騙すなら、身内から-6
見れば、達樹も同様に小さく口を開けて真宏を見ている。
間抜け顔もキュート!......じゃなくて。
「悟とは、俺が付き合いますから」
は。え?
えええええええええ~?!
唐突な言葉に、俺は一言も発することが出来なかった。
「じゃ、失礼します」
俺を抱きかかえたまま、真宏はすたすたと部屋を出て行く。
「ちょっと、待っ」
バタン。
慌てて追いかけてきてくれた達樹が、ドアに邪魔されて見えなくなってしまった。
「あたっ」とか声が聞こえたから、きっとどこかぶつけたんだろう。
俺とは違って運動神経のよろしくない達樹は、どこか天然ぽいところがある。
計算で見せてるのかそうじゃないのか悩むところだが、今のはあきらかに天然で可愛い......。
「じゃなくて!」
「......急に耳元で大声出すなよ」
迷惑そうな顔をされて、「ご、ごめん」と俺は咄嗟に謝っていた。
って、そうじゃない!
「下ろせよ真宏!なんてこと言うんだ!」
我に返った俺がじたばたと暴れて、何とかして真宏から離れようと抵抗する。
だが真宏は俺を肩に担ぐと、そのまま寮の俺たちの部屋に向かった。
「はなせえええええ!」
俺の大声に、寮の部屋から何人か覗くように顔を出す。
「お、お願い!コイツとめて!......ぎゃん!」
見知らぬ誰かにそうお願いするが、懇願を口にしたとたんに、べしんと尻を叩かれた。
お、お、俺の尻を叩くだと?!
「真宏!」
ぎろりと睨みつけるが、真宏は飄々としている。
これだけは言いたくなかったが、仕方がない。
「や、やだやだやだぁ!お、犯されっ......」
黄色い悲鳴は、ずるっと下ろされたことで舌を噛んで止まった。
い、いてえ。
涙目で俺は口を押さえる。
「悟、とりあえず部屋に戻ろう」
小さく笑って低く俺の耳元で囁くと、俺の手を引いた。
真宏は、動じる気配はない。
いつもと同じだ。
騒いでいる俺の方が、なんか恥ずかしい。
「......」
と、とりあえず、ここで暴れてもしょうがないよな。
あとで、じっくりゆっくり聞かせないと、駄目だよな。
そう思った俺は、「大丈夫か?」とさっきの悲鳴を聞きつけてくれた人たちに、エンジェルスマイル(うげ)を振りまき、冗談だったと告げて、真宏と一緒に部屋に入った。
変な緊張感を感じたまま、俺は部屋に入り自分のベッドに座る。
同じように入ってくると思っていた真宏は、キッチンでごそごそ動いていた。
何をしているんだろうと、興味本位で真宏の手元を見ると、コーヒーを入れている。
「それ、俺に対しての嫌がらせかよ」
「は?......ああ、そう言えば飲み干してたな。お前」
......俺は舌を火傷してまで嫌がらせをしたというのに、この、なんだろう。全然ダメージを与えてなかったという事実は......。
若干打ちひしがれていると、真宏にマグカップを差し出された。
実家から持ってきたそのマグカップには、乳白濁の液体が入ってる。
「カフェオレ、飲めなかっただろ?」
「......」
目ざとい。
嫌がらせのことはあっさりと忘れながら、俺がカフェオレ飲めてなかったのを知っていたのか。
一口飲む。
ほどよい甘さが口に広がり、堪らず俺は真宏をにらみつけた。
「なんで、あんなこと言ったんだ」
「だってあの人、どう考えても細いし、か弱そうだし、お前を守るのは無理だろう」
簡易キッチンに寄りかかりながら真宏はコーヒーを傾ける。
くっそう。足が長いからって、そんな立ち方してんじゃねえよ。
「それでもいいの。俺は達樹が好きなんだから」
「俺は嫌だ。お前が悲しむのは見たくない」
こと、とマグカップをキッチンに置くと、真宏は大きな手で俺の頬を撫でた。
「俺だったらガタイもいいし、外見で舐められることもないだろう」
「でも俺は達樹が好きなの!守られるために恋人選ぶなんてしたくねえよ!」
てか、なんでこんな話になってんだ?
良くわからなくなって、頭が混乱する。
そこに真宏が質問を重ねるから、更に訳がわからなくなる。
「俺と、どっちが好き」
ど、どっちがって......。
された質問に思わず赤面する。
「達樹の方が、好き」
それは本当のことだ。
「俺とあの人の、好きの差って何」
真宏はめげずにそう続けてくる。
しつこいなあもう。
「裸想像して、何回でもオナニーできるとこ」
本当はもっと他にも性格が好きとか、俺の前でだけたまに見せてくれる、屈託のなく笑うところが好きとかあるけど、そんなことはコイツに言ったって無理だ。
欲情すらできなきゃ、好きでもなんでもねえもん。
俺、あの人オカズに何回だってチンポ扱ける。
きっぱり言い切ると、真宏は少し目を丸くした。
ちびちびと、真宏が入れてくれたカフェオレを飲む。
「俺、お前じゃ無理だもん」
「......来いよ」
ぐいっと手を引っ張られた。
「あ、っぶねえな!零したらどうすんだよ!お前が拭けよ!」
慌ててシンクにカップを置いたおかげで零れなかったが、急に行動する前に一言ぐらい声をかけて欲しい。
「零してないだろ」
「......お前、可愛くねえなあ」
いつの間にこんな可愛くなく育ったんだ?
ぶつぶつ呟いていると、部屋に戻った真宏はいきなり服を脱ぎ出した。
急な行為に、俺はきょとんとしてしまう。
「へ?なに風呂でもはいんの?」
「この話の流れで、風呂に入ったら俺馬鹿だろう」
「お前馬鹿だろうが」
成績とかの話じゃなくて、もっと一般常識的なところで。
俺が呆れた表情で見ていると、真宏は心底残念そうにため息をついた。
な、なんだこの、馬鹿に馬鹿にされてる感覚......。
むすっとするが、真宏は俺に構うことはなかった。
「どうだ?」
一糸纏わぬ姿になった真宏は、堂々と俺の前に立って尋ねてくる。
「ど、どうって......立派なものをお持ちでって言えばいいのか?」
「違う」
「何が違うんだよ。言っとくけど、バズーカ自慢したいなら無駄だから。俺だってあと一年後には、お前を追い越し」
途切れたのは、意図的じゃなかった。
真宏が俺の肩を掴んでベッドに押し倒してきたからだ。
その上、ヤツは、俺の股間を軽く撫で上げる。
それからおや、というような顔になった。
「なにすんだこの変態!」
ギャーギャー騒ぎながら、俺は真宏を押しのけようとする。
が、マウントポジションを取られているため、俺の動きは制限された。
真宏も武術を齧っているから、どこをどう押さえれば動けないかは良く知っている。
体格差で負けている俺は、完全に不利だ。
「悟、なんで勃ってないの?」
心底不思議そうに尋ねられた。
「お前で勃つかボケえええええ!お、俺のビックマグナムは、達樹専用なんだよッ!」
「ビックマグナム?......ああ、ポークウィンナー」
「し、失礼な!ウィンナーは中学生の頃だろ?!」
いくら見せ合いっこした仲とはいえ、その評価は酷すぎる。
ところが、真宏は俺に対して更に酷評を与えた。
「あの頃のお前は、どっちかといえばポークビッツだろ」
「!!!」
酷い言葉に、俺は真宏を罵りたいが声が出ない。
ぱくぱくと口を開閉する俺に、真宏は声なく笑った。
「もしかして、膨張率がいいとか?」
「み、見てろばかあ!」
俺はもう涙目だ。
今度は、軽く押すだけで真宏が離れてくれたので、起き上がってズボンの前を寛げて胡坐をかく。
そして俺はビックマグナムを扱き出した。
ちらっと見ると、真宏は興味津々で俺の手元を覗いている。
そして下半身にはぶらーんと大きなゾウさんが。
......っく!見てろ!大きくなればコイツになんて負けねえんだから!
意地でも勝ってやるとばかりに、俺はシコシコと扱いた。