スイートハニーは誰?-5

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 毎度毎度の事ながら、自己嫌悪。
「ああもう、何で俺って......」
 真っ白なままなノートを睨みつけて、盛大に怒鳴り散らしたくなるのを、俺は必死で堪えた。
 なんてったって今は、平日の日中。
 良い子はみんな学校でお勉強中の時間だ。
 俺も真面目に受けてる振りはするよ?うん。振りは。
 真面目に教科書を読んでいる振りをしながら、俺は斜め前に座る真宏の背中を睨んだ。
 あいつは俺みたいに振りじゃなく、ちゃんと勉強している。
 基本的に真面目なヤツなのに、なんであんなに......え、えっちなこと俺にするんだろう......。
 昨日も、一昨日もだ。
 友達同士でやるっていったって、回数多くね?
 そうは思いつつも、毎回毎回挑発されて......思わず応戦してしまう俺も俺だろうな。
 隙を見てチューしてこようとする真宏は、いったい何を考えているかわからない。

 俺と親友、やなわけじゃないだろうし......やなのかな。

 それ考えると、ちょっと落ち込む。
 達樹との仲も相変わらずだ。
 他の人よりは踏み込んでる気がするけど、でも風間さんにはやっぱり勝てない。
 週に1回程度しか、達樹は風間さんと『遊んで』はいないけど、それでもその時間は濃厚で親密そうだ。
 ううう......俺も鞭打たれないと駄目なのかな。俺痛いの嫌いなんだよ......。
「アイちゃん。......アイちゃん?」
「ふえっ?」
 悶々と考えていると、いつの間にか前の席のクラスメイトが俺の顔を覗き込んでいた。
 慌てて周囲を見回すと、いつの間にか授業は終わっていたようで、周囲のクラスメイトが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「どうしたの?なんかずいぶん考え込んでいたみたいだけど。悩みごと?」
「そっ、それなら、俺が相談に乗るよ!」
「お前より俺の方が断然いいアドバイスできる!」
「んだと!」
 おいおいおいてめえら。俺をほっといて言い争いしてんじゃねーよ。
 引きつりそうになるのを堪えて、俺はふんわりとした笑顔を浮かべた。
「ふふ。みんなありがとう!でも大丈夫だから。心配かけてごめんねっ」
 あー......トーンの高い声出すのって、結構喉に負担かかんだよなぁ。
 でも俺がきゃるん!ってすると、みんながおだやかーにぼけっと見惚れてくれるから面倒だけどがんばるよ、うん。面倒だけど。
「あ、ああの、これ今週分買ってきたよ!」
 俺の笑顔に見惚れていたクラスメイトの一人が、差し出したのは『裏』学校新聞だ。
「僕読みたかったんだ。ありがとう」
 そのクラスメイトにピンポイントで微笑みを向けると、そいつは真っ赤になり股間を押さえ......おいおいんなところでチンポ勃たすなバカ。
 とは言わずに「どしたのかなー?大丈夫?」なーんて適当に気を使う振りをしながら、視線を裏学校新聞に落とした。
 今回はイケメン特集らしい。可愛い綺麗という男の子たちよりは、カッコイイとか渋いとかマッチョとか、そっち系みたいだった。
 ざっと目を通したところで達樹の情報がないと知った俺は、いつもよりも気が抜けた気持ちで新聞を読んでいく。
 お、賀川先輩の記事だ。へーまあもてそうな顔はしてるよな。真面目そうだし。
 他にも俺も名前だけは知っている有名な先輩方の記事を読み進めていくと、最後によく見知った顔が出てきた。
「ん?」
 記事サイズは小さい。けど、ほとんど2年3年の先輩方しか載っていない記事のなかで、唯一の1年生の記事と写真。
 映りは悪いが、どうやらサッカーをしている写真らしい。
「なになに......?『期待の新星登場!成長中ながらもしっかりしたボディとそのクールな眼差しで今大人気のサッカー少年。真田真宏くんにコメントいただいちゃいました!!』だぁ......?」
 裏新聞は生徒主体で作られている。そのため、売れやすいように内容も偏りがちでどこか下世話だ。
 記事捏造はしないが、インタビューは若干卑猥だったりする。答えるときに困ってる反応が、読者には受けるらしい。
 達樹や俺は慣れてるからある程度適当にかわしたりしているが、真宏の馬鹿は、馬鹿らしく几帳面に全部答えてやがった。
 その記事を読んだ俺は、ガタッと音を立てて椅子から立ち上がるとずんずんと真宏の側に行く。
「真宏、ちょっといいかな......?」
 人目があることを考慮して、やや可愛らしく声をかける。
 が、鋭い目つきで睨みつけると、真宏は肩を竦めながら立ち上がった。
 それで二人で連れ立ってベランダに出る。
 教室内がざわっとざわついたが、幸いに追いかけてくるやつはいなかった。
 校庭を眺めながら、隣で手すりにもたれる真宏に向かって低い声を出す。
「真宏、これ取材受けてたのかよ」
「あ?ああ、たまたまサッカー部の先輩の取材で来てたところに俺が通りかかっただけだ。つか本当に記事になるもんなんだな」
 真宏は俺から受け取った新聞を見て感嘆したように呟く。コメントの内容といい、
「チッ......わかってねえなあ。この新聞は学校の殆どのやつが読んでんだよ。オナニーの回数とか性感帯とか馬鹿正直に答えてんじゃねえよ......!」
 最近は2日に1回のペースです。なんて結構なペースじゃねえか。
 あと、普通にチンポを扱くのがいいですなんで言うんじゃねえ。
 俺だってそうなのか、って思うぐらいなんだから、他のやつだってお前のことそういう目で見るだろうが。
「だって聞かれたから」
 ......言った本人はケロリとしてますよ......。
「いいか。この記事のことでなんか聞かれたら、インタビュアーに調子合わせましたって言えよ。もしかしたら万が一、お前に不埒なことしようとする宇宙人がいるかもしれないからな!..................おい、聞いてんの......」
 そう折角俺が助言してやったにも関わらず、反応が薄い真宏に苛立った俺は、ついつい顔をそっちに向けてしまう。
 すると、薄く笑みを浮かべている真宏とバチッと目が合った。
 意味深な笑みに俺があっけに取られていると、真宏は俺に顔を寄せてくる。
 俺たちの様子を教室内で伺っていたクラスメイトがどよめくのが聞こえた。

「心配してくれるのか。......可愛いな、悟」

「なっ」
 耳元での囁きに、一気に顔に熱が上がる。
 他の誰に言われてもいい。けど、コイツに言われるのだけはなんか屈辱的だ。
「おおおおおっと!手が滑ったぁッ!!」
「!」
 ぶんっと拳を振るった俺に対し、真宏がぎりぎりのところで身を引いて避ける。
 ああん?俺の拳を避けるたぁいい度胸じゃねえか!
 ぎりっと奥歯を噛んで更に追撃を仕掛けようと俺は構えた。
 教室内から見えるのは上半身の部分までだけだ。そこの部分を意識して俺はとっさにしゃがみ込む。
 しゃがみ込んでるせいであまり力が入らない分、狙うは急所だ。
 上半身を引いたために下半身の動きが鈍った真宏の脛に、蹴りを叩き込んだ。
「ッ」
 多少加減はしたがそれでも痛いらしく、さすがの真宏も痛みに顔を歪ませる。
「ふん。ちょーしにのんなよ」
 べえっと舌を出した俺は痛みに苦しむ真宏を置いて教室に戻った。
「ああ、あの、今何が......?」
 様子を見ていたらしいクラスメイトが心なしか問いかけてくるので「なんでもないよー?」と詮索無用の笑顔を浮かべて席に戻る。
 俺の笑顔の意味がわかったのか、そのあとは誰も問うものはいなかった。
 戻ってきた真宏は少し足を引きずっているようである。
 それを見たクラスメイトは、更に顔を引きずらせて俺を見たが、俺がにっこりと微笑むと青ざめた中にも顔を赤らめる男もいてちょっと面白かった。



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