花嫁の契約-5

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 アルトゥールの前に立っていたのは、金の髪に碧眼の青年。
 少しだけ癖のある髪は乱れ、頬には傷がついている。
 手はなぜか血に塗れていた。
「ジークリード」
 どうして彼が、ここにいる。
 アルトゥールは驚きに目を見開いた。
 見上げた人の青年は、驚くほど冷たい眼差しで自分を見下ろしてくる。
「どうしたんだ、その怪我」
 片手を両手で包み、治癒の呪文を唱えながら傷の酷い手の甲にキスを落とす。
 相変わらず血に濡れているが、傷口は塞がった。
「お前『花嫁の契約』はどうした?」
「これ、ハイデマリーから貰いました」
 アルトゥールの質問に対し、ジークリードはまったく違うことを口にする。
「人間が魔族に抵抗していた頃作られた魔具だそうです」
 言いながら、手にしていた細い銀で出来た丸い輪を、アルトゥールに見せる。
 魔力を帯びた輪だった。
 それがどうしたと、再度見上げたときに、ジークリードの手がアルトゥールの首に伸びる。
 ぱちんと、音を立ててその輪はアルトゥールの首に収まった。
「何をする!」
 突然の行為に、アルトゥールは輪に手を伸ばした。
 掴んで外そうとするが、どうやっても外れない。
 ならば魔力で壊そうと指先に力を込めるが、触れた銀の輪は、錆びて朽ちることもなかった。
「付けられた魔族は、魔法が使えなくなるそうですよ」
「何だと?!外せ!ジー...ク?!」
 なんの真似だと、ジークリードに噛み付く勢いで振り返ったアルトゥールは、ひょいっと抱き上げられて呆然とする。
 抱き上げたジークリードは、まっすぐ部屋の奥にある扉に向かった。
 そこにあるのは寝室である。
 勝手にドアを開けて中に入り、ジークリードはアルトゥールをベッドの上に放り投げた。
 跳ねて転がったアルトゥールは、ドアを閉めて戻ってきたジークリードを睨んだ。
「なんのつもりだ......?」
 低音で唸るように、アルトゥールはジークリードを威嚇する。
 普段であれば、これだけでジークリードは萎縮してアルトゥールに従ったはずだ。
 しかし、今は違っていた。
「なにって、『花嫁の契約』を完了させるだけです。本来なら貴方が俺の相手でした」
 ベッドにいたのはハイデマリーでしたけどね、とジークリードは吐き捨てる。
 そして纏っていた長衣の帯を解いた。
 すぐに肌が露になる。
 ジークリードは長衣を脱ぎ捨て、アルトゥールにのしかかった。
「いっ......」
 自分とジークリードの体重の下敷きとなった羽根が痛んだ。
「やめろ!お前に淫魔どもが教えた手解きは、夫が妻にやるやつだ!お前に俺の『花嫁』になる資格はないんだよッ」
 退け!とジークリードの腹に蹴りを食らわせる。
 だがジークリードはよろめくことも怯むこともなかった。
 みぞおちを狙ったアルトゥールの足首を掴み、ぐいっと持ち上げる。
 素足でいたアルトゥールの足の指をぺろりと舐め上げた。
「俺には『花嫁』の資格はありませんか、そうですか。......でも困りましたね、それじゃあ契約が完了しない」
 すうっと細められる切れ長の瞳。
 アルトゥールは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「じゃあアルトゥール様に、俺の『花嫁』になってもらいましょう」
 冷えた笑みを浮かべた男に、アルトゥールの服は引き裂かれた。
「やめろ!嫌だ!」
 じたばた暴れて抵抗するが、いかんせん体格差が大きすぎる。
 魔力を封じられた状態ではアルトゥールに勝ち目はなかった。
 指先の冷えた手が、露になったアルトゥールの胸を撫で上げる。
 びく、と震える身体を楽しみながら、ジークリードは薄く色づいた胸の部分を摘んだ。
 指先で転がし、きゅっと引っ張る。
 刺激を受けたその部分は、ちょこんと突起を突き出した。
「ジーク!」
 悲鳴のような声が、アルトゥールの口から漏れる。
 それに構わず、ジークリードは、その突き出した突起を口に含んで吸い出した。
「なん......ッ......あ?!」
 歯を立てられ、甘噛みされる。
 ちゅくちゅくと吸い付いている間、ジークリードの手は滑るようにアルトゥールの身体を這い回った。
 官能を誘い、呼び起こそうとする手の動きに、アルトゥールは内心舌打ちする。
 この男は、どこまでも優秀だった。寝台の上でもそれは変わらない。
「ぅ、あ......」
 腰からわき腹を撫で上げられて、アルトゥールは身を捩った。
「次は、こっちですね」
 ちゅぷ、と唾液に塗れた乳首から唇を外し、ジークリードはもう一つの突起に吸い付く。
 こちらは強く弱く吸われて、思わずアルトゥールは仰け反った。
 黒い羽根がぎしぎし痛む。だがそれを訴えている暇はなかった。
「あッ」
 明確な意図を持って下半身に降りた手が、内股を撫で上げる。
 そして緩く反応していた自分自身を握られた。
「......!」
 軽く上下に扱かれ、勃起していることを指摘する眼差しを向けられて、アルトゥールは顔を逸らす。
 白い肌は、首まで真っ赤になっていた。
「アルトゥール様は、ご自分でなさるときはどうされるんですか?」
「はっ?」
「ココを、その綺麗なお手で慰めることもあるんでしょう」
 胸から頭を引き離そうと必死で押さえていた手を取られ、指を口に含まれる。
 ちゅっちゅ、とキスをされて指を含まれ舌で転がされた。
 指の股までねっとりと舌を這わされ、アルトゥールの瞳が涙で滲んだ。
 愛しい人間に恥辱を与えられ、反応してしまう身体が恨めしい。
 好きだからこそ、反応するということに頭が回らないアルトゥールは、いやいやするように頭を振った。
「なんです?」
 子供がぐずるような仕草に、ふっとジークリードの目に優しさが灯る。
「お前となんか、したくない!」
 契約を交わせば、ジークリードを自分の元に縛り付けてしまう。
 せっかく開放してやろうとしているのにと、アルトゥールは睨んだ。
 一方、拒絶するような言葉を吐かれたジークリードは、ショックに固まっていた。
 苛められても嫌われているとは思っていなかった。
 慈しんで育ててくれているのだと思っていたのだ。
 ジークリードの瞳に宿った優しさが消えた。
「では、早く終わらせましょうね。契約が終われば、俺は出て行きますよ」
 ぐっと乱雑に足を押し開く。そして足先をアルトゥールの頭の方に押し付け、尻を上向きにさせた。
 ちゅっと自分を受け入れるだろう箇所にキスを落としながら、ジークリードは自傷気味に笑う。
 『花嫁の契約』は相思相愛な関係の者たちが結ぶ契約だ。
 一方的な行為では、契約は完了しない。
 それでも、とジークリードは余裕のない眼差しをアルトゥールに向けた。
 村を滅ぼすことになっても、自らも反逆罪で命を落とそうとも、この行為を止めることが出来ない。
 触れ合いたかった。中に入って締め付けられる感触を味わいたかった。
 自暴自棄に近い状態になったジークリードは、慎ましく閉じた蕾に、舌先を伸ばした。
「や、だ......あ!」
 息を吸うことすら苦しい体位に、アルトゥールはろくに抵抗することが出来ない。
 その間に、ジークリードは準備を進めていく。
 襞を丁寧に濡らし、痛みのないようにしてから同じく唾液で濡らした指を押し当てる。
 第一間接までゆっくりと入れてから、小刻みに動かして指を埋めていった。
 ひく、と喉を鳴らしてアルトゥールはまつげを涙で濡らす。


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