二陣-5



「な、何してんだよ!」
「見てる」
「み、見てるって......」
 俺は絶句してしまった。でんぐり返しの途中のような体勢で、胴をしのかの膝に挟まれる。尻は完全に上を向いていて、男の胸板と腹部に支えられていた。爪先は俺の頭側に投げ出しているせいで、もう、なんていうか、全部、全部丸見えだ。
 胸にかかる圧迫が半端無くて、俺はろくに抵抗も出来ない。それを良い事にしのかは薄い俺の尻の肉を掴んで左右に広げた。
 しのかの目が、俺には見えない、アソコをじっと見ている。ほとんど視界を覆った自分の腕の中からその様子を覗きみて、たまらず俺は悲鳴を上げた。
「見るなっ! そんなとこ見るんじゃねえよ変態っ!」
「初めてだし、ちゃんと濡らしておかないといけないんだろう。......ここに入れるんだな」
「あッ」
 尻の狭間に風を感じる。その生暖かさにぞくぞくと背筋を震わせていると、何かでソコを撫ぜられた。最初は指かと思ったが、違う。わずかに耳に届くささやかな水音。
「お、おまえっ! 何してんだよッ!」
 信じられない。 そっ、そこを、そんなところを舐めるなんて......!
 引き剥がしたくて手を伸ばしても届かない。し、しかもねぶる舌の動きは繊細で、アナルの縁だけじゃなく、蟻の戸渡りや玉の根元にも舌を這わされて、俺は快感に声を上げた。
「ひ、あぁあっ!」
 ぎゃああああ?! なんだこの声!
 大きく漏れた声に、慌てて片方の手で口をふさぐ。シーツを掻いてしのかから離れようとするが、がっちりと抑えこまれていて俺は情けない姿を晒していた。
 舌がもぞりと生き物のように入り込み、何度も唾液を伴って出し入れされる。淫靡な粘着の音は先程よりも大きくなって、俺は拳を握った。歯を食いしばっていると呼吸が苦しくて、犬のように舌を出してハッハッハ、と息を吸い込んで吐く。
「ぁあっ......」
 舌の代わりに指を、ごつごつと節のある指を押しこまれた。ソコはずるりと奥まで入り込んだ指に戦慄いて、きゅっと絡みついたのがわかった。
 ここからは見えにくいが、それでも乱れた呼吸にしのかが興奮しているのがわかる。背中に当たるしのかのペニスが屹立しているのがわかって、より羞恥を誘った。目の前が涙で滲む。
 しのかが言ったとおり、悔しいことにその部分は丁寧に開かれていて少しも痛くない。どちらかと言えば良い。......良すぎる。
 そんな場所で快感を得てることに、俺の心が痛いぐらいだった。しのかはその部分を舐めて指でかき回し、解していくことに余念がない。
 抜き差しをされると腰が揺れた。その振動で俺自身がぶるんと揺れ、下腹を先走りで汚していく。気持ちがいいが、一切触れられない俺自身が切なかった。いまここで擦って出したらどれだけ気持ちがいいんだろう。
 そう思ったら、止まらなかった。
 震える手で下肢に手を伸ばし、ぎゅっと自分自身を握る。それだけで、トプッと恐ろしいほど先走りが溢れた。指を含んだソコも、きゅっきゅと締めつけてしまう。その瞬間をこじ開けられると堪らない。
「っひ、あっあっ、ァああっ」
 甘ったるい声を上げる箇所を重点的に責められて、俺は横隔膜を引きつらせながら俺は自分自身を扱いた。上から落ちてくる雫がなんなのか、もう頭が働かない。
 絶頂はあっという間だった。
「いぁ、っいく、いくっ......っぁ、あ、あ......! ............ったから! イッたからぁッ!」
 ぱたた、と白濁が俺の顔を汚す。全力疾走したみたいに喉が痛くて、開けっ放しの口にも一部入ったが、それを吐き出す余裕はなかった。
 快感に沈みこみそうになる俺を無理やり引っ張り出して引き回すみたいに、中で感じる部分をこりこりと指の腹で擦り上げられて、俺は喚いた。感じすぎて頭が痛い。体勢もキツくて、何も考えられない。
「このぐらいか」
 しのかがそう言って加虐をやめた時、助かったと心底思った。
 アナルは俺の一部分とは思えないぐらい痺れて、くぱくぱと卑猥に開閉を繰り返していることすら気づかなかった。
 それを見て目を細めたしのかが、ずるんと指が引き抜いて体勢を変えてくれたことで、俺はようやく布団に横たわれる。だらしなく足を開いたままで、口からは唾液が伝ったが、それでも指一本動かしたくなかった。
「大丈夫か?」
 糸の切れた人形のようになった俺にしのかが声をかけてくるが、返事をする元気もない。無視してると、太ももを掴んでうつ伏せにひっくり返された。身体を伝ったいろんな液体が擦れて不快に感じる。眉間に皺を寄せていると、大きく開いた足の合間に、しのかの胴が押し付けられた。
「あっ?」
 ぐいぐいと蕾に押し当てられるのは、指なんかメじゃない程の質量を持つ何かだ。驚いて、俺は上半身を起こして身体をよじり、しのかを見た。目に入った光景に、俺は目を見開いて唇をわななかせる。
「は、入んねえよそんなん......!」
 さっきも大きいと思ったが、いつの間にかしのかの陰茎は更に大きく成長していた。てらてらと先走りに濡れるその部分がぬるぬると押し付けられて、俺はそのたびに腰を跳ねさせる。
 ぽろっと涙を溢れさせた俺に、しのかは困ったような表情で苦笑した。
「俺が無理に陵辱してるような態度を取るな」
「りょ、りょうじょく、しようとしてる、じゃないか......!」
 ひっく、と肩を震わせながら訴えると仕方なさそうに笑う。
「この場を作ってるのはお前なんだろう? 俺が嫌なら弾けば良いし、今だって逃げればいい。......ほら」
「あっ、あっ......っくっそお......!」
 しのかは腰だけグラインドしてソコを突いた。前に這って逃げようとするが、身体が上手く動かない。さっきまでの愛撫のせいか、その部分は驚くほど広がって、しのかのことを受け入れようとしている。一番太いだろうカリの部分が入りかけては抜けるということを繰り返されて、俺はきつくシーツを握った。認めたくないが、もう俺の身体は準備万端なようで、動きに合わせて腰が揺れてる。
「っこの悪趣味!」
「それで?」
「......」
 自分だって隆起させてるくせに、余裕ぶるのが気に食わなかった。奥歯を噛み締めて、ゆっくりと腰を突き出すと、ぬぷっと中に男のモノが入ってくる。
 じわじわと肉の輪が広がり、先っぽ、カリの部分が入った時、に、腹の中が擦られて甘ったるい声が出た。
 う、嘘だ。嘘だ。全然痛くない。変だ絶対これ。
「ほら、あと半分だ。これなら入る......っく、吸い込まれる......」
「変なこと言うな! そんなわけ、あっ......うそ、ああ......」
 入った。しかも、結構あっさり。
 俺は思いもしなかった事実にがくがくと震えながら視線を巡らす。自分の下半身。それから俺の、俺の、アソコに突っ込みやがった、しのかに。
 しのかは目が合うと眉間に皺を刻んだまま、ぎこちなく笑った。
「これは、すごいな......」
「やっ、ちょっ、あっ」
 何がすごいのか聞きたくない。俺の動揺が収まってないのに突き上げられる。快感が目の前をはじけて何も見えなくなった。
 激しい水音が聞こえる。腹に回った力強い腕に抑えこまれてが激しく出し入れされた。激しい息遣いと時折漏れる男らしいうめき声が俺の耳元を擽る。
 俺はシーツに爪を立てて、嬌声を上げながら翻弄されていた。
「く、ぅ」
 しのかは急に最奥に突き入れたまま動きを止めると、息が止まるぐらい強く抱きしめてきた。中で、奥で、しのかの性器がびくびく震えているのがわかる。途端に。
「......~ッ」
 俺の身体もびくんと大きく跳ねる。......脳神経が直に快感に焼かれてる。なんだかわからないものが、俺の体の中を突き抜けて、いく。
 唐突に、目の前が眩んだ。よくわからず目を細める。眩しい。......明るすぎる。
 だんだんと目が慣れてくると、社の中が一変していた。
 いつの間にか6台に増えた灯籠は煌々と輝き、天井にはきらびやかな文様が浮かび上がる。俺が寝ていた床は、木の板ではなく青々とした香りがするい草の畳に変わって、壁にも複雑な木彫りの模様が刻まれていた。俺たちが横たわってた布団までなんだか分厚く、ふかふかしたものに変わっている。
「くそ......毒の方だったか」
 俺が唖然とそれらを見ていると、しのかが忌々しげに舌打ちして一気に引きぬいた。
「ぁ......んっ」
 引きぬく際にぐりっと中を擦られて、俺はまた切なげに息を吐いてしまう。ぐったりと布団に倒れこむが、俺の隣に倒れこんだしのかの顔色の悪さにぎょっとした。
「だ、大丈夫かよ?」
「大丈夫そうに、見えるか......?」
 顔を覗き込むと、恨めしそうな眼差しで睨まれる。
 これは、考えなくとも、あれだ。うん。
 俺がしのかの生気を取って、自分の神通力へと変化させたのだ。その量が半端無かったんだろう。しのかは苦しげな表情で大きくため息を付く。
「今ので俺の気を取ったな? 最初からこれを狙ってたのか」
「......お前だって、俺のこと散々好きに扱ったじゃないか」
 狙ってたといえば狙ってた、んだろう。なんとなく居心地の悪さを感じながら首をすくめると、もう一つため息を零される。それから手を伸ばされ、抱きすくめられた。
 ぅわっ......。
 強引なようで優しい手つきに、どきんと鼓動が高鳴る。見上げると顔のラインを撫で、唇を親指で軽く押された。
「まあいい。顔色が良くなった。鹿の姿を見た時も、ずいぶんみすぼらしい神鹿だと思ったが、弱ってたのか」
「......力が足りなくて、帰れなかった」
「間抜けな神だな。まあ......この疲労はいただけないが、悪くはなかった」
 しのかがそんなことをしみじみ呟くので俺は顔が真っ赤になった。
 気恥ずかしさで死ねるぐらいの痴態を見せた気がする。男なのに尻に入れられて、あんな、あんな......。
「なに生娘みたいな反応をしている」
 耳まで真っ赤になった俺が俯いたのを見て、しのかが訝しげに尋ねた。頬が熱い。凝視されているのがわかってぎこちなく顔を上げる。
「.........悪かったな生娘で」
 するとしのかは驚いたような眼差しに変わった。何か言いたげに口を開くが、しのかは一人で納得したように一度だけ頷くと目を閉じる。もっとそのことでいじられると思ったから俺はなんとなく拍子抜けした。
 生気を得た俺は少しも疲れが残っていない。むしろ晴れやかな気分だった。やつれたしのかを見てると、ちょっとだけ罪悪感が湧き出てくる。
「あの、......ありがと、な」
 過程はともかくとして結果的に救われた俺はそっと囁く。
 おそらく寝ているわけではないだろうが、しのかは目を開かなかった。


←Novel↑Top