そのはち-7
ずるんと指が引き抜かれた。けれど、まだソコを刺激されているような鈍い痛みと違和感がある。
その感覚が消えぬままに、博也の熱い性器が押し当てられた。
「っ......博也、待ってくれ。まだ無理......!」
「うるせえな。俺が欲しいくせに、今になって怖じ気付いてんじゃねえよ」
ぎらぎらとした瞳を向ける博也は、まるで見知らぬ人間のようだ。
腰を進めようとする博也の腕を春樹は掴むが、邪魔だとばかりにすげなく払われた。
「ぅ、あ......!」
「んっ......きっつ......」
博也を受け入れられるだけの準備ができていないソコに、肉杭がねじ込まれる。
「あ、っあ......っぐ......」
内蔵から与えられる痛みに、春樹はきつく目を閉じた。
「くそ......はいんねえ......おら、もっと緩めろよ!」
力を抜くことを強要するように太股を手のひらで叩かれる。
浅い呼吸を繰り返す春樹に、その希望に応えられるだけの余裕はなかった。
それに気づいた博也は苛立たしさに任せて舌打ちをする。
ベッドに放り投げたままだったチューブを手にして、中身を出す。
抜くことも、進めることもできないような状態の後孔に、博也はそのジェルを塗り込めるために隙間を開けようと指をねじ込みかけた。
「いぃっ.........!」
さらに与えられた激痛に、春樹は仰け反った。
全身が心臓になったようにドクンドクンといううるさい音が止まらない。
吹き出す汗は、雫となった春樹の頬を伝った。
「なんで入んねえんだよ.........?!」
スムーズにいかない性交に、博也も気が動転している。
性体験は多いはずの博也は、初体験のときよりもひどい状態だった。
早く一つになりたいがために、相手を思いやることを忘れている。
「っ、う、ぅ......」
無理矢理引き抜き、そしてより奥に挿入を繰り返そうとする博也に、春樹は唇を噛みしめた。
余りに強く噛みすぎて、唇が切れる。じわっと口の中に血の味が広がった。
それでも春樹は博也に対して暴言を吐いたり、突き放そうとはしなかった。
ただ与えられる痛みを甘受して、博也のすることに身を任せる。
「チッ......なんだよ!」
苛立つ博也に、春樹はそっと手を伸ばした。頬を優しく指先でなでる。
そこで博也ははっとして春樹を見つめた。
「愛してる......キス、してほしい」
「春樹......」
望まれるままに身体を寄せて博也は春樹に口づける。
優しくついばまれて、春樹は血の気の失せた顔で柔らかく微笑みを浮かべた。
「......」
その笑顔を見た博也は、バツの悪そうな表情になるとあまり響かせないように少しずつ腰を引く。
鈍い痛みは残ったが、おかげでそれ以上の刺激はなくゆっくり引き抜かれた。
博也は春樹の傷ついた唇を何度も舐めて重ねる。
「ひ、ろや......?」
「もっとキスねだれよ。......ゆっくり、してやるから」
「......っん、ぅ......」
何度も何度もキスを繰り返しながら、博也はもう一度指を差し入れた。
わずかに春樹の眉間に皺が寄るのを確認しながらも、抜かずに中で指を広げる。
「ん......っあ、あっ......」
先ほどよりも優しく広げられる感覚。ジェルを何度も足して滑りを良くする。
足の間が濡れる感覚は、粗相をしているような羞恥を駆り立てられた。
博也の丁寧な行為が、春樹の身体を拓いていく。
何度もかき回し緩く突き上げて、きつい締め付けを緩めていく。
指も増やされ鈍痛も薄くなり痺れたソコは、博也の指に緩く絡みついた。
「そ、ろそろ......いいか」
ずっとお預けを食らっている博也のモノは、痛いぐらいに反り返っていた。
春樹のペニスの反応はまだ鈍いが、これ以上博也も我慢が効きそうにない。
柔らかく食まれる指に、自分の性器をダブらせて博也はごくんと喉を馴らす。
「ん。......れて、くれ」
春樹は身を寄せてくる博也の背に腕を回した。さっきの失敗をふまえてそろそろと腰を進めていく。
「っ」
「ぅ、あ......っすげ......!」
博也の興奮した声が耳をうつ。それを聞きながら春樹もそろそろと息を吐いた。
......苦しい。深く差し入れられたモノの存在は強く、時間をかけて慣らした後でも圧迫感がある。
「春樹、舌、出せよ」
「博也......ぁ」
舌を甘噛みされてじぃんと快感が生まれる。博也とのキスは、何度していても満足することはなかった。
一度すればもっと欲しくなる。
「はる......っはるき......!」
「っ」
ゆっくり動いていた博也の腰がだんだんと激しくなっていく。
大きく突き上げられると痛いが、気持ちよさそうな博也にそれを言うことははばかられた。
「っう、んっあ......っはる、......、んぅ」
甘く響く博也の声に、もっと聞きたいと思う。
痛みをこらえて突き上げに合わせて腰を揺らめかせると、博也は身体の疼くような声を上げてくれた。
「はるっ、き......っああ、俺のもん.........だから、っな......!」
「博也......!」
「んん......っあ、んっ!......ああ......!」
ずくずくと突き上げて、博也は動きを止める。中に入った博也のモノがびくびくと震えた。
博也の腕に春樹はきつく抱き締められる。その力は痛いほどだった。
少し間を置いて博也は弛緩した。大きく息を吐いて、春樹の頬をなでてくる。
急になくなった責めに春樹は戸惑ったが、身じろぎすると濡れた音が結合部から響いた。
それで中に出されたのだと気づく。
嬉しいような気恥ずかしいような、複雑な気分になった。
博也はじっと春樹を見つめながら、頬や唇を指先でなで続ける。
控えめに甘えるような仕草に、春樹は軽く首を傾げた。
「......?」
挿入されたモノは抜かれる気配がない。
春樹が疑問を含めた眼差しを向けると、まだまだ衰える気配のない欲情を持った瞳にぶつかった。
博也が達したことで減少した圧迫感が、またここにきて復活してきた。
「春樹......」
甘く名を呼んだ博也に首筋を吸い付かれて、春樹は目を細める。
「ん......っひ、ろや、まだ......するのか?」
「お前、まだイってねえだろ?直接触るとチンコ痛そうだし、中擦ってやるから、それでイけよ」
「......」
前立腺を擦られて反応はするものの、ソコだけで達せるような気はまったくならない。
だが博也の笑顔に、春樹はそのことを口にすることができなかった。
それに、痛みが伴う行為でも博也とこうして抱き合えるのは嬉しい。
「イくまで付き合ってやるからな。俺に感謝しろ」
「......ああ。ありがとう博也。愛してる......」
「ふん。......ほら、口開けろよ」
キスを誘った博也は、春樹が口を開く前に唇を押しつける。
薄く開けた口に入ってきた舌を甘噛みしながら、春樹は身体の中に広がる幸福を感じていた。