一流のネコ?-3

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 俺が襲った人は、羊の皮を被った狼でした。

「ちょお!達樹先輩、これじゃあ強姦ですよ!」
 怒り狂う狼から逃れようと、部屋を移動する俺の両手は、ネクタイで拘束されている。
 硬直した俺を縛り上げたのは達樹だ。
 縛られたところではっと正気に戻って、現在逃げ回っている最中。
 さっき意気揚々とスラックスと下着を脱いでしまったため、フルチン状態の俺は部屋の外に逃げ出すこともできない。
 ちなみに達樹はスラックスだけ脱げてる状態だ。
 くそう。トランクスも脱がしておけば良かった!そうすれば達樹の可愛い息子さんにご挨拶できたものを!
 そんなことを考えるだけ、俺には余裕があるのかもしれない。
「君がしようとしていたことを、そのままそっくりお返しするだけだよ。...ちょこまかと逃げるんじゃない!」
 言葉の通り、俺は狭い部屋をすばしっこく逃げていた。
 いや、どちらかと言えば達樹の動きが遅いのだ。
 おそらくこんな風に人を追いかけたりした経験がないのだろう。
 いらいらとしているようで、達樹はチッと舌打ちをする。
「ほら、おいで。このまま逃げていてもしょうがないの、わかるでしょう?」
 手を差し出して、まるでネコか何かを呼ぶように俺に話しかける。
 そんな手に乗るもんか、と思ったが、ふと悪戯心が沸き起こって俺は軽く首を傾げた。
「ほんとうですか?」
 目に見えて、達樹の雰囲気が柔らかくなる。
 俺が首を傾げても、キモイだけだと思ってたけど、実際は意外に効果があるもんなんだな。
 頑張って達樹がいう『可愛い』子を目指しちゃうぞ俺。
「本当だよ」
「じゃあ、これ外してくれます?」
 手首の拘束を見せて上目遣い。
「外すよ。ぎゅって、抱きしめてあげる」
 その誘惑に、ついつい騙されそうになるが、我慢だぞ俺。
 俺だったら抱きしめたと同時に、がっちりホールドするもんね。
「じゃあ、エッチさせてくれる?俺の童貞は、達樹先輩のお尻に捧げていい?」
 あけすけな言葉に、達樹の視線がふっと彷徨う。頬が赤い。
 戸惑っているんだろう。
 俺を油断させて捕まえるために、わざと俺の誘いに乗って油断させるか。
 心を決めたのか、彷徨わせていた視線を俺に向けた。
 軽く、唇を噛んでから開く。
「......しょうが、ないね。悟になら......いいよ」
 恥じ入るように後半は小さくなる声。ぎゅっと胸元で握られた拳。
 儚い月の容貌と相まって、思わず抱きしめたくなる。
 でも駄目だ。それじゃ俺の負け。
「それなら、俺のチンポ欲しいって言って?」
 何度か赤い唇が声なく動く。
 潤む眼差し。
 あー......すっげ色気。その後ろから殺気も見え隠れしてるけど。
「......ほ、ほしい...よ。さとる......」
 搾り出した、というようなか細い声は、ぎりぎり俺に届いた。
「がっつんがっつん突き上げて、いい?達樹のお尻の穴でいっぱい出していい?ぐちゅぐちゅに濡らして、お尻の刺激だけで、達樹イッてくれる?」
 かあっと、達樹が首まで赤くなる。
 伏せ目がちに俯いて、身体を震わせた。
「あと、達樹の綺麗な顔にザーメかけてあげる。身体にもいっぱい。俺のでぬるぬるしたチンポ擦って、俺の前でオナッて」
 うあ......想像しただけで、俺、漏らしそう......。
 が、妄想に耽る時間はなかった。
 俯いた達樹の瞳が光ってみえ......え?
 途端に、ぬいぐるみが俺目掛けて飛んできた。
「ぉわ!」
 間一髪で大き目のクマのぬいぐるみを避けると、壁に当たってゴッという鈍いがする。
 それは、重いものが当たったときに出る音だ。
 え、なに?なにが当たったの?
「この僕に対して、言葉責めなんて......調子に乗るなッ」
 達樹は真っ赤だった。
 ぎらぎらした瞳が俺を睨んでいるが、......なんとなくそんな顔も俺のオカズになりそうです。
 けど、だらしない顔をしている時間はない。
 ぶんと投げつけられるぬいぐるみ。
 今度は壁に当たっても鈍い音はしなかった。
 変わりにガシャンという割れる音。
「せ、先輩!ぬいぐるみん中なに入ってるんですか?!」
「気になるなら、中見てみるといいんじゃないかな」
 寒気のするような、冷えた笑みをうっすらと浮かべる達樹。
 ふ、振り返って中身を見たいけど、今現在も達樹の手にはぬいぐるみが握られている。
 俺が意識を逸らした瞬間に、それは達樹の手から離れて俺に飛んでくるのは目に見えている。
 お互いが見合ったまま膠着状態だった。
 と、
 急にドアががちゃっと開けられた。
「......」
 ドアから顔を覗かせたのは黒髪の癖っ毛の男。
 もじゃもじゃした髪がうざったそうで、表情が読めない。
「......煩い、月島」
「ごめんね天野」
「静かにしてくれれば、いい」
 男は首をふるふる振って、すぐに出て行ってしまった。
「誰、すか?あれ......」
 緊張が、男の登場で消し飛ぶ。
「同室の天野恵吾だよ。真下の部屋にいつも入り浸ってるんだ」
 へええ、あの人が達樹の同室......。
 羨ましいという感情のまま、俺はその人が去ったドアを睨んでいた。
「野の花が好きな稀有な人間だよ。僕のことは眼中にないらしくて、気を使わなくていいんだ」
 達樹が苦笑しながらぬいぐるみを置く。
 どうやら、達樹の方も気が削がれたらしい。
「......化けの皮が剥がれてるんじゃないですか?」
「そんな間抜け、僕がすると思う」
 ふふふと笑う達樹は、先ほどの雰囲気はまったくない。
 明るく優しい雰囲気は、みんなが憧れる『月姫』のものだ。
 剛速球とばかりにぬいぐるみを投げつける達樹を見たあとだと、物凄く違和感を感じてしょうがない。
「あーあ、僕の秘蔵の焼酎が...」
 ため息を付きながら、達樹はぬいぐるみを拾う。
 一つは腹から染み出た液体で、ぐっしょり濡れていた。
「焼酎?」
 俺はぽかんと口を開ける。
「秘密ね。もしもばらしたら、君のその可愛いおちんちんの写真、校内掲示板に貼り付けるよ」
 細い指で指されて、俺は慌てて股間を手で隠した。
「現在成長中です!可愛いって言わないで下さい」
 俺の身長と一緒に、すくすく伸びる予定だ。......たぶん。
「はいはい。わかったから服着て」
 達樹が俺の手首を縛り付けていたネクタイを外してくれる。
 むう。軽くいなされてしまった。
「ベッドの上での勉強は無理か。色気を身に付けるのは、それが一番簡単なんだけどね」
「......達樹先輩は、経験あるんですか?」
 なんの経験かは、達樹なら問わなくてもわかるだろう。
「ノーコメント」
 達樹は、俺の唇に人差し指を押し付けて、誤魔化してしまう。
 肩をすくめて微笑む達樹に、あらぬ想像しか掻き立てられない。
「まずは、周囲の人間に庇護欲を抱かせるような仕草と行動を心がけてね。まあある程度は僕を見ているとわかると思うけど。......あ、もしその行為に対して、誰からか嫌がらせを受けたら、お兄さんに言いなさい」
 対処してあげるから、と長い足を組みながら髪をかきあげる。
「はあ......」
 嫌がらせねえ。俺が自分でどうにかしちゃいけないんだろうか。いけないんだろうな。
「返事は?」
「......はい。僕がんばりますぅ」
 きらりんと無駄にぶりっ子になりながら答える。
「いや......それはキモイよ」
 くっくっくと笑いながら駄目出しされてしまった。
 難しいんだな可愛い子のフリって......。


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