花嫁の契約-6

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 こんな酷いことをされるほど、嫌われているとは思っていなかった。
 愛し合うというには程遠い行為。
 淡々と押し広げる動作に、アルトゥールは喘いだ。
 ジークリードが嫌がらせで自分を抱くのでは、契約は完了しない。
 自分が一方的に想っているだけでは、駄目なのだ。
 頬に、涙が伝った。
 それをどう思ったのか。ジークリードが口を開く。
「プライドの高い貴方が、泣くほど嫌ですか。大丈夫ですよ、二本入りましたから、もうちょっと頑張れば終わります」
 二本、と告げたジークリードは、存在を示すように、二本の指をアルトゥールの中でばらばらに動かす。
 その時敏感な箇所を擦り上げられてアルトゥールの口から高い声が上がった。
「......ここ、ですか?」
「あ、ああ!だめだ!......そこ、は......ッ!」
 くくく、と指先で押し上げられて、アルトゥールは腰を揺らす。
 強すぎる刺激から逃れようとする行為だが、それは逆にジークリードの熱を煽る結果にしかならなかった。
 乱雑に三本目の指をねじ込まれ、きゅう、っと指を締め付ける。
「痛い、ですか?痛くないですよね、貴方のココは、もうとろとろだ」
「あああぅ!」
 片手は秘部を責め上げ、もう片方の手で急所を掴む。
 先端からはとくんとくんと、透明な液体が溢れていた。
「結構、濡れるんですね。知りませんでした」
 先走りで濡れた先端を指先で擦られ、アルトゥールは強くシーツを掴む。
 早く、早く、この甘く苦しい拷問を終えて欲しい。
 ただその一心で、アルトゥールはジークリードから与えられる淫蕩な加虐に耐え忍ぶ。
 ちゅぷんと指を引き抜かれた。
 広げられた箇所は収縮をしようとひくひく動く。
 痺れたような感覚ばかりが広がり、アルトゥールは縋るような視線をジークリードに向けた。
「もうすぐですよ」
 ふわっと微笑まれたのが嬉しくて、思考のまとまらないアルトゥールも笑みを浮かべようとする。
 しかし痺れて拡がった孔に、硬いものが押し当てられて目の前が暗くなった。
 押し入ってくるのは、灼熱の塊。
「あああ、ああ......!あつ...ぅい!」
 手足をがむしゃらにバタつかせて、必死で逃げようとする。
 闇雲に振るった手が、ジークリードの頬を叩いた。
「じっとして、指が傷つきます」
 頬を叩いた際に、歯にも掠る。
 傷が付かなかったかと暴れる手を掴んで、その指を確認した。
 綺麗な指には、傷はなかった。
 ほっと安堵して、両手を片手一つで拘束し頭上に押さえ込む。
 ぼろぼろ涙が溢れる瞳を覗き込んで、ジークリードはぐっと腰を押し込んだ。
「ひぅ......!」
 アルトゥールが喉を仰け反らせる。
 とくとくと、脈を刻むその部分に口付けを落とすと、ジークリードはゆっくりと腰を動かし始めた。
 初めはアルトゥールの反応を見ながら。そしてだんだんと激しく。
 中は、熱く熟れてしっとりとジークリードを包み込んだ。
 思っていたよりも柔らかでキツい締め付けに、突き上げが止まらない。
「あ、ジー、ク......ッジークぅ......!」
 舌っ足らずに名を呼ばれ、ジークリードはがむしゃらに唇を自らの唇で塞いでいた。
「んんん...ッ......んんーッ!」
 舌を絡めると、答えるようにアルトゥールの舌が動く。
 自分に応じてくれたことが嬉しくて、拘束していた手を離し、細い身体を掻き抱く。
「んふ、ぅ......ジ......ク......んッ」
 縋りつくようにアルトゥールの手が背に回ってきた。
 激しく出し入れし、快感を貪る。
 アルトゥールのモノは、突き上げられるたびに互いの身体に擦られて、いつしか白いものが混じるようになっていた。
 ジークリードのものもびくびくと痙攣する。射精が近い証拠だ。
「中に、出します......ッ」
 キスの合間に告げた言葉が早いかどうか。
 一際奥まで突き上げた後に、ジークリードは白濁を中に注ぎ込んだ。
「ああ、っくぅ、ん......っふ、ぁ!」
 熱に煽られてアルトゥールもびくんと痙攣し、びゅっびゅっと絶頂を迎える。
 とろっとした白い液体が、アルトゥールの身体を濡らした。
 その瞬間。
「あぅ!」
「あつっ!」
 焼きごてでも押し当てられたような熱さと痛みが、手に走る。
 ジークリードは思わず自分の手を強く握った。
「......あ......?」
 アルトゥールも、自分の指に走った痛みにぼんやりと手を翳す。
 左手の薬指に走ったトライバル。刻まれたSiegfriedの文字。
 ジークリードの薬指にも、トライバルに囲まれたArthurの文字があった。
 契約の指輪だった。『花嫁の契約』の。
 二人は呆然と、息を切らしたまま互いの指を何度も見た。
「契約が、完了......?」
 ぽかんと口を開くジークリード。
 互いに達したのは知っている。だが、通じ合っていなければ契約は出来ないはずだ。
「......これは、」
 アルトゥールは掠れた声で呟いた。
「何かの、間違いだ......」
「.........なにかって、なんですか」
「............なにかってなにかだ!お前が俺のことを、す、好きなんてありえない!」
 アルトゥールが怒鳴った内容に、すぐさまジークリードは異議を唱えた。
「ありえないってなんですか!俺はずっと貴方が好きでした!貴方が好きで、『花嫁』になろうと思ったです!村のためじゃない!」
「嘘をつくな!お前が好きなのはハイデマリーだろうが!」
「どうして決め付けるんですか?!......それを言うならアルトゥール様が、俺のことを好きだなんて、それこそ天と地がひっくり返ってもありえませんね!」
「な.........子供嫌いの俺が、ずっとお前をそばに置いたんだぞ?!好きじゃなかったら耐えられるか!」
「へえ?信じられませんねぇ」
「この、......あッ」
「う......」
 ぎゃんぎゃん騒ぎ合う二人は、結合したままだということをすっかり忘れていた。
 下手に動けば、互いに刺激し合うようなものである。
「......」
「......」
 アルトゥールは視線を彷徨わせた末、ぷいっと顔を逸らして首の後ろを掻いた。
 ジークリードは、口をへの字に曲げたまま、なにやら思案顔である。
「ぬ、抜け、よ......」
 沈黙に耐え切れなくなったアルトゥールは、ぼそっと呟いた。
 受け入れたままの孔が、異物を排除しようとじゅくりと動きそうな気配を感じたからだ。
 このままでは、また自分に火がついてしまうと身体を縮める。
「いえ。このまま、もっと試してみましょう」
「はっ......?」
「もしかしたら、この指輪『花嫁の契約』が見せた一瞬の幻かもしれません。続けていたら消えるかもしれませんよ。貴方は、俺のことが好きじゃないんですから」
「............そうだな。お前は俺のことが嫌いなはずだから、消えるだろうな。うん」
 続けよう。
 この指輪は、何かの間違いだ。
 お互いの思惑が一致した。
「ん......っふ」
 ゆるゆると抜き差しされて、アルトゥールは鼻にかかった声を上げる。
 手はジークリードの首に絡まった。
 ジークリードは甘く口付けを落として、優しく腕にアルトゥールを閉じ込める。

 『花嫁の契約』の指輪は、そのあといつまで経っても消えることはなかった。


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