番外編2(パロディ)-6

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-ふたりきり-



 外資系に勤めるレベルの高いOLとの合コン。
 後輩が自信満々で誘ってくるだけあって、その言葉に偽りはないようだった。
 ただ、それは外見だけで言えば、と言える。
「えぇー? 藤沢さんってぇ、係長なんですかー?」
「すごーい! まだ全然お若いですよねぇー」
 語尾を伸ばされると褒められてる気がしねえ。
 まあな、と軽く答えながら、俺はワインを飲む素振りで顔を逸らし、じろりと隣に腰掛た後輩を睨みつける。
 すると、俺には劣るものの爽やかな見た目の後輩は視線に怯えて首を竦めた。
 営業としての能力はまあまあ。縁故雇用で入社した当時はろくに敬語も使えなかった後輩は、周囲にはバレないようにスパルタ教育したおかげで、今では俺の立派な下僕だ。
 仕事を一から教えたせいか尊敬されているのはわかるのだが、30歳を越えて未婚の俺に対してせっせと女を紹介してくれる。
 本人が大学時の同級生の彼女がいて幸せなので、俺にもその幸せをおすそ分けしたいらしい。
 余計なお世話だと何度断っても懲りない。まあこのしつこさは営業には必要だと俺が教えたせいだが、それが今は裏目に出ている。
「ちょっと失礼」
 取引先から電話がかかってきた素振りで携帯を手にしながら席を抜け出した。
 途中店員を捕まえて喫煙所を尋ねる。
 店員はすぐ側にある公園を教えてくれた。レストランが入っているビルでは喫煙所がないらしい。
 悲しいかな、世の中は禁煙ブームだ。
 けど、俺は一箱5000円になってもやめねえぞ。
 少し離れているが、いい加減値踏みするような眼差しを向けられることが耐え切れなくなった俺は、ビルを出て数分の公園まで向かった。
 公園には何人か俺と同じように肩身が喫煙者がタバコを吸っている。
 ポケットからタバコを取り出して、俺も一服した。
 今日は合コンがあって帰るのが遅いとは連絡してあるが、こうして時間が空くと馬鹿ニートが気になってしょうがない。
 二人で暮らすようになってもう3年以上になる。俺たちの住む家は元々親父が買った家なので、母さんはしきりに戻ろうと誘っているが貧弱そうに見えて頑固な親父はなかなか了承しない。
 そんなわけで、俺は弟、智昭と二人きりの生活だ。
 母さんは俺が結婚しないのは、ニートで引きこもりの弟がいるせいだと思っているようだが、それは当たらざるとも遠からずだ。
 30歳を過ぎた時点で、周りがうるさくなってきたが俺は一切結婚するつもりはない。
 もしこの世間から認められない思いがばれても、俺はアイツを手放さないだろう。
 その先が破滅だとしても。
 タバコを吸いながらそんなことを考えていると、携帯が震えた。
「はい」
『先輩いいいい!』
 普通に電話に出ると、かけてきたのは合コンの企画者の後輩だ。きっぱりくっきり喋れ、と調教した結果、大きな声で挨拶もできるようになったのは良かったが、こんな時はやはりうるさい。
「んだよ。うるせぇなあ」
『どこ行ったんですか! まりかちゃんもりなちゃんもみんな待ってますよー?』
 堂々と名前を出してくるってことは、席からは離れているのだろう。
 おそらくレストランを出たところで俺に電話をかけたのだ。
「あー......俺このまま帰っていいか」
『えええええ!』
 色々と面倒になってそう告げると、途端に非難の声が上がった。
『マジでやめてくださいよう! 先輩のためにより抜きのオンナノコ用意したのに!』
「お前、俺に接待してどうすんだよ......」
 ぼやいたが後輩は引くつもりはないらしく、ぎゃいぎゃいと戻ってくるよう説得がうるさい。
 今日の合コンは5対5だ。俺が抜けても支障はなさそうだが、わざわざセッティングしてくれた後輩の苦労を考えると確かにこのまま帰るのは気が引ける。
「わーったよ。戻るから待ってろ」
『絶対ですからね!』
 タバコの灰を設置されていた灰皿に捨てながら、俺はため息をついた。



 結局帰宅は日を跨いだ。
 イタリアンを食べた後はそれぞれに別れてバーに移動。帰ろうと思った俺は、女を二人つれて歩く羽目になった。
 色目を使う女を酒で潰してそれぞれをタクシーで家に送った。
 そしてようやくの帰宅だ。
 家に付くと出迎えはなかったが、リビングの明かりが付いていた。
 中を覗けば、ダイニングの椅子に腰掛けて伏せている小さな肩が見える。
 すっかり寝ている弟の姿だった。
 俺はゆっくりとぴんぴん跳ねた髪の毛を撫で付けるようにして撫でる。
 それから俺はさっさとシャワーを浴びて酒の余韻を流した。
 明日から連休で予定は何もない。いや、あるといえばあるのだが、それを予定と言えるかどうかだ。
 シャワーを済ませると俺はダイニングに戻る。寝ている智昭は俺にまったく気づいていない。
 優しく抱き上げるか。
 そう思う内心とは裏腹に、俺は弟の髪を掴んで頭を持ち上げていた。
「っい、」
 強く引っ張ると、智昭は痛みに顔を歪ませて覚醒した。
 ぼんやりとした瞳が何度も瞬きを繰り返し、焦点を合わせて俺を捕らえる。

「あきひろ」

 舌ったらずに俺を呼んだ。
 その声と、やんわりと微笑んだ表情に下肢が疼く。
「こんなところに寝てるんじゃねえよニート。風邪引いたらどうすんだ」
「心配?」
「はっ、ごくつぶしに使う金はねえだけだ」
 俺の言葉に智昭は表情を曇らせる。
 そのまま黙ってしょげていればいいものを、馬鹿は俺の勘に障ることばかり言う。
「嘘つき」
「あ? なんか言ったか?」
 俺が頬を掴んで引っ張ると、声にならない悲鳴を上げながらふるふると首を横に振った。
 その情けない顔を見て溜飲を下げると、言葉少ない弟を抱き上げる。
 そのまま明かりを消して二階の自室に向かっていると、智昭は俺の首筋に顔を埋めてなにやら笑ってた。
「なに笑ってんだ。気持ちわりい」
「ん」
 ふるふると首を横に振るだけで、智昭は何も言わない。
 だが単純な頭だ。
 俺が合コンで帰るのが遅いとと言ったときは、無表情でなんでもないような表情をしていたが、内心かなりショックだったんだろう。
 だからダイニングで待っていて、俺が深夜になったとはいえ、帰って来たことが嬉しいのだ。
 素直に言わないところは誰に似たんだか。
 そっとため息をついて、部屋に入る。
 元々シングルベッドしかなかった俺の部屋には、今ではクイーンサイズのベッドがある。逆を言えばそれしかない。
 もっと大きいベッドを入れたかったが、さすがにそれほど広くない部屋には入らなかった。
 寝るだけの部屋なので、他には何もなくていい。
「ぎゃっ」
 ぽーんとベッドの上に智昭を投げると、短い悲鳴が上がった。
 どうやら舌を噛んだらしい。目に涙を貯めて俺を睨みつけてくる。
「ひどい」
「けっ。だれがお前なんか優しく下ろすかよ」
 ぎしっと音を立てながら俺がベッドに上がる。
 俺をじっと見つめる智昭の大きな瞳には、様々な感情が揺らめいているのが見えた。
「口開けろ」
「ん」
 あんぐりとあけた口に指を突っ込み、舌を引っ張り出す。
 大人しく舌を出した智昭を見つめ返しながら、俺は舌先をその小さな舌に絡ませた。
 舌で交わす口付け。唇を合わせることなく互いの舌で味わう。
 智昭の舌は甘かった。ミルクっぽい味がする気がする。
「タバコ、くさい」
「うるせ」
 嫌がる智昭を押さえ込んで、俺はがっつりキスしてやった。
 俺が服を脱がすように動くと、智昭は背に腕を回してくる。
「合コン、失敗?」
「あ?」
 囁かれた言葉に、動きを止めた。
 ぐるぐるいろんなことを考える瞳を眺める。
 まあ、俺なら女とキスする前にタバコは吸わないな。吸わないやつは吸った後のキスを嫌がることも多い。
 俺からの苦いキスに、女の影がなくて安心したのだ。
「余計な事にばっかり気を回してんじゃねえよ」
 耳元で囁いた上で、甘噛みとは程遠い強さで耳朶に噛み付き、悲鳴を開けさせてから俺は細い身体を組み敷いた。
 服を剥いても出てくるのは貧相な身体だ。おうとつが少なく、観賞用とはいかない。
 これならさっき合コンであった女の方がより華やかな肉体を持っているだろう。
 ただ、どうしても俺が欲情するのはこの身体だけだ。
 さてどこから食らおうかとじっくり視姦している間、智昭は身じろぎもせずに黙って身体を横たえていた。
 彷徨っていた視線は、緩く勃起し始めたペニスに止まる。
 毛も薄く、小ぶりなソレは皮を被ったままだ。剥き方も俺が教えてやったが、剥くと痛いらしくて洗うとき以外はほとんどこの状態だ。
 よし。ここからにしよう。
 先端を持った俺がにやりと笑うと、智昭は怯えたような、どこか期待しているような表情を浮かべて身を竦めた。



 部屋に濡れた音と、短い息遣いだけが響く。
「あっ、あっあっあ、んぅ、あっ」
 四つんばいにした智昭の背に覆いかぶさって、短いストロークで突き上げると低い嬌声が上がる。
 腰を掴んでいた俺はふいに動きを緩めると、上半身を倒して身体を密着させた。
 俺が何をしようとしているのか気づいた智昭が、前に逃げようとする。
「やだ! おい、あきひろっ!」
「聞こえねえ」
 耳元で囁いて、襟足が長くなったうなじを撫でる。
 汗でしっとりした髪を避けると、白いうなじが見えた。
 ぺろりと舐めればしょっぱい。
「やだって、聞いてん......っ!」
 びくびくと智昭の身体が震えた。挿入したままの俺のペニスもきゅうっと締め付ける。
 うなじを食んだまま、俺は腰を打ちつけた。
「ああっ、あん、あ......っだめ、......だめ、いく......っ!」
「っ」
 中がうねった。目の前が眩むような快感を得て、俺は意に反して達してしまう。
 反射的に深く穿ってより奥に種付けする。
「あ、あ......」
「っは......」
 噛んでいたうなじを離すと、智昭は弛緩したようにベッドに倒れこんだ。
 ずるんと俺の性器が抜ける。
 今の今まで俺を受け入れていた開きっぱなしの蕾が、ひくんひくんと収縮している。
 目の毒だ。
 使用済みのコンドームを外しながらシーツをかけてやる。
 大きく息を吐きながら、俺はベッドを出た。1階に下りて濡れタオルをレンジで暖めて部屋に戻る。
 すると、智昭はベッドの上でシーツに包まれてうーうー唸りながら俺を睨んできた。
「なんだ」
「......」
 俺がじろりと見やると不満そうな顔のまま視線をそらす。
 それからわざとらしくうなじを撫でていた。
 痛かったのかもしれないが、噛まれた状態でさっさと達したのはそっちだろうと、気にせず勝手にヤツの身体を拭いていく。
 腕や胸、それから足と順にタオルを動かす。事務的に手を動かす俺に、智昭も大人しく身を任せていた。
 拭き終わりシーツと布団を智昭にかけると、俺はベッドに腰掛けてタバコに火をつけた。
 良くないとは思いつつも、情事後の一服は格別だと思う。
「痛かった」
 その呟きにちらりと視線を向けると、俺と目が合う前に逸らされた。
 いい度胸じゃねえか。
「良かった、の間違いじゃないか」
 吸い込んだタバコの煙をふっと吐き出す。薄く開けた窓から、煙は霞となって消えていった。
「違う」
 べしっと背中を叩かれる。
 貧弱な手で叩かれても痛くはないが、俺に対する態度がなってねえ。
「やんのかこら」
 タバコの火を消して向きを変えると、智昭は頭まですっぽりと布団に隠れている。
 言うだけ言って隠れる弟に、俺も布団の中にもぐりこんでヘッドロックしてやった。
「ぎ、ぎぶ!」
 すぐに腕を三回叩かれたので仕方なく放してやる。
 すると、智昭はへにゃりと笑った。
 ......なんだコイツ。
「とうとうマゾになったか」
 気持ち悪いと顔を顰めていると、智昭は俺の上に腹ばいになり、首に腕を回して密着した。
「あきひろこそ。やさしくて気持ちわりい」
「ああ?そうかそうか。気を失うまで締められたいか」
「それはやだ」
「なら黙ってろ。あと重い。降りろ」
 細い肩が外気に晒されている。あとで服着せねえとな、と考えながらとりあえず毛布を首までかけてやる。
「あきひろ」
「何」
「すき」
 甘く囁きながら、俺の鼻の頭を噛んでくるので、俺は容赦なく頭を叩いた。
 愛情表現なのに!とぎゃんぎゃん騒ぐ口を塞いで唇を噛んでやる。

 噛むのが愛情表現なんだろう?

 痛みで涙目になる智昭を見つめて、俺はこの二人きりの生活に密かに満足したのだった。


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