そのさん-6


「行くな、って言ってるだろう」
「でも」
「でもじゃねえよ。約束忘れたのかよ。昼休みにするって言ったろうが」
 すうっと細められる眼差し。
 いらいらと貧乏揺すりが始まる。
 確かに、今この状態で行くことは難しそうだ。
 でもどうにか、放課後に変えてもらうように頼んで......。
 そう思った春樹だったが、陽気な声が思考の邪魔をした。
「ひろやぁ、辻本とどこに行くつもりなんだよ?」
 博也の背後から抱きついて、首に手を回した関谷が尋ねる。
「んぁ?どこだっていいじゃねえか」
 上から覗き込む関谷に、博也は見上げて答える。
 なぜか近い距離の2人を見て、春樹は視線が動かせなかった。
「俺も付いてっていい?」
「だーめ。俺と春樹だけ」
「ええー?いいじゃん俺も行きてえ。いいだろ?なー」
 度重なる関谷の催促。
 それに押されたかのように、言葉を途切らせる博也。
 博也自身は、なんと言ったら納得してくれるかを考えるつもりで沈黙したつもりだったが、春樹の目には同意したかのように見えた。
 咄嗟に博也の手を握り、軽く引く。
「時間ないぞ」
「あ、そーだな!んじゃ」
 博也は春樹の言葉にぱっと明るい表情を見せて、関谷の腕を払った。
 僅かに眉根を寄せる関谷を押しのけて、博也は春樹の手を逆に引き寄せる。
 ぐいっと肩を組まれた春樹は、少しだけ狼狽した表情を見せた。
「真吾、付いてくるなよ」
 そう釘を刺して、博也は春樹を連れてその場を後にする。
「あーあ、行っちった」
 見送った関谷はため息を付いてパックジュースをすする。
 桜庭は博也と春樹が立ち去った出入り口と、関谷を見比べて肩を竦めた。
「真吾さあ、辻本来てから楽しそうだよねぇ」
「ん?」
 ちゅーっと吸い上げている関谷に、桜庭は少し身を寄せる。
「ちなみにどっち?」
 囁かれた言葉に、関谷はにやりと口元を歪ませる。
「何言ってんだ信行。意味わかんねえな」
「良いじゃんそれぐらい教えてくれたって」
「さーな」
「けち。......でもホント、2人でどこ行ったんだか」
 もうすぐ昼休み終わるのになあ、と桜庭は教室にかかっている時計を見上げてのほほんと呟いた。



 どうして自分から促したのだろう。
 春樹はうきうきと歩く博也に半歩遅れて歩きながら、先ほどの自分の行動を反芻していた。
 断ろうと思っていた筈だ。なのに催促してどうする。
「ここ!すっげえ穴場なの!女連れ込んだって一度もばれたことねえし」
 得意げに告げる博也が連れてきたのは、特別棟にあるコンピューター室だった。
 普段この教室には鍵がかかっているのだが、博也はどこから持ってきたのか鍵を使ってなんなく開ける。
「博也、その鍵......」
「俺が作ったんじゃねえから。先輩からの借り物。次はまた別のヤツにまわす予定」
 言いながら博也は春樹を中に引き込む。
 コンピューターがある部屋なだけに、クーラーも完備だ。
 さっさとクーラーを入れた博也は椅子を引き出してそこに座ると、人差し指をくいっと上に向けて春樹を招く。
 春樹が戸惑いながら近づくと、ぐっと腰を抱き寄せられる。
 博也の指先が、春樹の唇を撫でた。
「春樹、キス」
 命じられて、春樹は顔を寄せる。
「好きだ」
 囁いてキスを1つ。
 もう条件反射のようになっていて、そこに春樹の意思は一切ない。
「愛してる、博也。......好き」
 ちゅっちゅ、と回数を重ねるたびに口付ける。
 すると、博也に髪を掴まれて、引き剥がされた。
「座れ」
 足を開いた博也に命じられて、春樹は膝を付く。
 覚悟を決めたつもりでも、まだ心が揺らいだ。
 若干青ざめた春樹の表情を見て、博也は春樹の頭を撫でる。
 それは、思ったよりも優しい手つきだ。
「ひろ、や......」
「なに」
「あ、の......」
 髪を指で梳かれて、俯いたまま口ごもる。
 すると、顎を掴まれ上を向かされた。
 先ほど春樹の唇を撫でていた指が、ゆっくりと口内に侵入してくる。
「んっ......」
 人差し指と中指を含まされ、前後に律動される。
 まるで、指を性器に見立てているようだ。
 口の中の唾液が指に絡む。
「んぶっ......ぅ、ん」
「歯、立てんなよ」
 喉の奥を突いてくる指の動きに、春樹の眉間に皺が寄った。
 目を細めて苦しげな様子を見せる春樹に、博也は欲情した眼差しを向ける。
「ひろ、んく......う」
 乱雑に動かされる指を、それでも春樹は口を開いて受け入れる。
 指が二本だけでも苦しいのに、性器など受け入れられるのか。
 そんな不安が、春樹の中を過ぎった。
「お前の舌、マジ気持ち良さそうなんだけど」
 掠れた声で呟いた博也がゆっくりと指を引き抜く。
 唾液が一瞬だけ、糸になって伸びた。
 博也がベルトに手を掛けたのを凝視してしまう。
 かちゃかちゃと外されていく音。次いで、ジッパーが下がる音。
 博也は春樹の視線を受けながら、楽しそうに自分自身を取り出した。
「......」
 うん。
 風呂やトイレの際に良く見かけるフォルム。
 自分にもあるものを口に入れるということを改めて実感して、春樹は固まった。
 緩く勃ち上がったシロモノ。
 大きさは、現時点ではそれほど自分のものと変わりのないような気がする。
「早く咥えろよ」
 上ずった声で催促された。
 春樹は、小さく口を開けたり、閉じたりを繰り返す。
 顔を寄せることも出来ない。
「博也」
 春樹は、小さく博也を呼んだ。
「指、舐めたのと同じ要領でやればいいんだよ。咥えたいんだろ?俺の」
 後頭部を掴まれ、ぐぐぐと寄せられる。
 博也の言うとおりに動かねばと思いつつも、身体は勝手に遠ざけようとしてしまう。
「はーるーきー?」
「!」
 低い声で呼ばれ、春樹は弾かれたように博也を見上げた。


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