9月リクエスト-12
迎えに来たのは、軽自動車だった。
てっきり、怜次くんの車で迎えが来ると思っていた俺は、そういえば怜次くんもその大変なことに巻き込まれているんだっけ、と思い直す。
「あきちゃん乗って」
後部座席から志穂ちゃんが、顔を出して俺を呼ぶ。
「大変なことって......」
「うんと、あたしもよくわかんないんだけど、怜次が、かずちんと薫ちゃんと3人で飲んでたらしくて、収集つかなくなったから、隆介くん呼んでっていうから、じゃああきちゃんも呼ばないと、仲間はずれになるかなって」
......あいかわらず、志穂ちゃんは何言ってるかわからない。
早く早くと、急かされて後部座席に乗り込む。
「小山先輩その人誰ですか?」
運転席から低い声が掛けられる。
狭そうに運転席に座っているのは、ガタイのいい男だった。
コンビニ店員より、身長もあるし身体も大きい気がする。
「かずちんの恋人」
「え、この人が......」
ルームミラーで、まじまじと見つめられた。
きりっとした目もと。無愛想そうな、男らしい顔立ち。
だ、誰だコイツ。
びくびくして、志穂ちゃんにくっつく。
「隆介くんごぅ!」
「はい」
さっさと車を出せと言わんばかりに促され、男は車を出した。
着いた先は、ヤツのマンションだった。
......兄に散々脅された俺は、さぞかし怖いところに連れて行かれるのだろうかと無駄な警戒していたのだが、別にそんな場所じゃなかった。
男が車をパーキングに止めるというので、志穂ちゃんと一緒に、マンションの下で男を待つ。
暇なので、『友達の家に到着。昭宏の言ってたような場所じゃない』と携帯でメールを送った。
送信先は昭宏の会社用の携帯だ。
すると、すぐに返信が来た。
『油断するな。変なヤツいたら近づくなよ』
『前に、紹介した大学生のうちなんだけど。たぶん、昭宏が言うような遊びじゃないよ』
そうメールすると、今度は着信だった。
嫌な予感がしつつ、俺は電話に出る。
「......なに」
『帰って来い。別にお前が行かなくてもいい相手だろう』
不機嫌そうな声だった。仲が悪いのを忘れていた。
「嫌」
『お前......俺にそんなこと言っていいと思っ』
面倒なので、切ってしまう。
そのまま電源を落とし、俺は携帯をポケットにねじ込んだ。
「すいません。待たせてしまって」
男が来た。立って並ぶと、俺や志穂ちゃんより、頭が一つ半ぐらいでかい。
手もでかそうだった。
「いこっか。あたしは怜次連れて帰るから、隆介くんは薫ちゃんよろしくね」
「はい」
俺は誰を......?
って、考えなくてもわかった。
3人でエレベーターに乗ってヤツの部屋に行く。
たどり着くと、志穂ちゃんがチャイムを鳴らした。
とたんに足音が部屋の中から聞こえる。
「良くやったシホ!......って、なんで先輩まで連れてきてんだお前」
安堵した表情で出てきたのは怜次くんだった。
だが、俺を見て驚いた表情になる。
なんだよ。俺居ちゃ駄目なのかよ。
むすっとすると、志穂ちゃんも怜次くんを睨んだ。
「怜次、あきちゃんなしで、かずちん止められると思ってるの」
「......ああ、そうだな。お前ら二人で止めてくれ。俺もう疲れた......なんで幼馴染だからって俺ばっかり毎回毎回巻き込むんだよ。あいつらもう馬鹿じゃねえのか?」
げっそりと息を吐く怜次くん。なんだか凄い疲れているみたいだ。
志穂ちゃんに抱きついてなにやら愚痴っている。
「失礼します」
男は淡々と言って、中に入った。
まっすぐ、リビングに向かう。
「隆介!っの馬鹿!呼ばれてないのに来こないでよ~ッ!」
部屋の奥から聞こえてきたのは、薫さんの悲鳴のような声。
「薫さん帰りましょう。どうして家出なんてしたんですか。昨日、家に帰ったら貴方がいなくて驚きました」
「馬鹿!僕の家は別にある!」
「ほらほら薫!旦那が迎えに来たんだからさっさと出て行きやがれ!いつまでも俺んちに居候してんじゃねえよ」
「こいつは旦那じゃない!」
怒声が飛び交う室内。
なんとなく、聞き捨てならないことを聞いた気がして、俺はそっと室内を覗いた。
「ふざけんな和臣!一発殴らせろ!」
ヤツに掴みかかろうとしている薫さんを、男が抱き上げて止めている。
暴れる薫さんを易々と抱きしめていた。
「ははは!ばーかばーか!いい気味だ!はは、は......」
腹を抱えて笑っていたコンビニ店員が、俺に気付いて凍りつく。
「薫さん、ずっといたの?」
この部屋に。お前んちに。
じーっと見てると、ぎこちなく視線を逸らされた。
......じっくりと理由を聞かせてもらおうじゃねえか。