9月-8
戻って来た男に、俺は寝室に連れ込まれた。
大体キスするときは、ヤツのバイト後のときだから、主に夜だ。
外でこっそり......てのが多いから、明るい室内で唇を合わせると気恥ずかしすぎる。
でも今更、明かりを消せ、なんて言えない。
背後から抱きしめられて口付けを交わす。
これでも、少しはキスが上手くなったんじゃないかと思う。
......こいつとしかしたことないから、比べられねえけど。
目を閉じて、唇は薄く開いて。
舌が入ってきたら、絡める。
唾液が交じり合って口の中に溜まるから、こくんと喉を鳴らして飲んだ。
ずうっと長いキスをして、ようやく唇が離れる。
次にうなじにキスが落とされて、ヤツの熱い手が、するりとシャツの裾から入ってきた。
ゆっくりと手の平で、俺の腹を撫で回す。
「......」
触られると、俺はすぐに息を上げてしまう。
折角慣れたキスの合間の息継ぎも、乱れてしまって苦しい。
だんだんと上に上がってきた指が、俺の胸の突起を摘んだ。
「ぁう」
急な刺激で、俺が声を出すと、慰めるように首筋や耳の下にキスをされる。
身を捩っても、指は離れない。
それどころか爪を立てたり、くっと引っ張られたり、する。
ぴりぴりとした電気が、ヤツの指から流れてくるような感覚だ。
自分で触ってみてもこうはならない。
指が動くたびに、な、なんか変な声が出そうになる。
俺はそれが嫌で、ヤツの肩口に顔を寄せた。
もう無理、って言いたい。
でも、もう少し頑張りたい。
俺の熱い吐息が、ヤツの襟足の髪を揺らす。
「ん......っ!」
逃げようとした俺を怒るように、ヤツがまた口を重ねてくる。
くるしいっ、て......あ、いたっ......ぁ......。
びくんと身体を跳ねさせた俺に、ヤツがゆっくりと唇を離した。
指が俺のわき腹を撫でながら離れる。
シャツの生地を押し上げるようにしてツンとしてる、乳首。
恥ずかしくて腕で隠そうとすると、逆に腕を捕まれた。
「ここまでは、よくしてるよね。......今日は新しいことをしよ。ベッドに横になって、ともあきさん」
にっこり笑った男に、俺はとす、とベッドに押し倒される。
上から覆いかぶされて、耳朶を噛まれた。
うわあ......っこの体勢、ない!
ぎゅっとヤツの肩を掴む。
今まではいつも座った状態で、その、じゃれてることが多かったし、背を向けてヤツの足の間に座ってることが多かったから、目が合うこの体勢は、あまりない。
うろうろと視線を彷徨わせると少し笑われた。
「シャツ、めくるから」
「......ん」
面倒だろうに、いちいち声を掛けてくれる。
シャツをたくし上げられて、俺はシーツを掴んだ。
指が、まだ俺の肌を撫で上げる。
わき腹をくすぐる指と、俺の胸の突起を引っかく指。
......。
へそに感じる、これはなんだ?
「っ......や......!」
恐る恐る視線を下げると、舌先を出したヤツが、腹をな、舐めていた。
思わず頭を掴む。
「ステップアップ、でしょ?ともあきさん」
悪戯っ子のような光を灯した瞳で俺を見上げて、ヤツはちゅくっと肌に吸い付いた。
いろんな意味で、ヤツは凄かった。
「前から思ってたけど、肌綺麗だよね」とか「これは、気持ちいい?」とか聞きながら、コンビニ店員は俺のことを......変にする。
質問には全然答えられなくて、上がりそうになる喘ぎ声を我慢するので精一杯だった。
わき腹を舐め上げられて、乳首に吸い付かれる。
何も出ないって訴えたいのに、口を開けたら、やっぱりやらしい声しか出なかった。
だから、俺は唇を噛み締めるしかない。
勝手に膝が動いて、その、もぞもぞとすり合わせてしまう。
どうしてそうなっているか、考えたくなかった。
俺、どうなるんだろうか......。
「ちょっと、膨らんだ?」
がじがじと、しつこいぐらい俺の胸の突起を前歯で甘噛みした男が、笑みを含んで呟く。
膨らんでない!きっと、ふ、ふやけた......だけ、だ......っ。
「は、ぁ......っ」
俺は激しく胸を上下させながら、ヤツを睨んだ。
コンビニ店員はちゅぷ、と小さな音をさせながら、ようやく突起から唇を離す。
なんか、無残だ......。
いつもより色が濃くなって、い、言われたとおり、心なしか大きくなってる......気がする。
胸を見た俺は、元に戻るんだろうかと泣きそうになってしまった。
そんな風に意識を逸らしていると、目の前でぱちんと指を鳴らされる。
視線を向ければ、優しく目を細めて俺を見つめてくる男。
こんなときでも......いや、こんなときだからか、その整った顔立ちに見惚れてしまう。
「大丈夫?上半身は、慣れた?」
耳元で囁かれる。
俺がここまでぎりぎりになっているというのに、ヤツが余裕の表情を浮かべているのが悔しくて、俺はわずかに上下に首を揺らした。
な、慣れたから......っも、離して......。
「じゃあ......次も挑戦してみようか」
にっこりと、満面の笑みを浮かべられる。
何言ってやがるんだこいつ......!
俺は確かに頷いた。
しかしそれはもう意地だ。今の俺を良く見ろ貴様。
余裕のない俺の、この状態を理解しろ!
も、いっぱいいっぱいなのに......つ、次だ、なんて......。
俺はもう涙目だった。
「自分で脱ぐ?それとも俺が脱がしていい?」
ジーンズを指差される。
え、え、もう、そこに行くの?
もうちょっと、ま、待つ気はないのかお前。
「ぬ......がない......」
それしか言えない。脱がしてとも、自分で脱ぐとも言えない。
「わかった。じゃあこのまま触るね」
え。
「っあ」
手の平で、ぐりっと押された。