9月-9
「へえ......ともあきさんでも、勃つんだ......」
なかば独り言のように、ヤツにかすれた声で呟かれる。
男だし付いてるんだから、そりゃあ......っ、あ、待て、こら......!
ぐいぐいと、手の平で揉まれた。
堪らず俺は男に縋りついてしまう。
ジーンズは厚手だから、触れられている感触は直に触られるよりは程遠い。
それでも、ヤツが触ってると思うと、身体が熱くなってしまう。
「も、いやだあ......」
涙腺が壊れたように、涙が後から後から浮かんできた。
ああちくしょう!なさけねえな俺!
ぎゅっとヤツの上着の裾を握って、頭を横に振る。
やめてくれ。という意思表示だ。
それなのにヤツは。ヤツは。
「本当にやめていいの?」
動かすのはやめたが、手はソコに添えたまま、尋ねてきた。
「いいっ......」
良いに決まってんだろうこのボケ!
だんだん、俺も気性が荒くなる。
じろっと睨んだら、コンビニ店員は人差し指を唇に当てた。
「しー、ね。ともあきさん。少し耳を澄まして」
何の意図があるかわからずに俺は訝しげに男を見たが、それでも荒く上がっていた息を整えて、静かにする。
途端に男がまた、手を動かした。
「!!」
そのときの衝撃といったらないだろう。
息が弾みかけた俺にも聞こえた。わずかに、下半身の方からぐじゅって、音......。
布と、肌が、液体で、擦れるような。
「う、あ、あ......」
目を見開いた俺に、男は抱き締めて慰めるように頭を撫でてくる。
「カウパー液多い人って結構いるらしいから、安心していいと思う。けどこの状態じゃ、気持ち悪くない?」
言いながら、ぐ、ぐにぐに手を動かし始めた。
「ひ、あ......やめ、揉むな......!おと......音、いやだ......っ」
ヤツの髪をきつく掴むと、「いてて!」と悲鳴を上げた男が、ようやく手を止めてくれた。
ふーふーと息を吐き出す俺。
いつのまにか、コンビニ店員の首に腕を回している。
間近で見つめる瞳。
「と、トイレ......行く」
訴えると、途端に男の眉間に皺がよった。
「ちょっと待って。こんな状態で逃すと思ってる?俺が」
そんな力いっぱいに言われても、俺は知らない。
「離して」
「駄目」
「トイレ、行きたい」
「......俺さ、さっき二回も抜いてきてんの。二回もだよ?暴走しないでともあきさんに触るために。ご褒美くれたっていいじゃん」
年甲斐もなく、唇を尖らせる男。
んなこと、言われたって......。
「ほら、早く脱がないとシミになるよ」
そんなことを言いながら、俺のジーンズのボタンに手をかけるから、俺はその手を掴んで邪魔をする。
小さな攻防がそこで繰り広げられた。
俺が邪魔しているにも関わらず、コンビニ店員はボタンを外し、チャックを下げる。
そして手を突っ込まれた。
くにゅ。
下着越しではあったけれども、......握られた。
「わああああ!」
振り上げた俺の手が、ヤツの顎に当たった。
コンビニ店員が仰け反って倒れたところで、俺はずりずりと這って、ベッドから降りる。
そこで縁を掴んで、じっとヤツの様子を見た。
「ってえ......」
顎を抑えたコンビニ店員が起き上がって俺を見る。
目だけ覗かせた俺と、視線が合う。
「......そんなに、嫌?」
嫌って、いうか......。
「は、はずかしい」
だって、すげえ濡れてる感触、あるし......。ど、どろどろなの、見られたくない。
あとたぶん、俺のってヤツより全然、小さいような、気がする。
俺が動かないでいると、ヤツは大きくため息をついた。
「......わかったよ。じゃあ、今日はここまでにしとこっか」
男の言葉に俺はぱっと目を輝かせる。
ほんと?もう、無理に触らねえ?
「行ってきていいよ、トイレ」
凄く残念そうに告げられるが、俺はにこにこしてしまう。
手を伸ばして、俺はそっとヤツの手を握った。
「立てない。腰、抜けた」
「......」
「トイレ、連れてって」
ここまで俺を追い込んだ、てめえの責任だぞ?
じーっと見上げると、男はしぶしぶ動いてくれた。
抱き上げて、連れて行ってくれたのはよかったけど、「じゃあ自分で処理するところ見せて」なんてヤツが口にするもんだから、そこでまた一悶着起きてしまった。
つくづくヤツは変態だと言うことを理解した。