小話詰め合わせ-4
-映画後-
ぽにょぽにょ言ってる例の映画を見た記念の小説でした。
(作成時がいつか偲ばれる作品ですね......!)
映画を見終わったあと、館内が明るくなっても、ともあきさんは大きなスクリーンを眺めたまま動かなかった。
隣に座って様子を伺っていた俺は、そんなともあきさんをじっと見やり、周囲の人がいなくなってから肩を叩く。
「ともあきさん、出よう?」
俺の声に、はっと現実に戻ってきたともあきさんは、こっくりと頷いた。
立ち上がっても、動作がゆっくりとしているともあきさんの手首を掴んで、映画館から連れ出す。
西日の暑い日ざしの中、俺とともあきさんはゆっくりと歩いた。
本当は手を握って歩きたいけど、それは人の目があるから断念する。
「映画、そんなによかった?」
こくんと頭が揺れたので、俺は満足した。
俺に金を使わせたくないともあきさんを説き伏せて、連れてきた甲斐があった。
本当は、もっとなにかしてあげたいのに、それをともあきさんは拒む。俺にはかたくなに金を使わせたくないらしい。
未だに夢うつつな状態のともあきさんをつれて、俺は人気のない道を選んだ。
俺がバイトしているコンビニ近くまで行くバスのバス停を目指す。周囲に人がいないのを確認した後、俺はともあきさんの手を握った。
ひんやりとした、手。夏場でも、ともあきさんの手はあまり熱くない。
冬になったら、冷たいんじゃないかと思う。でも、冬になったらなったで、俺が暖めてやればいいかなとも考えている。
だから今は冷やしてもらおう。
にこにこと歩いていると、くいっとともあきさんに手を引っ張られた。
「なに?」
まっすぐ行く道を、右側に逸れる。手を引かれるままに、俺はともあきさんに付いていった。
人気の多い道に出るので、手をどちらともなく離す。
河川敷の脇にある遊歩道は、ペットの散歩やジョギングをしている人たちがいた。
なにやら急ぎ足気味に歩くともあきさんの後を、俺はゆっくり歩く。
ともあきさんの目指す先は、どうやら河川敷らしい。何をそんなに夢中になっているのかと様子を伺っていると、川縁にたどり着いたともあきさんは、ぴたりと動きを止めた。
「ともあきさん?」
不思議に思って名を呼ぶと、目の前でともあきさんがしゃがみこんだ。
なんだろう?
時折、この人は俺には想像も付かない突拍子もない行動をする。
その行動を、理解してやれるとなんだか嬉しいのだが、今はちょっと......わからない。何かしているのかと思っても、ともあきさんは水を眺めたまま動かないだけだ。
......もしかして?
「ぽにょは、いないよ?」
声を掛けると、びくっと肩が跳ねた。
しゃがんだまま、ともあきさんが俺を見上げる。
若干むっとした表情。他人が見たら、睨んでいると誤解されるような顔だ。
でも俺は知っている。今、この人は恥ずかしがっている。
その証拠に耳は赤いし、まっすぐ見つめてくる瞳が揺れている。
俺も同じ視線になるためにしゃがみこんだ。
「わかってても、水辺に来たかった?」
......あ、潤んだ。
恥ずかしさからか、目に浮かんだ雫。思わずなにか、別な衝動を覚えそうになってしまうのを堪える。
「可愛かったよね」
俺には怖い映画だったけど。
手を差し出して立ち上がるように促すと、ともあきさんはぎゅっと冷たい手で握ってくれた。
冷たい手は、優しい人の証というし。......好きだなこの手。全部好きだけど。
日が沈んで暗くなり、若干人が少なくなったのをいいことに、俺はともあきさんの手を引いて歩いた。
「ローソンでグッズ売ってるらしいから、見に行く?」
「いい」
首が横に振られた。瞳が俺に向けられる。
「公園」
コンビニから駅に向かう途中にある公園のことだろう。
「ん?」
でもそれだけじゃ良くわからないから、首を傾げて聞き返す。
「話、しよ」
少しだけ浮かぶ笑顔。
感想を話し合いたいだけかもしれないが、俺と一緒にいたいと思ってくれているのが嬉しくて、俺はにやけてしまうのを堪えて、大きく頷いた。
バスで揺られている間も、こっそりと俺はともあきさんの手を握っていた。
この人の手は、絶対離さない。