてくる渉は、そのまま勢い余って僕をベッドに押し倒した。
 上に乗ってきた渉は、僕の手を離さずにペニスを握らせたまま。
 積極的に動く渉にちょっとだけ驚いていると、渉は熱に浮かされた表情のまま手をベッドヘッドに伸ばした。
 そこには、僕が買ってきておいたローションがある。それを手に取った渉はふにゃっと笑った。
 手にとろとろと中身を出して僕の手に擦り付ける。
「......渉、何してるの?」
「ん? 好きにしていいんだろ」
「いいけど......」
 ただでさえ先走りで濡れていた手が完全に濡れそぼる。
 それをどうするのかと見ていると、僕の手を掴んでペニスより更に奥に......。
「っ」
「あ」
 びっくりした。僕の指が、僕の意思じゃなく渉の後孔をまさぐってる。
 もう片方の手でローションを継ぎ足しして、何度も穴の周辺を行き来していると、緊張がほぐれたのかつぷんと第一間接まで飲み込まれた。
 うわ......熱い。
 自分で渉の身体を開かせるのとは違う感覚だった。
 渉はさっき僕に言われた通り、目を閉じずに寄りかかりながら指を抜き差ししている。
 艶のある目元。僕の唇に渉の息がかかる。またちゅっと吸い付いて、僕の唇を甘噛みした。
 いつのまにこんな仕草を覚えたんだろう?
 上品な言葉じゃないけど...エロい。
 僕の身体を挟むように膝を付いて起き上がった渉は、ほっと息を吐いた。
 そしてまた僕の手首を掴んで抜き差しを繰り返す。
 少しだけ意地悪したくなって、指が抜けた瞬間にもう1本指を添えてみた。
「......ふっ」
 渉は僅かに目を細めながらゆっくりと指を沈めた。
 きゅうきゅう締め付けてくる中は貪欲に僕の指を飲み込む。
「きついね。渉のココ」
「ん......ん、」
「僕の指、美味しい?」
「おい......し、っああ......」
 ......この子は、どれだけ僕を煽れば気が済むんだろう。
 だけど、渉のペニスはやや勢いを落としている。気持ちよくはなっていない証拠だ。
 僕が望むように振舞おうとしているのがわかるけど、嬉しくない。のに、もっと酷くしたい気分に陥る。
「このまま僕に乗って自分で入れて。指だけじゃ足りないでしょ?」
「......ぅん」
 渉はこくんと頷いた。僕のモノにローションを塗りつけて、腰を上げる。
「勃ってる......」
 渉の媚態に反応した僕のペニスを見ると、嬉しそうに笑った。
 まだ準備の出来ていない身体に無理に突っ込めと言っているのに、どうしてそこで笑うかな。
「う、」
 渉は僕のモノを握ると腰を下ろした。先端にかかる圧迫。
 案の定、きついソコは僕のモノを簡単には飲み込もうとしない。
 渉も苦しそうなのに、そのままぐいぐいと下ろそうとしている。
 いや、もう無理なんじゃ......。
 僕が渉を止めようとする寸前に、ようやく先端だけ中に入った。
「っ......はいった......あ」
「わたる、きついよ」
 僕がそう言えば止めるかと思ったけど、渉は血の気の失せた顔で笑うだけだった。
「わり、ちょっと、待って......」
 短い呼吸を繰り返す。ローションを足しはするけど、抜こうとせずにそのまま腰を動かす。
 きゅうきゅう締め付けてくる感触は嫌いじゃないけど、渉の額に浮かんだ汗が気になってしょうがない。
 僕が乗れって言ったから......。
 心が壊死していくような感じ。嫌われるより前に僕が渉を殺してしまいそう。
「もういい。気持ちよくないから、どいて」
「......も、ちょっと、だけ」
「いいから、抜いてくれる?」
「ぅわっ」
 前かがみになっている渉の肩を強く押して、渉を仰向けになるように倒した。
 驚いてすぐに起き上がろうとするのを膝裏を押して、後孔に傷が付いていないか確認する。
 ......よかった。少し赤いけど、血は出てない。
「君、無茶しすぎだよ」
 ほっと一安心して視線を上げたところで、真っ赤になった渉と目が合った。口元を手の平で押さえている。
 そこで僕はようやく自分の取らせた姿勢が、卑猥な状態にしていることに気づいた。
「ごめんね。ちゃんと広げてからにしよう。足抱えて」
 僕が耳元で囁くと、渉は頷く代わりに膝裏に腕を通して大きく広げてくれた。
 シチュエーションに興奮しているのか、ちょっと元気のなかった渉のペニスは勢いを取り戻している。
 そんなわたるに僕も煽られながら、ローションを指に絡ませてもう一度ゆっくりと蕾に差し入れた。
 人差し指と中指で手の平を上にして、前立腺をまさぐる。
 腸壁の柔らかい感触の中にある、ちょっと硬めのグミのようかものが指に当たった。
「やああっ......!」
 力を入れすぎると痛いからやんわりと指で挟んで揉み込むと、渉の口からいやらしい声が上がった。
 きゅっきゅ、と入り口が指を締め付ける。意識してその部分を擦り上げるようにしながら抜き差しを始めると、渉は仰け反って震えた。
 気持ちがいいらしい。つま先がびくびくと反応している。
 もう片方の手で、僕は渉の性器を扱いた。
「あっ、ああっ、むつ、みっ......そこ、......あぅっ!」
 ぷくっと浮き上がってきた先走り。唇をくっつけてぢゅっと吸うと、僕の上唇にぬるぬると先端を擦り付けてきた。
「舐め、て......ぇ」
 甘いお誘いをもらった。僕も特に断る必要もなくぱくっと食らい付く。
 渉のは僕のものより小さいからフェラチオもしやすい。
 じゅぷじゅぷと音を立てるように頭を動かして、ぽってり精液を詰め込んだ陰嚢を指で転がす。さらにもう一方の手の指で中から責め立てた。
「うあああっ......あっ、あっ、も、ああっ!!」
 さすがに三箇所同時に責めると、渉も殆ど持たなかった。
 びゅくびゅくっと吐き出された精液をくちに溜めていく。
 半分だけ飲んで残りは唾液と絡ませて、脱力して胸を上下させている渉に覆いかぶさって口付けをする。
 渉は口移して自ら出したものを飲まされてごくんと喉を鳴らした。
「いやらしい味だよね」
 それだけ囁いて僕は自分の唇を指の平で拭う。渉はボーっとそんな僕を眺めていた。
 頬のラインを少しだけ指先で撫ぜて、僕はベッドを降りる。
 もう少しすれば渉の両親が帰ってくることだろう。僕はまだ一度も会ってない。
 後ろめたくて会えないということもあるし、たとえ家族でも僕以外の人に笑顔を向ける渉を見るのが嫌という醜い嫉妬心もあった。
「シャワー、浴びてね」
 簡単に身づくろいをしてカバンを手にした。無理やり押し込んだ股間がきつい。帰ったら抜こう。
 さっきは渉に跨らせたけど、僕はまだ入れたことはない。無理に押し込めば渉も流されるだろうけど、ちょっと僕が踏み切れないでいる。
 僕と別れることになるかもしれないし。
 男と付き合った過去は消えなくても、最後までしてないっていう矜持は渉にだって必要だろう。
 この恋はひどく脆いものだ。そして僕は渉に執着しながら、心のどこかではやく壊れてしまえと思ってる。
 だから服を脱いでセックスしないし、事後はいろんなことに気が咎めてそそくさと帰る。
 どう考えたってこんな男最低だろう。
「じゃあね」
 ベッドに横たわったままの渉の額に口付けだけ落として、僕は部屋を出た。
 廊下に出て真っ直ぐ玄関へ。革靴を履いて外に出ると、寒さが身に染みる。
 部屋も少し寒かったかな。渉、ちゃんとお風呂で暖まれるといいけど。
 なんて考えながらエレベーターに向かおうと足を踏み出した時だった。
「睦っ!」
 背後から呼びかけられて思わず振り返る。
 そこに立っていたのは渉で、その身体には何も身に付けていなかった。右手には小さな紙バッグを持っている。
「わた、ちょ、戻って......!」
 慌てて部屋の中に渉を押し込んで、周囲を見回す。......よかった。誰もいない。
「どうしたの急に」
 仕方なく中に戻って問いかけると、渉もバツが悪そうだった。
「や、その......帰る前に渡そうと思ってたんだけど、これ......」
 差し出された紙バッグ。中を覗いてみると、なにかの包みが入っている。
「睦って夜もちゃんと起きて勉強してるんだろ? だから、夜食......」
「夜食?」
「うん。夕飯は家の人と食べるんだろうから、よかったらそれ食って。あ、でも強制じゃねえし、嫌いなものだったら捨てていいから」
 そんないじましいことをけろりとした表情で言う。
 だって、これ、僕が来るからって前もって用意してたんだろう?
 服も着ずに飛び出して来るぐらい慌てて追いかけてきて。
 なのに捨てていいなんて。
「......君って、」
「ん?」
「甘いね。......そんなじゃ、悪い女に捕まるよ」
 馬鹿にしたような声を出すつもりだったのに、全然声が掠れて出なかった。
 渉は少しだけ驚いたようだったけど、すぐに得意げな表情を浮かべる。
「大丈夫だろ、もう悪い男に捕まってるし」
「......」
 言葉もない。
 全部理解した上で、僕と一緒にいるつもりなんだろうか。
「......睦って意外とかわいーなおい。たまんねえ」
 呆然と立ち尽くしていた僕に、渉はちょっと背伸びをしてキスをする。
 さっさと帰らないととか、たまには渉の作る料理を一緒に食べてみようか、なんて相反する思いをぐるぐる考えながら、僕は一歩も動けなかった。
 そんな僕に服も着ずに何度もキスを仕掛けてくる渉も、大概かもしれない。


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