主従の契約-10


「フェリ、ふぇりい......」
 ラフィタは熱い杭が擦り付けられる感触に怯えて、フェリックスを呼ぶ。
「大丈夫。痛くも、怖くもありませんよ。ラフィタ様.........ラフ、私を見て」
 ぺちっと軽くラフィタの頬を叩いて、焦点を合わせさせる。
「フェリ......」
 目が合うと、ラフィタはふわっと笑った。
 その眦から、涙が零れ落ちる。
 それを見つめて、フェリックスも笑みを浮かべた。
「ラフ......愛して、います」
 愛を囁くと、フェリックスはゆっくりと自分の欲望を沈め始めた。
「ん、んぅ......あ、ああ!」
 狭い蕾を押し広げるように、灼熱が進む。
 散々ほぐされたために、それほど痛みは酷くはないが、内臓を押し上げられるような圧迫感に、ラフィタは喘いだ。
「......っく、キツ......」
 苦しげに、フェリックスは眉根を寄せる。
 それを見たラフィタは、息を詰めそうになるのを堪えて意識して体の力を抜く。
「あうっ!」
「はい......った......」
 フェリックスも肩で息をして、確かめるように結合部分を撫でる。
「ひあっ......さ、さわんないで......」
「すいませ、ん......」
 突き上げたい欲求を堪えて、フェリックスはラフィタが落ち着くのを待つ。
 しばらく深呼吸をしていたラフィタが、ゆっくりとフェリックスを見た。
 赤い瞳が、フェリックスを捉える。
「も、いいよ......動いて......」
 促されて、フェリックスはつよくラフィタを抱きしめる。
「ラフ......ッ」
「んっ、ん、あふ......あ!」
 強く腰を打ち付けられ、ラフィタの身体が揺れる。
「ラフィタ......ああ、ラフ......好きです......好き......っ」
 忙しなく手はラフィタの身体をなで、顔や首筋にはキスの雨が降らされる。
 唇に落とされたキスを受け入れるように、ラフィタは口を開いた。
 激しく突き上げられながら、舌を絡めて応じる。
 先走りをとろとろと溢れさせる小さなソコを握ると、フェリックスはラフィタを最後の高みに押し上げた。
「フェリ、愛してる......愛して......っあああ!」
「っう......!」
 どくん。
 ラフィタが性器から白濁を飛び散らせ、フェリックスは思いの丈を愛しい人の中に注ぎ込む。
 途端に、互いに痛みが走った。
「っ」
「いたあ!」
 フェリックスは指を押さえ、ラフィタも胸に走った痛みに声を上げる。
 ラフィタの胸、心臓の上には『Felix』の文字が浮かび、フェリックスの左手の薬指には『Rafita』の文字が刻まれた。
「これ、が、契約の指輪......」
 フェリックスはまだ上がった息のまま、自分の指を見て呟く。
「僕も、僕も見たいよ。フェリ」
「はい」
 フェリックスは身体を起こし、そっと刺激を与えぬようにして自身を引き抜く。
「......んっ」
 精を受け入れた部分から、こぽっと白濁が溢れた。
「......」
 薄く色づいた部分がひくんと震え、淫らに足を広げたままのラフィタの媚態に、フェリックスは瞬時見惚れてしまう。
「いやだ、見ないでよ......」
「す、すいません」
 慌てて視線を逸らして起き上がると、フェリックスは部屋に設置されていた壁付けの鏡を割る。
 そしてその破片を手に取ると、音に驚いているラフィタの元に戻った。
「これで、見えますか?」
 鏡をかざして位置を調節する。
「『Felix』......うん。見える......」
「......」
 嬉しそうに微笑んだラフィタから視線を逸らすと、簡単に身支度を整え、フェリックスはラフィタの身体を清め始める。
 鏡を見た際に、自分に掛けられていた主従の契約の証である、額の菱形の印が消えていることに気付いたのだ。
 これで、フェリックスに行動の制限はなくなる。
「僕、フェリの奥さんになったのか......なんか実感ないよ」
 柔らかく笑うラフィタの身体を清め終えると、フェリックスは丁寧に服を着せていく。
「......隠れちゃった」
 服で契約の証が見えなくなったことにラフィタは不服そうに唇を尖らせる。
「見世物ではないですから、いいんですよ」
 丁寧に、絡み合ったラフィタの髪と羽根を解いていく。
 元通りに戻すと、フェリックスは、そっとラフィタの首に手をかけた。
 ぐっと喉仏を押さえられ、ラフィタは驚いたように目を見開く。
 だが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「僕も、一緒に連れて行ってくれるの?嬉しい」
 力を込められても、抵抗をしないで目を閉じる。
「後悔は、ないんですか?私は後悔してばかりだ。私の身勝手で貴方を連れて行くことも......」
 首を絞めるフェリックスが、辛そうに唇を噛む。
 緩まった力に、ラフィタの方が不満そうな顔をした。
「ないよ。......けど、そうだな。僕が先に死んだら、契約の指輪は消えてしまうんでしょ?」
「『死が二人を分かつまで』というのが契約の期限を示していますので......。これは二人の心の証であって、行動に制限がかかるものでも、強制されるものでもありません」
「フェリは詳しいね。僕より全然頭がいい。ね、それなら......」
 そっと上半身を寄せてラフィタはフェリックスに囁く。
「一緒がいい。離れたくないよ。......幸い、ここには窓がある。ね、飛ぼう?フェリと一緒なら、きっと風も気持ちいいよ」
「......」
 ラフィタの柔らかな羽根を撫でる。宙に浮かぶことは出来ても、長時間飛ぶことも出来ない羽毛に包まれた羽根。
 フェリックスはラフィタを抱き上げ、窓を開けた。
 入り込む風が室内を荒らしていく。
 吹き荒れる風のせいで、不安定な箇所に作られた部屋が地震を受けたように揺れた。
「また髪、ぐしゃぐしゃになっちゃった。折角フェリが直してくれたのに......」
「ここではない地にたどり着いたら、何度でも直して差し上げますよ」
 穏やかな笑みを浮かべてフェリックスは窓枠に足をかける。
 窓から外を見下ろせば、雲の海しか見えない。
「フェリ......好き」
 ラフィタはフェリックスの首筋に顔をうずめる。
 フェリックスは下を見、それからラフィタを見た。
「......ちょっと。ここで僕を置いていったら本気で恨むよ?」
 フェリックスの躊躇に気付いたラフィタは、そう言って耳に噛み付く。
「まったく、貴方には適わない」
 笑ってフェリックスはラフィタを見つめる。ラフィタもにっこりと笑みを浮かべた。
 見つめ合う二人。
 そっと唇を重ねると、部屋の外に姿を消した。


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