そのろく-6


 関谷に近づいた春樹は、身体を強張らせた関谷を見て目を細める。
「服、脱げ」
「はっ?」
「続きをしよう。だから服を脱げ」
 強い意志を伺わせる春樹の表情に、関谷は乾いた笑みを浮かべて首を横に振った。
「いや、いやいやいや。もう辻村には手出さないって。博也と俺約束し、がっ?!」
 続きをするつもりはないと肩を竦めた関谷に、春樹は関谷の身体を跨いだ。
 その際に上げた足が、思い切り関谷の横面を蹴る。
「ああ悪い」
 心が篭もらない謝罪を口にすると、春樹は仁王立ちになったまま、関谷を見下ろした。
「......絶景じゃね?」
 後ろ手にベッドに手を付いた関谷からは、とてもよく春樹の性器が見える。
 奥まったところは影になって見えないが、秘部から内股を伝ったジェルが、より卑猥な想像を掻き立てた。
「そんなに博也とセックスされんの嫌?」
 見上げられた春樹は、無表情のまま変化はない。だが、相変わらず瞳は強い光を灯してる。
 その様を見て、関谷は僅かに口元を緩ませた。
 最初春樹の急な変化に驚いたが、落ち着いて見ればなんてことはない。ただ博也を守りたいだけなのだ。
 互いに想いあう二人も可愛いなと関谷は密かに笑った。
「早く脱げ」
「あーはいはい。んじゃ、もっと俺がやりたくなるように誘ってみろよ」
 可愛いと思っても、関谷は外道な真似をやめるつもりは毛頭ないらしく、迫る春樹にそう告げた。
 ポケットからカッターを取り出して春樹の腰に手を回す。手探りで春樹を拘束していた結束バンドを切った。
 プツ、という小さい音とともに、春樹の手が自由になる。
 手元にわだかまっていたシャツが落ち、春樹は手を目の前に持ち上げた。
 結束バンドで止められていた親指の根元は鬱血していたが、支障はない。
「ほら、誘ってみろ」
 面白そうに笑う関谷を見やると、春樹は迷うことなく関谷のスラックスに手を伸ばした。
 ベルトを外しジッパーを下げて中に手を差し入れて、関谷のものを取り出す。
 手にしてもそれなりに質量がある。春樹はもう関谷を見ることはせずに、ゆっくりと口を開いた。
 躊躇があることを悟られないように先端を含むと、ぐいっと前髪を掴まれた。
 そのまま引っ張られて顔を上に向けられる。
 目が合った春樹は、眉間に皺を寄せたまま関谷を睨み付けた。
「見ながらしろよ。すげえそそる」
 そう言われては視線を逸らすことも出来ない。
 春樹はじりじりと屈辱感に焼かれながら、丁寧に舌を這わせた。
 裏筋を舐め上げ、エラに吸い付く。袋をやんわりと揉むと、関谷が小さく呻いた。
「やっぱ博也の犬だけあって、舐めんの上手いな。ご主人様の、いつも舐めてんだろ」
 投げつけられる言葉に歯を立てたくもなるが、手を添えてない左手を強く握り締めることでなんとか耐える。
 程なくして、関谷のモノが大きく育ち、春樹はそっと口から引き抜いた。と、途端にまた頭を押さえつけられる。
「わんこちゃん口に出してやるから、咥えろ」
「嫌だ」
「んだと?」
 ぐぐぐっと押し付けてくる関谷の手を退けて、春樹は相手の身体を跨った。
 そのまま反り返る性器を握ると、自分の後孔に押し付ける。そしてぐいぐいと押し付けた。
「っ、おい」
 乱雑に扱われる急所に、関谷も顔をしかめた。だが春樹はそのまま無理に挿入しようとする。
「馬鹿、はいんねえよそれじゃ」
 舌打ちした関谷は、春樹の肩を押してをベッドに倒した。
 マウントポジションを取った関谷は、先ほど春樹の孔を濡らすのに使ったジェルを手に取り、自分自身のモノに馴染ませる。
「おら、足抱えろよ。入れやすいようにな」
 ぱちんと太ももを叩かれて促され、春樹は目を閉じると、震える手を膝裏に通して足を開いた。
 自分では見ることが適わない箇所が晒されて、より羞恥に顔が熱くなる。
「ずっげえカッコ。あー携帯あれば撮ってやったのに」
 軽く感嘆の声を出されたが、春樹はもう何も言わずに奥歯を噛み締めた。
 博也には手を出させない。......絶対に。
 その思いがあるからこそ、屈辱的な行為も厭わない春樹はゆっくりと口を開く。
「さっさと、犯せ」
 その挑発的な言葉に、関谷は唇を歪ませた。
「後悔すんなよその言葉」
 ぺろりと自分の唇を舐めた関谷は、露になった後孔にジェルを垂らしてなおざりに濡らすと、そのまま先端を押し当てた。
 春樹の顔が歪むのを構わずに、無理やりに押し込んでいく。
「......きっつ」
 半分まで押し込んだところで、関谷は息を吐いた。
 身を硬くしたままの春樹は、浅い呼吸を繰り返して目を閉じていた。
 関谷はその呼吸のタイミングを付いて、ずんっと最後まで突き上げる。
「っは、あ......!」
 仰け反った春樹の見開いた瞳から、生理的な涙が零れ落ちる。
 望むと望まざるとに関わらず、自分の中に入る人間は博也だと思っていた。
 春樹は、それが叶わなかったことを残念に思う自分に気づく。
 ......でもそれ以上に、やはり関谷に触らせたくない。
 博也を笑えないほどの独占欲が、自分にも潜んでいたことに気づいて、春樹はふっと笑った。
「なに、笑ってん」
「俺としたんだから、博也には手を出すな。......よっ!」
 ベッドに肘を付くと、春樹は腹に力を入れて上半身を起こした。
 前のめりに上半身を倒していた関谷は、春樹の行動に驚くが逃げる余裕がない。
 ごつんと、互いの額がぶつかり合う鈍い音がした。
「いっ」
「......っく」
 頭突きを食らった関谷は仰け反り、自らの行動によってより深く咥えこむことになった春樹も呻いた。
 だが、いつまでもこの体勢ではいたくはないと、春樹は腰を引いて結合を解く。
 圧迫感と痛みと不快感がなくなったことで、春樹はホッと息を吐いた。
「っの、石頭......!信じらんねえ......」
 まだ平然とした様子を見せる春樹に関谷は恨み言を口にした。
 頭を押さえて低く唸った関谷を無視して、春樹は脱がされた衣類を身に付け始める。
 痛みが酷いのか、関谷はベッドにぐったりと横になったまま起き上がる気配はない。
 春樹がちらりと視線を向ければ、先ほどの行為で勃起していたソコもすっかり萎えていた。
 声を掛けることもなく、春樹はその場をあとにする。
 廊下を通り、ドアを開けて外に飛び出す。
 どうしても微動してしまう手の指でエレベーターの下のボタンを何度も押した。
 緩やかに上がってくるエレベーターに舌打ちをすると、その場を離れて階段に向かった。
 鈍い痛みのある局部に顔をしかめながら、春樹は階段を駆け下りる。
 早く博也に会いたいと思う反面、今は会えないだろうと、春樹はそっと震える吐息を吐いた。


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