10月-7
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-虫の声が鳴き通す秋の夜ですが-
身体の関係が出来たからといって、俺たちの付き合い方が変わったかというと、そうでもない。
小野がバイトをして、その帰りに会うのはもちろん、時間が許せば、何もなくとも会うようになっただけだ。
別に普通。俺はそう思っていた。
いつものように、バイト後にバイクで小野の家に行って、一時間弱ぐらい一緒にいる。
今日もそうだった。
「あん?面倒だよそれ。......え?あ、まあ、それならいいかもしれねえけど」
小野は携帯電話で誰かと話していた。
ソファーに座るヤツと、ローテーブルを挟んで向かいに座る俺。
前は俺がいるとケイタイなんて存在してない、なんてぐらい、手にすることはなかったが、近頃はそうでもなくなった。
一緒にいてもメールしたり、たまに電話してたりする。
いい傾向だ。元々友達も多そうだし、俺に付き合って閉鎖的になるのは良くない。
ヤツが他の人と連絡取ってるとき、俺は俺で何かしてる。
今日のアイテムは知恵の輪だ。俺の手にはバラバラになった知恵の輪がある。
外したのは良かったが、今度は元に戻せなくなって頭を悩ませていた。
あれ?これは、こうして......ん?
知恵の輪が入っていた箱の絵を見ながら、同じように組ませようとしても組めない。
元々、自分でどうやって外したのかさえわからなかったのだ。
組まれたのを外すより、外れたのを元に戻す方がよほど難しい。
俺が密かに唸っていると、ヤツが動いた。
「そういやさあ、この間のノート貸してくんねえ?俺取ってなかった。......マジ?んじゃ今度なんか奢るから。......うん、うん。いや、それは高いから却下」
笑いながらケイタイで話す小野は、なぜか俺の背中に寄りかかるように座る。
ケイタイを持つ手とは別の空いていた手を、俺の腹に回して密着された。
んだよ、邪魔すんな。
インスピレーションが鈍るじゃねえか。
腹の手をぐいぐいと引き剥がそうとするが、ヤツは離れない。
「俺が奢るの缶コーヒーぐらいだって。......え?俺あん時もノート借りたっけ?」
覚えてねえなあと会話を続ける小野。
その間も、身体を摺り寄せられる。
俺が纏わりつく手から逃れようとしていると、肩と顎でケイタイを挟んで両手を自由にした小野が、俺を抱き上げた。
「うわっ」
いきなりのことに声が出てしまう。
膝に乗せていた知恵の輪が落ちないように掴むのが精一杯だった。
「今の?俺の恋人。マジ激可愛いんだ。ははっ......もったいないから紹介しねえ」
軽口をたたきながら、俺を抱き上げた小野は、ソファーに戻る。
俺を膝の上に乗せた状態で腰を下ろした小野は、「あ、ちょい待ち」とケイタイの相手に告げた。
そして俺を見る。
なんだてめえ。やる気か。俺の時間邪魔しやがって、どうしてくれるんだ。
俺はむすっとした表情を向けてるのに、ヤツはにっこりとした笑みを浮かべる。
『かずー?』
ケイタイから聞こえたのは、まるで誘うような甘ったるい女の声だった。
話相手が女だったことに少し驚き、目を見開く俺。
ま、まあコイツは性別問わず友達多いんだろう。
そう思っても、やっぱり気分はよろしくない。
気分が急降下しそうになったとき、小野が近づいてきた。
「......ぅん、」
唇が重なる。
ちゅ、ちゅっ。
角度を変えて何度か軽く口付けを続ける。
身体から力が抜けて小野に寄りかかると、ヤツはまたケイタイを耳につけた。
「わり。補充するから電話切るぞ。......え?」
聞き返しながら、小野はにやっと笑った。
「愛情補充。恋人に甘えさせてもらうから、今日はもう電話かけてくんなよ」
それだけ告げて一方的に電話を切ると、小野はケイタイをテーブルの上に置いた。
そして改めて俺を抱きしめてくる。
......。
なんだか恥ずかしい。
視線を合わさないように顔を逸らしていると、頬に手を添えられ優しく振り向かされる。
「ともあきさん、大好き」
ぎゅうっと抱きしめられたまま囁かれて、俺は真っ赤になってしまった。