番外編-22


 外出する時に持っていた財布の中に、ゴムを1つは入れておいて良かった。
 オイルはないから、時間をかけて舐めて濡らした。
 すぐ傍のキッチンにはオイル、もう少し行けば寝室にローションもある。
 けど、ともあきさんから離れてそれを取りに行く余裕は、俺にはなかった。
「は、ぁ......」
 リビングの明るい光の下で、激しく上下する白い胸。
 そこにいくつも散らばった赤い鬱血に、密かに満足する。
 ともあきさんが達した証に、白濁が腹から胸にかけて散っていた。
 それを見た俺は身体を屈めて、その精液を舐め取っていく。
「ぅあ......」
 入れたままだったから、より深く結合してともあきさんが喘いだ。
 まだ、足りてない。
 ともあきさんが欠乏してるけど、普段1回で終わっているから、これ以上は手を出しにくい。
 やる前にひっそりと1回、2回抜くのはいつものことだ。
 やっぱ男同士ってどうしても受け入れる側の負担が多いから、一度だけで満足するように濃厚な前戯と、その前に精を吐き出しておくことはかかせない。
 今日は、急だったからしくじった。
 名残惜しく肌を撫でて、硬くなったままの性器を引き抜きかける瞬間、ともあきさんのソコに、きゅっと締め付けられて留まる。
 抜くのを嫌がるような動きに、また奥に突き入れたい衝動が俺を襲った。
 あとで自分で出そう。そう思いながら、ともあきさんの身体を清めるために動き出したときだった。
「和臣」
 呼ばれて視線を落とす。
 起き上がったともあきさんが、俺を見ていた。
 今は対面座位のような状態で、入ったままだからより辛いだろうと引きかけると、腰を掴まれた。
「ともあ」
 名前を呼ぼうとすると、人差し指が俺の唇に押し当てられる。
 喋んなってことか。
 どうしたんだろうと見つめていると、座った俺の胸板を押した。
 え?
 その力は意外に強く、そのまま俺は仰向けに倒れる。
 なんだ?
 ともあきさんを汚したままじゃ、俺が嫌だ。
 だから起き上がろうとすると、それを遮るように俺の腹に手を置かれた。
 ゆっくりと腰を持ち上げて引き抜くと、俺の胴を跨いだともあきさん。
「ッ」
 引き抜く際に、息を詰めるともあきさんはとても綺麗だ。
 落ち着くと、次は自分の唇に人差し指を押し当てて微笑む。
 喋るな動くな、と制約されて、戸惑いながらともあきさんの動きを見つめた。
 そんな俺の前で、ともあきさんはペニスに付いていたコンドームを外す。
 精液塗れのソレは、硬く勃起したままだった。
 握られて、今度は俺が息を詰める。
 目は、ともあきさんから離せない。
 まさかまさかまさか。
 驚愕で目を見開いてしまう。
 片手は、俺のモノを掴んで。もう片手で、自分の秘部を探って。
「あ......っく、ぅ......んっ」
 ともあきさんは、ゆっくりと腰を下ろした。
 熱い。っなんだ、これ。
 生で挿入したことは今まで一度もなかった。
 柔らかく濡れる内部に締め付けられて、俺は目を閉じて反る。
 くちゅ......ぺたん。......ぺたん。
 薄っすらと目を開くと、ともあきさんがゆっくりとした速度で、腰を揺らめかせているのが見えた。
 眉根を寄せて苦しそうな表情。
 快感が薄まっているのか、達したともあきさんのモノは力ないまま頭を垂れている。
 それを見た俺は、ともあきさんの腰を掴んだ。
 ともあきさんがイイのは、このあたりで......。
「ひゃ、ん!」
 意識して擦り付けると、嬌声が上がった。
「ばかっ......ああっ、おれ、するから......ッ」
「俺ばっかり気持ちよくても、意味ないし。一緒に良くなろ?ね」
 腰に当てた手を外そうとするともあきさんを宥めすかして、突き上げる。
 細い腰だ、このまま突き上げすぎても負担をかける。
 そう思って俺はともあきさんの高ぶりに手を当てた。
 上下に揺らして、先に吐精を促す。
 先にイかせてすぐに抜かないと、俺の方が我慢しきれずに中に吐き出してしまう。
 そんな思いの俺とは裏腹に、ともあきさんは。
「っく......ぅう、あ」
 揺らめかせる腰と、締め付ける後孔。あと、表情と声で俺を高みに押し上げようとする。
「も、だめ、出るから......ッ」
「だせ、よ」
「駄目だって」
 腰を上げさせて引き抜こうとすると、きゅっと締められた。
「うあ!」
 種の本能だろうか、ともあきさんを逃そうとしていた俺の手は、より深く結合させるようにしっかりと掴み、俺は強く突き上げていた。
 どくどくと、俺自身が脈打つのがわかる。
 だ、出しちまった......。
「ん......っふ」
 俺の精を受けたともあきさんは、髪をぱさぱさと揺らして、くたりと上半身を倒した。
 呆然と荒い呼吸を繰り返していると、俺の胸に顔を乗せたともあきさんが笑う。
「悔しいけど、成功したなお前」
「え?」
 言葉の意味を理解できずにいると、ともあきさんが俺の首に顔を寄せた。
 かぱっと大きく開けた口が見えていたら、俺は抵抗しただろうか。
 ......しねえな、きっと。
「い、ってえええええええ!!」
 俺が付けられたキスマークの上に、ともあきさんが思い切り噛み付いて、俺は堪らず声を上げた。


 俺の首筋には歯形の鬱血が残り、ひっそりとアヒルのおもちゃは刻んで捨てた。
 同じアヒルの新しいのを買ってバスルームにおいて置いたけど、ともあきさんはそれに気付いただろうか。
 職場で歯形を見せたら、俺が女を殴って逃げたことを妙に納得された。
 どれだけ俺の恋人は、嫉妬深くて暴力的だと思われたんだろう。
 でも、ちょっと。......いや、かなり嬉しかった。


←Novel↑Top