四陣-4

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「幸彦、俺の手を......自由にしてくれ」
 しのかは、食いしばった歯の合間から低い声をひねり出して訴えた。
「俺を抱くってことか?」
「いいから、外せ」
「......」
 俺の蕩けたような問いかけには無視だ。
 しのかの態度からは、俺を抱こうという気概は見受けられない。身体を捩って、縛られた手を自由にしようと足掻いている。
 手を外されて追い出されでもしたら、俺の力じゃしのかを抑え切れない。下手にしのかが俺を退かそうとして結界にでも触れれば、それこそ瘴気を含む身体は今の小さな火花の比じゃなく焼け焦げるだろう。
 そんなことになったらたまらない。俺は、自らの孔に埋められた黒い仮の陰茎に手をかけた。
 孔に馴染んだソレをゆっくりと引き抜いていく。
「ぅ、ぅ......っあ、ん」
 出来るだけ外には聞こえないように......なんて気持ちもあるけど、声を抑えられなかった。張り出たカリの部分が擦れて、背筋が震える。
「幸彦?」
「っはぁ......! はあ......」
 ごと、と床に張り型が落ちた。それを足で蹴って、しのかの身体を跨ぐ。改めて見るしのかのペニスは大きくて、少し怖い。
 だけど、この硬さなら受け入れる事ができるだろう。......いや、入れてやろうじゃねえか。
 目が見えず自由がないまま様子を伺っているしのかの性器を握ると、俺は自分の蕾にそれを押し当てた。張り型にはない熱と大きさに、神経がぴりりと痺れる。
 しのかと、エッチ、する......。
 必要迫られてのことなのに、なんだろうこの気持ち。
 嬉しいような、怖いようなそんないくつもの感情を心に抱えたまま、俺はゆっくりと腰を下ろし始めた。杭の先端に綻んだ後孔が広がっていく。さすがに張り型の比ではない圧迫感に、俺は目眩を覚えた。
「っぐ......」
「.........なに、をしてるんだ幸彦、止めろ!」
「っああ......っ! 突く、な......ぁ」
 しのかは身体を揺らして挿入を阻もうとする。
 俺が俺のペースで入れてるんだから、急に動かないでくれ。
 しっとりと濡れた俺の声と、身じろぎした途端に食むその部分に、しのかも俺が何をしているか気付いたらしい。
「むり、するな......止めろッ......!」
 触れ合った箇所から、結合しようとする部分からも生じる瘴気は苦しいけど、俺は動きを止めなかった。しのかは悔しげに唇を噛み締める。
「ぃやだ......っあ、ああああッ!」
 ソコを開くように意識をしながら、俺は一気にずっぷりと根元までしのかの陰茎をソコで受け入れた。脳天を貫くような痛みが走る。俺は短い呼吸を繰り返しながら、身体の気を巡らし繋がった箇所からしのかに神通力を通した。
「っぐ、あぁああああッ!!」
 仰け反ったしのかの口から大量の瘴気が立ち上った。暴れるしのかの身体に抱きついて気を巡らす。暴れるたびにしのかの性器に対しては開ききってなかった中をかき回されて、多くの痛みと少しの快感に俺も喘いだ。
「っあ、あぁう......っしの、かぁ......」
「ううぅ、ぐ......」
 瘴気を立ち上らせる口元に、俺は顔を寄せる。頬や首筋に口付けを落としながら、俺は壊れかけた腰を振る。
 ぬめりが足りないのかいまいちすべりが悪い。それがより、中を引っ掛けまわして俺は仰け反った。経親にされていた時のようにだんだんと下肢が痺れたような感覚に包まれていく。そしてその下から這い上がる快楽。
「しのかっ......あぁあ、ん......! あ、っあ......! ......っしのか......ッ!」
 さっきまでは無理でも声を出さないようにとかいろいろ考えていたはずなのに、漏れる嬌声は止まらない。身体を倒して抱きつきながらしのかに口付けると、応えるようにしのかも口を開けてくれた。
 絡み付く舌と、溢れる瘴気。それを封じるために身体全体を使って、しのかに気を送り込む。
「っぐ、んん......」
「んんっ.........っ、あ......?」
 触れ合った胸元が熱くて、俺は視線を下ろした。わずかだがしのかの胸に埋まった鏡が、先ほどよりも浮き出てきている気がする。
 しのかの胸に手を付いて鏡をかりかりと引っかきながらしのかの上で踊ると、やがて中で肉襞を味わっていた陰茎がぶるりと震えた。
「あ、あ、......あ、あ」
 体内に吐き出される白濁の感触に、仰け反ったまま俺は身体を震わせる。しのかが絶頂にあわせて迸った生気が、俺の中で駆け巡ってより強い快感を生む。
 夢の中じゃないし、今は俺が気を送り込んでいたから、しのかの生気を受け入れることになるとは思っていなかった俺は、その強すぎる刺激にくたりとしのかの胸に倒れこんだ。
「はぁ、はぁ......ぁあ、ぅっ!」
 呼吸を整えようとしていた俺は、しのかに腰を突き上げられて、盛大に喘ぎ声を上げてしまった。一度達したはずのしのかの性器は萎えることなく芯を持ったまま俺の身体を突き上げる。
「ゆき、ひこ......手を、縄を外してくれ」
「っあ、あっ、ひぁ、ああ、あっ......っつよ、ぃい......っ」
「痛いんだ、幸彦......」
 下から激しく突き上げられて、意識が霞み始めた俺にしのかが囁く。思考が止まった俺は身体を揺さ振られたまま、しのかの背に手を伸ばした。震える手で縄を引っかくがその程度では外せない。
「風で、切ってくれ」
 請われるままに、俺は指先に感じる縄に目掛けてごく小範囲の風を起こす。それだけでは千切れることはなかったが、切れ目が入った縄をしのかは力任せに引きちぎった。
 途端にその場に押し倒される。やおら目隠しに手をかけたしのかは布を剥ぎとって目を開いた。瞬きするたびに、瞳からも瘴気が漏れていく。
 苦しさと痛さと快感と。全部ごちゃまぜになった俺はしのかに激しく突き上げられて喘いだ。しのかの身体に俺の神通力が流れ込み、俺の身体にはしのかの生気が巡る。
 巡り巡る力の応酬に、俺はただ翻弄されるだけだった。
「っく、ぅう......」
 しのかは腰を揺らしたまま、浮き上がった鏡に指を掛ける。深く胸に入りかけたそれを爪を立てて引き抜き始めた。剥がれ始めた鏡面から瘴気が溢れるのを見て、俺も無意識にその鏡に目掛けて風を送り込む。天井から垂らしていた周囲の布がはためくが、俺は構わずしのかに気を巡らしながら風で瘴気を浄化した。
 やがて、しのかの目や口から溢れていた瘴気は徐々にだがその量を減らしていった。だいぶ穢れが薄まったのを見て、俺は更に力を使う。
 ぎゅっと抱きついても嫌がれないのが嬉しかった。
「くそ......あと少しなのに......!」
 外れない鏡面に悪態をつくしのかを覗き込み、俺はきゅっと後孔を締め付けた。背筋を快感が駆け上ったのは俺だけじゃなくしのかも同様のようで、目が合うと動きを止める。
 俺は鏡を掴むしのかの手の上に、自分の手を重ねたまま身を寄せた。唇が触れ合いそうなところで動きを止めて、俺は視線を彷徨わせる。
「.........っき」
 声が掠れて、ちゃんとした言葉にならなかった。改めて言おうと口を開いたところで、身を乗り出したしのかに唇を塞がれる。
「んん......っふ、ぅん......っ」
「っは............幸彦、俺もお前が好きだ。愛してる......」
「しのか......」
 見詰め合った俺としのかは、もう一度深い口付けを交わす。駆け巡る快感と、多幸感。よくわからない感情に突き上げられて、俺は目頭が熱くなった。溢れ落ちる涙が止まらない。
 何度もキスを繰り返していると、しのかの胸に埋め込まれていた鏡にヒビが入った。その亀裂はすぐに広がり、細かく枝分かれしていく。
 そして。
「あ......」
 赤い鏡はしのかが握ると砕け散った。赤くキラキラと舞う破片が、俺の起こした風に散らされて消え去っていく。鏡が外れたあとのしのかの胸元には、跡一つ残ることはなかった。
「西埜女......安らかに」
 目を閉じてそう呟いたしのかに魅入られる。理不尽に与えられた苦痛を物ともせずにただ姉の冥福を祈るしのかに、俺も彼女の御霊が休まることを祈った。
 そのままでいると、逆にしのかにきつく抱き締められた。中に入ったままの陰茎が擦れて下肢が疼くが、俺は黙って抱き締められる。
 しばらくすると、しのかが身体を起こした。
「......っぁ、あぅ?!」
 ぐりっと、中を擦られて忘れていた官能が呼び覚まされる。漏れた声の大きさに、俺は慌てて手で口を塞いだ。
 そんな俺を愛おしげに見つめたしのかは、優しく俺の髪を指で梳く。それからにっと力強く笑った。
「経親。瘴気の元は消えたぞ」
 しのかの声はよく響き、布の向こう側からどよめきが聞こえた。歓喜が混じった声が多く、俺は周囲を囲む神主の姿を思い出して身を硬くする。
 お、俺......。
 さーっと顔から血の気が引いていく。
 最中はもう別にバレてもいい......という気持ちにだったが、我に返ると自分がどれだけ恥ずかしいことをしていたのか反芻してしまった。
 しのかに跨って、腰も振った。しのかを焚きつけるために、いやらしい言葉で誘った。その一つ一つは忘れようにも鮮明に脳裏に焼きついている。言葉なく口をぱくぱくと動かす俺に、しのかは目を細めて軽く口付けを落とすと、もう一度声を張り上げた。
「人払いを頼む経親」
 その言葉に応じて、ぱんと手が打ち鳴らされる。ぞろぞろと立ち上がり、立ち去る足音と布擦れの音が聞こえた。
「西埜風。志那都比古様がこの国に導いた御使殿、壊すなよ」
 そんな笑いを含んだ声を最後に音を立ってて襖を締め切られると、後は物音一つなくなる。
「幸彦」
「っ、ぅ......?」
 身じろぎしたしのかのペニスに中を擦られ、俺は背筋を駆け上がる刺激に身体を硬くする。人がいなくなったのは気配で分かるが、それでも正気になってしまった俺は、これ以上声を出せそうにもなかった。
 恐る恐る見上げると、こちらが視線を逸らしてしまいたくなるほど柔らかく愛おしげな瞳にぶつかった。
 口を覆ったままの俺の口元から両手を引き剥がすと、両手をそれぞれ握り締める。出そうになる甘い吐息を堪えて俺は怒鳴った。
「ちょ、離せ......つか、もう瘴気が出ないなら離れろよ!!」
「可愛げのないことを言う」
 抑えこまれながらも暴れる俺に、しのかは上機嫌で笑い声を上げた。腰を揺らめかされた途端、また淫猥な声を上げてしまい、俺はもう涙目だ。
 実際にするのは、はじ、はじめてなのに、どうして、こんなに、イイんだろう......?
「そんな顔で俺を見るな。優しくできなくなる」
「しろよ! ......っあ、しなくていい! しなくていいから、もう......!」
 もうやめろ。離せ。そう告げるつもりだった。
 なのにしのかは、しのかは俺の手を取ると、その手の甲に恭しく口付けを落とす。
「......一生掛けてお前を愛することを、お前が失った羽衣に誓う」
 まっすぐに俺を見つめる瞳に、俺はまるで金縛りにでもあったかのように見返すしかなかった。
 甘くて、優しすぎて苦しいなんて矛盾した感覚に、俺は顔を逸らそうとするが、それはしのかに敢え無く邪魔される。
 見つめ合ったままで呼吸も忘れるほどだった。肩を震わせた俺は、頬が上気するのを感じながら目を伏せて、唇を尖らせる。
「......うそ、ついたら、針千本飲ます......」
「いいだろう指きりだ」
 小さく呟くと、顔を綻ばせたしのかは小指を絡めて俺に口付けを落とた。
 指きりなんて知ってるんだ......なんて、どこかずれたことを考えながら、しのかから与えられる深いキスの甘さに酔って目を閉じた。


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