そのなな-4
そろそろ中間テストの勉強を始めなければならない頃だ。
春樹はどちらかといえば前もっての準備をしている方なので、試験期間前であろうとなかろうと勉強量が変わることはない。
だが博也は違う。
夏休みの宿題は最後の一日で片付けるタイプで、普段も授業を聞いているとは言いがたい。
したがって、テスト期間前に勉強をしなければ赤点になることが目に見えている。
少し前までは博也が赤点を取ろうがどうしようか気にもしなかったが、今はそんなわけにはいかなかった。
医者の息子ということで、場合によってはそちらの方向にも進むこともあるかもしれない。
そんなときのために勉強して選択肢を増やしておく分にはいいだろう。
影で支えるつもりの春樹は、意を決して博也に声をかけた。
「博也、勉強しよう」
「ああ?やだよ」
いつものように我が物顔で春樹の部屋で寛いでいた博也は、真面目な顔の春樹ににべもない。
普段であればあっさり引き下がる春樹も、このときばかりは引かなかった。
「テストもう一週間もないぞ。一緒に勉強すれば、はかどると思うんだが」
「別にいいって。赤点取ったってどうにかなるだろうし」
正座して教科書を手にしたまま訴える春樹に、博也はあっさりと拒絶する。
最後にはまたゲームを起動してしまう始末だ。
「大学は行くんだろう?今のうちに勉強しておくと、後が楽じゃないか」
「後でやるからいい」
「......」
嘘付け。と春樹は思った。だが押し黙るだけで内心を口にしない。
「博也、それじゃあ遅いかもしれないから、今日は一時間でもべんきょ」
「いいって言ってんじゃん。つか春樹、うざ過ぎ」
更に言葉を重ねようとした春樹だが、博也の一言で肩を落とした。
本人がやる気にならないのに、やらせる方法が思いつかない。
頭ごなしに怒鳴りつける勇気もない春樹は切々と訴えるしかないのに、博也はそんな自分をうざいと言う。
「どうしたら、勉強してくれるんだ」
小さく呟いて、春樹は目を伏せた。
すると博也はゲームのコントロールを投げ出して、春樹の膝に頭を乗せて下から見上げてくる。
手を伸ばした博也に黒髪を撫でられて、春樹は寝転がる同級生を見つめた。
「そんなに勉強してもらいてえ?」
してもらいたいというか、しなくてはいけないんじゃないかと思うのだが、と言いかけて春樹は黙ったまま頷いた。
春樹も学習している。博也は少しおだてた方が何かと動いてくれることに気づいた。
「ふうん。じゃあオナニーしてみせろよ」
「........................」
春樹の頬から唇にかけて指先で辿った博也は、にやりと意地の悪い顔を見せた。
博也が勉強するための交換条件に、自慰。
前にも似たようなことがあったときも思ったが、物凄くおかしい取引だ。
「でなきゃしない」
軽く鼻を鳴らした博也は、春樹の手を取って自分の手と指を絡めている。
こう言えば自分を引かせるための条件かと思った春樹は、絡んだ手を眺めてふっと息を吐いた。
「春樹?」
急に握り返された博也は、訝しげに春樹を見つめる。
「するから、退いて欲しい」
「......は」
「代わりにテストまで毎晩2時間、一緒に勉強することを約束してくれ」
春樹の出した条件に、博也はがばっと起き上がった。
当惑と期待。2つが微妙に入り混じった表情の博也を前に、春樹は立ち上がって自分の服に手を掛ける。
「本気かお前。マジで俺の目の前でオナニーすんの?」
服を脱ぎ始めた春樹に、博也は上ずった声を出す。
ベルトを緩めた春樹は無表情のまま頷いた。
「する」
そうきっぱり宣言した春樹は、全てを脱ぎ捨てて褐色の肌を露にした。
博也の視線が舐めるように胸から足元へ下がり、そして体の中心で止まる。
普段淡白な春樹は、博也が泊まるようになってから一度もしていない。
博也は時折風呂の時間が長い時があるので、春樹は勝手にその時間に抜いているんだろうと考えている。
薄いクッションに腰を下ろした春樹は、まだ反応のない陰茎に手をかけた。
その間、博也は無言だ。
それはありがたい。だが、じっとガン見されるのは春樹の心境には良くない。
春樹は、それでも無事に終わらせれば勉強が出来ると、気合を入れて自身のペニスを緩く扱き始めた。
1分、2分。静かな室内に時折聞こえるのは互いの呼吸音程度だ。
しばらくそのままの状態が続き、やがて春樹は博也を見た。
「終わっていいか」
「っざけんな!お前イッてねえじゃねえかよ!」
博也が指摘した通り、春樹の状態は射精には程遠い。
「でも見せた」
「おま......ちょっとソレ貸せ」
顔をしかめた博也に、ソレ、と例えられた自身のモノを見下ろした春樹は、少し考えて両手を体の脇に退ける。
僅かに反応を示した程度の陰茎を、博也がそっと握った。
真面目な顔で春樹のモノを愛撫していく。
手を上下に揺らし自分が普段そのようにしているのか、もう片方の手で袋を優しく揉んだ。
じん、と鈍い快感が下半身を中心に広がる。2人が見守る中で春樹のモノがゆっくりと変化を見せた。
それでもやはり、反応は鈍い。
春樹の心に、やっぱり自分は勃起障害なのではないかという思いが掠めたところだった。
「舐めたら、勃つかな」
じっと見つめたままの博也がぽつんと呟いた。
何気ない一言で、春樹は自分自身から視線を外して博也を見つめる。
博也は手を元を見たまま、まるで大きさを測るように小さく口を開いて舌を覗かせていた。
赤い舌がちろりと動く。
「......」
無意識の色気がそこにはあった。
目を伏せ気味に、手元の性器を見つめて舌を動かす博也の表情に春樹は釘付けとなる。
「あ、でかくなった」
溢れた先走りを指で塗りこめながら博也は安堵したように笑った。
「何想像したんだよこの変態。言ってみろほら」
反応が良くなった春樹をからかうように、博也がはやしたてる。
そんな博也に、春樹は背を伸ばして軽く口付けを仕掛けた。
急に春樹からのキスを受けた博也は、驚いたような表情で口元を押さえる。
幼く見えるその表情もいい。
「博也」
「え?」
「博也を見ていた。......博也が、協力してくれたら大丈夫かもしれない」
頬を上気させて目を細めて僅かに笑った春樹に、博也も笑みを浮かべた。
「なんだ、言ってみろよ。どうしてもっていうならやってやるよ」
「服、脱いで欲しい」
いつも通りの上から目線の言葉に、春樹はここぞとばかりに強請る。
博也は少し戸惑ったようだったが何も言わずに立ち上がると、自分の服に手をかけた。
自分で頼んでおきながら、体温が遠ざかったのを残念に思いつつも、博也の行動を見守る。
ゆっくりと服を脱ぎ出す博也に、春樹は自分で自分を慰めながら隠された肌が露になるのを待つ。
シャツのボタンを外し、肌着を脱ぐ。寒いせいでつんと勃った胸の突起を見て、前に触ったときに漏らした博也の声が脳内で再生された。
「......っふ」
単調な自分の手の動きには、微塵も快感が生まれない。しかし、博也が自分のために服を脱いでくれていると思うと、吐息が声になった。
くちゅくちゅと指の合間から漏れる水音も、だんだん大きくなる。
ホームウエアの下を脱ぎ、下着に手をかけた博也はそこで動きを止めた。