番外編-17


「ともあきさん?」
 しばらくして、声を掛けられる。
 ぴったりと潜っていた俺は、それで半分眠りかけていた意識を戻して、目元だけ布団から覗かせた。
「......」
 和臣は俺と目が合うと、なんとも言えない柔らかな笑みを浮かべる。
 ぺろっと俺の足元の布団を持ち上げて、下から中に入ってきた。
 俺の場所を確認するように、触れる手がくすぐったい。
「よっと」
 ようやく同じ視点まで上ってきた和臣は、俺の身体を横向きに背中から抱き寄せて、うなじに顔をうずめた。
「ともあきさんの匂いだ」
「ばか、くすぐってえ」
 身を捩って向き合おうとするけど、和臣はその気がないようで、俺の胸の前に回された腕の拘束は弱まらなかった。
 俺、壁見てんのつまんねえんだけど。
 でも寝るだけならいいのかと、再度目を閉じる。
 俺を抱いた和臣は、落ち着かないのかごそごそ動いていた。
「ん......」
 熱い吐息が、首筋と耳たぶを掠める。
 あ、これは。
「かず」
「わるいそっち見てて」
 振り返ろうとすると、そうやんわりと身体を押さえられた。
 一度は自分から抱きついたくせに、俺と距離を取ろうとする気配が、する。
 カチンと来た俺は、がばっと起き上がって布団を剥ぎ取ってやった。
 向ける視線の先は、恋人の下半身。
 慌てた和臣は、布団で下半身を隠す。
 だが、俺はちゃんと見た。
 布地を押し上げるように隆起しているものを。
「見た?」
「見た」
 尋ねられて即答する。
 途端に、視線を逸らされた。
「......ごめん。あのホント、添い寝だけでいいから。俺の状態は気にしないで」
 ふうん?
 気まずそうな顔をしている和臣に、俺は目を細めた。
 布団をかぶって、向き合うようにして逃げ腰な和臣に抱きつく。
 適当に見当をつけて、和臣の足に太ももを擦り寄せる。
「ッ」
 和臣が息を飲んだ。
 僅かに反った喉が、上下する。
 太ももに当たる、ごりっとした感触。
 今度はそこを意識して、擦り寄せる。
「っともあきさ」
「なんで、我慢すんの」
「だって」
「だってじゃない」
「明日、ともあきさんしご」
 無駄な押し問答を繰り返すつもりはなかった俺は、和臣のソレを軽く握った。
「......ッあ」
 和臣の口から漏れた声が......エロい。
「えと、その、......するぞ」
 こういうことを催促するのは、得意じゃない。
 けど、ばかは言わないとすぐに我慢するから、羞恥を耐えて声をかける。
 受け入れたい気持ちはあるけど、あんまり慣れてない俺は、翌日仕事があるときは無理だ。
 だから。
「手と......く、くち。どっちが、いい?」
 声が上ずった。
 顔が赤くなってる自覚はある。
 でも、恥ずかしさに負けずに、俺はじっと和臣を見つめた。
「と、ともあきさん......」
 なぜか和臣も真っ赤だった。
 お前俺より経験あるんだから、もっとリードしろよ。
 どうして、恋人同士でベッドの中にいるってのに、2人で真っ赤になってきゃいけねえんだ。
 きゅっと唇を閉じた俺とは反対に、和臣は口を閉じたり開いたりを繰り返している。
 言いたいことがあるならさっさと言え!
 だんだん俺の目つきが悪くなってくるのを、間近で見た和臣は慌てて言い放った。
「あ、足で......お願いします......」
 そのまま和臣は、ぷしゅうと湯気を出さんばかりに赤く火照った顔を俯かせる。
 あし?足ってなんだ?踏みつけんのか?......えええ?
 よくわからないまま、俺は「いいぞ」なんて偉そうに、承諾した。
「ありがとう。ともあきさん。嬉しい。好きだ。......好き」
 ぎゅっと抱きついてきた和臣に、口付けされる。
 キスを繰り返しながら、和臣は俺の服を、丁寧に脱がしていった。
 すっかり服を脱がされて身軽になった俺。
 晒されて心もとない肌を隠したくなるけど、そこはじっと我慢だ。
 女じゃねえんだし、そんな見られるぐらい......。
 そう言い聞かせるけど、俺の身体を跨いだ和臣が、腰を浮かせて上着を脱いだ。
 滑らかな筋肉と、程よく日に焼けた肌。何度見ても、無意識に貧相な自分と比べて、俺は胸の前でぎゅっと手を握った。
「ともあきさん」
 強い眼差しは欲情を隠さずに、舐めるように俺を見た和臣は、ベッドヘッドにある備え付けの小物入れからローションを取り出した。
 片手にローションの入った容器を持ったまま俺を抱き寄せる。
「あ......ッ」
 軽く額にキスを落とした和臣は、首筋を唇で辿り、胸の突起を食んだ。
 唇で押しつぶされる感覚。
 ざらりと舐められて濡れていく。
「ひ、ぅっ」
 かり、と軽く歯を立てられて、身体が勝手に跳ねた。
 愉悦に意識を持っていかれそうになりながら、ぼんやり俺は考える。
 ど、どのタイミングで、踏めばいいんだろうか......。
 和臣にそういう趣向があるなんて知らなかったけど、まあ、その程度なら寛大な俺は許してやろうじゃないか。
 ただ、エスカレートしていったら困る。
 ちゅっちゅ、と肌に吸い付いて、俺の感度を上げていく和臣を見下ろした。
「どした?」
 視線に気付いた和臣が、空いた手で俺の頬をなでる。
 その手の平にすり、と頬をすり寄せて口を開いた。
「俺、よりお前の......する」
 どうにか、声を震わせずに言えた。
 そのことに満足していると、目を細めた和臣がぎゅっと俺の頭脇のシーツを握る。
「俺のこと、萌え死にさせるつもりなの」
「へ、燃え......?」
 咄嗟に意味を理解できずにいると、上半身を起こした和臣はローションを手に取った。
「一緒に気持ちよくなろうね、ともあきさん」
 もえ、燃え......ああ萌えか。
 目の前でローションを手の体温で温めていく男を見て、ようやく察する。
 つーか、俺に萌えってなんなんだ。
 よくわからない。
 とりあえず起き上がろうと膝を立てたところで、足の間に手を差し込まれた。
「ぅ、ひゃ......ッ」
 ぬるっとした手の平に、性器を愛撫される。
 ち、力はいんね......。
 俺が立ち上がろうとするのを邪魔するように、和臣は濡れた手の平で性器や、その周辺をぬるぬるにしていく。
 ちょ、やべ。きもち、い......けど、これ......。
 玉の下までぬるぬるにされて、太ももを擦り合わせると、くちゅっと音がした。
 半勃ちになった俺のものがてらてら光って見える。
 まるで、幼い頃にした粗相を思い出させるような濡らし具合に、俺は瞳を潤ませた。
 恥ずかしい。なんでそんなとこ濡らすんだ。
 更にローションを足そうとする和臣の腕を掴む。
「や、かず。これ、嫌だ......なんか、やだ」
 切々と訴えると、和臣の眉尻が下がった。
「駄目?どうしても?」
 どうしても駄目なら、引くつもりなんだろう。
 そう問いかけられて、俺は動きを止める。
 もう一度嫌、と言ったらここで終わりだ。そう思うと、首を横に振ることも出来ない。
「な、なんで、こんなに濡らす、んだ」
「だって濡らさないと俺も痛いし、ともあきさんも気持ちよくないよ。......や、ともあきさんが気持ちよければ、俺が痛いのはまあ別にいいんだけど、でもそれじゃここまで準備した意味が......」
 痛いのはいいのか、やっぱコイツマゾか。
 ぶつぶつと呟き出した和臣に、俺は決意した。
 マゾでもなんでも、好きなことには変わりない。恋人の望みぐらい叶えてやろうじゃねえか。
「ふ、踏んでやるから、どけばか」
「......へっ?」
 ぐいぐい押しのけようとすると、和臣は間抜けな声を上げた。
「それとも、あしで、す、擦ればいいのか」
 いわゆる足コキがお望みかこのやろう。いつかその変態な根性叩き直してやる。
 泣きそうになりながら身体を起こしかけると、がしっと腕を掴まれた。
 少し、訝しげな表情をしている。
「足で擦ってもらうのは、間違いじゃないけど......なんか勘違いしてない?」
「してない」
「嘘だ。してる」
 俺の顔を見た和臣はきっぱり言い切った。
 んだとてめえ。
「お前、マゾなんだろう。踏まれたいんだろうが」
 だから俺は頑張ろうとだな......。
「ち、違う違う!!」
 鼻を啜ってじろっと睨みつけると、思いっきり否定された。
「『足』でって言ったのが間違いだったんだな俺。......正確に言えば、太ももなんだよ」
 へ?
 今度は俺が虚を付かれた。
「ココで」
 言いながら和臣は膝頭で挟んで俺の足を閉じさせ、軽く拳を握る。
「こーやって......」
 和臣の動作を見ていたせいで、油断していた。
「ッ、あ、あっ......あぁっ!」
 強制的に閉じられた足の付け根、股関節の間に拳を入れられて揺さ振られる。
 裏筋と精嚢と、その下の肌をごつごつとした指で擦られて、俺は声を上げた。
 ローションで程よく摩擦が消されて滑って、気持ちよすぎて目の前がチカチカした。
「擦って、一緒に気持ちよくなるんだけど......ともあきさんなんつう声出すの。うっかりイクとこだったじゃねえか」
 危なかったと胸を撫で下ろす和臣。
 俺は激しく胸を上下させながら、口を開いた。


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