そのなな-5

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「......これ、全部脱がねえと、だめか」
「なに......?」
 自分で自分を高みに押し上げながら、博也のわき腹や形の良いへそを見ていた春樹は、ぼんやりと掠れた声で応じる。
 反応がなかったので春樹が見上げると、うっすらと博也の顔が赤かった。
 はっとした春樹は、盛り上がっていた気分に冷や水を被せられた気持ちになる。
「具合でも悪いのか、なら無理に脱がなくていい」
「違う。......あ、馬鹿!萎えさすな!............ああもう!」
 怒鳴った博也は、羞恥で真っ赤になりながら勢い良く下着を脱ぎ捨てた。
 途端にぶるんと反り返ったモノが、下着のゴムの部分に当たって跳ねる。
 何もしていないのに、完全に勃起している。
 そのことに驚いて春樹は、軽く目を見開いた。
「見んなよ馬鹿!」
 博也自身、自分の体の反応に戸惑っているところがあるのか、顔の半分を手で覆っている。
 その照れている様も可愛らしい。そしてそれ以上に、春樹は劣情を掻き立てられた。
 四つんばいになって博也に近づくと、目線の高さにあるペニスを咥えて愛撫をしようとする。
 前までは良くしていた行為に、春樹には迷いはない。
 と、前髪を掴んで強く引っ張られた。
「博也?」
「俺はいいの!今はお前!」
「俺は別に後でも......それより今は博也の方が、」
 行為を続けようとする春樹を、舌打ちした博也が押し倒した。
 勢いが強すぎて強かに後頭部を床にぶつける。
「お前が反応してんのに逃せるかよ。触っても触っても全然平気そうな顔しやがって!」
「悪い」
 謝る春樹に不機嫌そうなまま覆いかぶさってきた博也が、そのままキスを仕掛けてきた。
「ぅ、んっ」
 舌を絡めて吸って、時折舌先を甘噛みする。甘く蕩けそうな口付けに春樹は目を閉じた。
「......キスの反応は悪くねえんだけどなあ、その他が......」
 ぼやいた博也が、春樹の手を導いて淫靡な行為を再開させる。
 手の動きは絶頂に向かうために激しくなるが、性器の反応はやはり鈍い。
 目を閉じての行為では、博也の存在が感じにくいと気づいた春樹はうっすらと目を開いた。
 ぼやけた視界の中で、ようやく博也の輪郭を捉える。
 すると驚愕で息を止めた春樹の目を、博也の手が覆った。
「......見んなって、言っただろボケ」
「んッ......すまない」
 何も映さない真っ暗な中でも、どくどくと自分のモノが脈打つのを春樹は感じていた。
 さっきの一瞬で見えた視界の中で、自分のモノを握って手を動かす博也が見えた。
 上気して潤んだ瞳と、薄く開いた唇から覗いた白い歯をしっかりと目撃したのだ。
 博也も自分と同じことをしている。......いつもは偉そうにしている、あの顔で。
 そう思うと、脳が高ぶった。
 今も、自分の呼吸に混じって博也の声が聞こえている。
「う......く、ああ......っ」
 声を噛み殺しているつもりなのか、くぐもってはいるがそれがより艶かしい。
 見えない分想像を掻き立てられて、春樹は手を動かした。
「っあ......は、あ......うっ、......んん」
 視界を覆う博也の手に力が入った。
 声と動作と雰囲気で、春樹は博也が達したことを知る。
 イきたい。春樹は純粋にそう思った。
 春樹の身体の中でぐるぐると渦巻く熱。それが上手く昇華しなくて、春樹は苦しげに喉を鳴らす。
「ひろ、や......イッた?なら手伝っ、て欲し......っあ」
 その訴えに、博也はすぐに動いた。
 自分の手を春樹の手に重ねて、行為をエスカレートさせる。
 ぬるりとした手の感触に博也が達した証を感じて、脳内に火花が散った。
 顔が見たいと願うけれど、博也の手が自分の瞼の上から退く気配はない。
「ッ」
 息を詰めて、春樹は達した。
 びゅくっと跳ねるペニスが、白濁を吹き上げる。
 絶頂に達した春樹はゆっくりと強張らせていた体から力を抜いた。
 これほど強い快感を感じて果てるのは、初めてかもしれない。
「......?」
 春樹は博也に感謝をしようと身体を起こしかけて、未だに目が手に覆われていることに気づいた。
「博也?」
「俺は別に早くないぞ!お前が悪い!」
「え?」
「お前が遅いだけなんだからな!この馬鹿!」
 タイミングのことで、文句を言いたいのだとようやく理解した春樹は、肯定の意味を現して緩く首を縦に振った。
「わかってる。ありがとう博也、最後手伝ってくれて。......それで、手を離してくれないか。服を着ないと寒い」
「......」
「シャワーは博也が先に浴びてくれ。俺も浴びた後に一緒に勉強しよう」
 自分は約束を守ったのだからと、春樹は口外に訴える。
 だが、博也からの返答はなかった。
 また何か機嫌を損ねるようなことをしたのかと思うと、春樹は血の気が引く思いになる。
 春樹が息を潜めると、小さくまた淫猥な音が聞こえた。
 くちゅくちゅと、粘液が擦れる音。それに紛れて、甘い吐息が春樹の耳にかすかに届く。
 それで春樹は混乱した。
 先ほど達したと思っていたのに、まだ終わっていない。
「博也」
 慌てて春樹は手探りで博也の下半身に手を伸ばした。
 硬い幹を握ると、顔の上にある手が震える。
「お前が悪いんだからな......!くそ!」
「わ、悪かった」
 泣きそうな博也の声に、春樹はわけもわからず謝りながら優しく扱いていく。
 よもや、先に達した博也が春樹の痴態に煽られて、再度性器を硬くしてしまったとは思いもよらない。
 暗い視界のまま博也を絶頂まで導いた春樹に待っていたのは、罵詈雑言だった。
「むっつりスケベ!遅漏で鈍感で、サイテーだなお前!」
「......」
 理不尽だと思いつつも、自分がどちらかといえば鈍いことに最近気づいてきた春樹は、深く沈んだ。
 身体の反応も悪ければ察しも悪いなんて、ろくでもない。
 表情をあまり変えずに落ち込んでいる春樹に、博也はすぐには気づかない。
「もっと感度良くなれよ馬鹿!この不感しょ......」
 博也が気づいたときには、遅かった。
 真っ青になった春樹は、じんわり浮かびかける涙をそっと拭って博也から視線を逸らす。
「は、はる......」
「先にシャワー、浴びてきてくれ。ここは俺が片付けるから」
 2人で布団も敷かずに絡み合ったために、あちこちに残滓が残っている。
 それをふき取ってる春樹に、博也は焦って口を動かした。
「待ってるから、い、一緒にはいってやるよ!な!」
「ありがとう。でも冷えるから風邪引くといけない。頼むから先に入ってくれ」
「そ、そうか..................じゃ、じゃあ俺、勉強頑張るから、さ。その......」
 博也の口からその二文字が出たことに、春樹は僅かに笑う。
 そしてゆっくりと首を横に振った。
「俺なんかが、口を出して悪かった。博也には博也の考えもあるだろう。もう言わない」
 思いっきり引いた立場を示した春樹に、博也は嫌な汗を握った。
 その後は春樹に背を向けられて、拒絶を感じた博也はそのまま浴室に消える。
 博也がいなくなった気配を感じた春樹は、大きく息を吐いて自分の身体に触れた。
 胸を軽く撫でると、突起に爪を強く食い込ませて反応させる。
 が、痛み以外も感じない。なにやらごんごんと浴室から鈍い音が聞こえてくる中、悲しい気持ちで目を伏せた。
 出てきた博也は、額が真っ赤になっていた。その原因を思いやる余裕もないままに、春樹は入れ替わりにシャワーを浴びる。
 その日は別々の布団で寝た。
 いつものように入り込んでこない博也に春樹は軽くショックを受け、博也は博也でどう謝罪すればいいかわからずに頭を悩ませる。

 結果、2人とも一睡もせずに翌朝を迎えていた。


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