番外編-27
ご飯も終えて、シャワーも交互に浴びてからは、寛ぎの時間だ。
ソファーに座ってテレビをみている俺に対し、かずは俺の膝をまくらがわりに、窮屈そうに足を折りまげてソファーに横たわって雑誌を読んでいる。
大抵いつもこのパターンだ。かずはそれほどテレビが好きじゃないのは、一緒に暮らすようになってから知ったこと。
対して俺は結構なテレビっ子であるため、ドラマやワイドショーも大好きだ。
この時間は会話も殆どないが、かずが俺の手を握っているために心情的にもより深くなってるような、気がしないでもない。
一度前に薫さんにこの光景を見られたときに、心のそこから悪態をつかれたので、濃厚に甘い空気が漂ってる、らしい。
もう、いつものことだからわかんねえけど俺は。
「そろそろ寝よっか」
俺が欠伸を噛み殺しながらテレビを消したところで、かずも雑誌を閉じて身体を起こした。
寝る準備は整ってるから、あとは寝室に向かうだけだ。
そう、寝るだけ......。
改めてそう思うと、俺はそわそわしてしまう。
「先行け」
かずを寝室に追いやって中に入るのを確認してから、俺はいそいそとキッチンに向かう。引き戸の中にしまった角砂糖を取り出し、透明な小瓶に角砂糖を入るだけ入れていく。
それからきょろきょろと周囲を見回して、調味料が置いてある棚にその小瓶を置いた。
幼稚っぽいのは充分わかってる。......明日になったらかずに気づかれる前に片付けよ。
それでもなんだか気分が良くなって、俺は鼻歌を歌いながら寝室に向かった。
ベッドに入るとかずが手足を絡めてくる。暑苦しいが、抱き合って寝るのは安心できるから好きだ。
「なにしてたの?」
「なんでもない」
俺が素知らぬ顔でつげると、かずはそれ以上追求せずに俺にオヤスミのキスをくれた。
目覚ましがなり、俺は即座にその音を止める。
そっと隣で眠る男の顔を覗き込むが、かずはすやすやと寝たままだった。
良かった。起きてねえな。
起こさないように、かずの足と腕をどかしてベッドから這い出る。
今日は珍しく夢を見た。小人が出る夢じゃなく、俺が小人になってる夢だった。
普通サイズのかずに踏み潰されそうになって、でも途中で気づいたかずに助けられて、「小さくても好きだよ」と言われるという......。
「......」
いま思い出しても変な夢だ。
なんか恥ずかしい。忘れてしまえあんな夢。
熱くなった頬を自分のひんやりとした手の平で覚ましながら、俺はキッチンに向かい、角砂糖の入っている小瓶を掴んだ。
......ん?
数が、少ない気がする。あれ?
思わず瓶を逆さにして皿の上に角砂糖を落として数えてみた。
俺が入れた数は18個。......瓶の中には17個しか入ってない。
胸が高鳴った。ここには、小人がいる?......待て待て。考えろ俺。
どっちかって言えばネズミのほうが可能性が高い。更に言えばネズミよりももっと高い可能性がある。
俺は空になった小瓶を握り締めて、寝室に走った。
こんもりと山になっている布団を剥ぎ取ってかずの上に乗っかる。
「こら、起きろ」
いつ気づきやがったんだてめえ。俺の密かな楽しみを!
ゆさゆさと上から男を揺さ振ってやると、うっすらと目を開いた。
「あー......?おはよ......ともあきしゃん......」
寝ぼけながらかずは俺の身体に手を伸ばす。
抱き締められてそのままぽすっとかずによりかかった俺は、小瓶をかずに見せ付けながら訴える。
「角砂糖、どこに隠した。出せ」
「らんのこと?......ひらないよ」
舌が回ってない。......こいつ。
素知らぬ振りをするかずに、俺はむっとして耳を引っ張った。
「いて、いてててて!」
呻いて口が開いたところで、俺はやつに口付ける。
舌を差し込むと、こつんと甘い塊にぶつかった。
食うか。よりにも寄って角砂糖を食うのか!
昨晩か今朝か、いつかはわからないがコイツは俺が密かにやっていたことに気づいたのだろう。
それで、角砂糖を小人の代わりに隠してみせたのだ。
「かずっ......おま、っん......」
俺が文句を言おうと唇を離しかけると、より深く口付けされた。
ううう......あっまあ......。
甘いのが嫌いな俺は、当然嫌がる。
でもかずはすぐには離してくれなくて、口の中の角砂糖が溶けてなくなるまでキスを続けられた。
「......」
「睨まないでよ。ちょっとしたサプライズじゃん。ドキドキしただろ?」
口付けを終えると、かずはにらみつける俺を宥めるように頭を撫でてくる。
そりゃ......ちょっと、本気にしかけたけど。
角砂糖はなくならなくて良かったのだ。ちょっとした楽しみだっただけなのだから。
でもまあ、俺が一人で遊んでいることに気づいて、こうちょっかいをかけてくれるのは、なんとなく嬉しい。
俺のこと見てんだなって思うから。
でもそう簡単に許すわけにはいかない。
「罰として、朝食、お前が作れ」
「はいはい。トーストだけでも文句言わないでね?」
「みそしる」
「んじゃ、トーストにインスタント味噌汁ね」
「......」
くすくすと笑って、かずが身体を起こした。よってへばりついていた俺も身体を起こすことになる。
いつまでも不機嫌になってはいられない。朝の時間は短いのだ。
「やっぱり、みそしる作る」
「そう?」
インスタントもまずいわけじゃないけど、塩分が多い。俺は健康にも気を使う。
そんなわけで、今日は二人で朝食作りだ。
キッチンに戻って角砂糖を袋に戻そうとしたそのとき。
「......あれ?」
「どうしたのともあきさん」
「角砂糖、もう1個足んない」
皿の上に置きっぱなしだった角砂糖を数える。......何度数えても、16個になっている。
「へーえ?もしかしたらうちに住んでるのかもよ、小人さん」
俺のこめかみに口付けながら、かずは甘く囁く。
だが、俺の見解は違った。
「......ネズミ駆除、頼まないと」
「ちょ、そっち?!」
真剣な顔で呟いた俺に、かずは「ともあきさんなのに夢がない」と小さく呟いた。
うるせ。