騙すなら、身内から-2

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 俺は結構頑張ったほうだと思う。
 花の微笑みってこんな感じ?って笑みを浮かべて、にこにこずっと笑ってた。
 真宏はそんな俺を気持ち悪そうに見てたが、クラスメイトのやつらには大好評でした。
 むやみやたらにあっつい視線で見てくるのには困ったけど、荷物運びを手伝ってくれたり、購買部ですぐに売り切れる限定パンとか買ってきてくれたから楽......いえいえ嬉しかった。
 しかし、あいかわらず真宏は、俺に対していつもと変わらない態度だ。
 他の人と同じようにはお姫様扱いしてくれない。
 昨日だって酷いものだ。
 「シャンプー切れてるんだ」と俺が部屋のシャワーを使ってるときに入ってきて、足の間からシャンプーのボトルを取っていったのだ。
 あっという間のことだったから、文句を言う暇もなかった。
 むっとした俺は、シャワーを出た後に詰った。
 「お前は無礼だ。礼儀がなってない」と。
 そしたら、真宏は鼻で笑ったのだ。
 まだ尻にある青痣気にしてんのかと言われて、頭に来たから確認しろって服を脱いだ。
 あったのは小さい子供の頃だ。今はもうない。
 その事実を真宏に突きつけて、安堵したが、次の瞬間に言われた言葉に更に頭に来た。
 「身長と同じでソコも小さいままだな」なんて真面目な顔で言うなんて、根性が悪すぎる。
 あんまりにムカついたから、真宏のズボンも脱がしてやった。
 俺も真宏のイチモツを見て鼻で笑ってやろうと思ったから。
 しかし、それは無理だった。
 ......ヤツの息子は、それはそれは大きく成長されていて、俺は言い知れぬショックを受けた。
 中学生の頃、同じぐらいの身長だった真宏とどっちが先に大きくなるかと、見比べていた頃が懐かしい。
 か、形だって違うものになってて、俺はへこんだ。
 へこんだまま寝たら、それはそれは大きく育った俺の息子さんに会う夢を見て、ちょっと喜んだ。
 そして朝になって深く落ち込んだ。
「チンポの大きさ比べちゃ、駄目だろう......」
 お姫様はそんなことしない。達樹だってしないはず......。
 しないだろうと思っていても、目の前で大きさ比べようと服を脱ぐ達樹を想像して、俺は朝から悶々してしまった。
 どうかな?なんて、恥じらいながら足を開く達樹を想像するだけでもう......。
「なに、朝っぱらから勃たせてんだ?」
「ぎゃ!」
 ぐふふと布団の中で転がっていたら、寝起きの真宏に布団の中に手を突っ込まれて、アソコを握られた。
「どうしててめえに俺が勃起してるかわかんだよッ?!」
「勘」
「どんな勘だッ?!」
「匂うから、朝から抜くならちゃんと換気扇回せよ」
 はふ、と欠伸を零して、真宏はさっさと洗面台に向かってしまった。
「なにあいつ!なにあいつ!無神経男めッ!」
 苛立った俺は、だだだっと洗面台に向かい、顔を洗っている真宏の腰に一発蹴りを入れてからトイレに逃げ込んだ。
 悠々と用を足してからトイレを出ると、じっと高い位置から見つめられる。
「何だよ」
「......うん。お前は今みたいに小猿のようにしてるほうが、合ってる」
 口元に笑みを浮かべた真宏に、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「俺が小猿ならお前なんかトーテムだ!折れてしまえ!」
 げしっともう一度蹴りを入れて、俺は部屋を後にした。


「それで、首尾はどう?」
 真宏に猿と言われた日の、昼休み。
 俺は、経過が知りたいと言った達樹に呼び出されて一緒にごはんを食べることになっていた。
 達樹のことだから、食堂でいろんな人に囲まれて食べているのかと思いきや、屋上で一人、汚れた貯水槽の傍でごはんを食べているらしい。
 俺は食堂はたまにしか利用しないから、達樹が食堂を使わないのを知らなかった。
「まあまあ、かなあ?」
 てへ、と笑うと、達樹もにっこり笑ってくれた。
 にこにこにこにこ......。
「2時間目の休憩の時間に、みんなの前で回し蹴りしたんだってね」
 ぎくう。
「相手の3年生、全治2週間だって聞いたよ」
「だって......」
 むすっとした俺に、達樹は少し困ったように笑って、額にキスをくれた。
「どうしてそんなことをしたのか、教えてくれる?」
「廊下歩いてたら、前になんか書類を抱えた男がいてさ、俺ぐらいの身長の」
「それで?」
「書類が重そうで、俺、手を貸すか悩んでたんだけど、そんときに前から来た3年が」
 3年は二人組みだった。
 一人がもう一人に意味ありげに目配せをし、書類を運ぶことで気が回らなくなっている男の足をさりげなく引っ掛けたのだ。
 男を心配して見てた俺は、それをしっかり目撃していた。
 3年は「あぶねえな、気をつけろよ」と助けるわけでもなく、散らばった書類を集めるわけでもなく立ち去ろうとして......。
「で、足が滑ったって、回し蹴り?」
「うん」
 達樹に嘘をついてもしょうがない。
 こっくりと頷いて達樹の様子を見る。
 達樹は少し思案するような仕草を見せて、それから笑った。
「君は口よりも手が出るタイプなんだね」
「だって、すっげえムカついた」
 今思い出してもイライラする。
 もう一発蹴りを入れてやれば良かったと、今でもそう思う。
「でもまあ、大事にならなかったみたいだし、良かったね」
「ぅえ?」
 咄嗟に走って逃げたが、達樹の言うとおり、目撃者は多数だった。
 回し蹴りを目撃したクラスメイトの何名かには、お前やりすぎと心配されたほどだ。
 それに、今朝のことなのにもう既に達樹に伝わっている。
「大丈夫。先生からの小言なんてないから」
 ......そうなんですか。
 達樹がそう言うからにはそうなんだろうと、俺は頷いた。
 とりあえず、達樹にも小言を貰わずに済んで、俺はほっとする。
 やっぱり怒られたくないし。
 俺が買った弁当の焼き魚を食べている隣で、達樹はパンを齧っている。
 購買部に売っているパンだが、小さいものが二個だけだ。
 それだけで足りるんだろうか?
 俺は弁当以外にも、おにぎりを買っているから午後もバッチリ動ける。
「達樹」
「ん?」
 思わず、玉子焼きを一口サイズに切って差し出す。
「僕にくれるの?」
「うん。食べて。それだけじゃ達樹お腹空くんじゃない?」
 俺の指摘に、達樹は少し困ったような顔をして笑う。
「あんまり食べなくても平気なんだ。けど......ありがとう」
 あーん、と達樹は口を開いてくれる。
 その小さな口に玉子焼きを入れて、俺は達樹に見惚れた。
 もごもご口を動かしている仕草も人とは違う......気がする。
 俺のも口に入れて舐めたりしてくれないかなぁ......。
 なんてことを考えているのが顔に出ていたのだろう。
 達樹はにっこりと笑うと、俺の頬をぐいっと引っ張った。
「いてててて!」
「だらしない顔をしない」
「ひゃい......」
 注意されてしまった。


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